東方二次小説

こちら秘封探偵事務所第13章 輝針城編   輝針城編 3話

所属カテゴリー: こちら秘封探偵事務所第13章 輝針城編

公開日:2019年09月14日 / 最終更新日:2019年09月14日

―7―

 というわけで、私たちは一旦里に戻った。寺子屋の庭で玄爺と別れ、事務所の戸締まりを確かめてから、自宅に戻って一息つく。とうに日は沈んで、あたりは夜になっていた。あのまま闇雲に突撃していたら、あとで慧音さんに頭突き&お説教コースだっただろう。
「あのふたり、大丈夫かしら?」
「まあ、何も見つからなかったらまたこっちに戻ってくるんじゃない?」
「戻ってこられても困るけど……」
 西の空に突撃していった九十九姉妹は、果たしてどうなったことやら。人質のはずが忘れられてしまった私たちは、いったいどうすればいいのだろう。
「で、私たちはどうするの? 作戦を練り直すっていうけど」
「メリーの目ならすぐ何か見つかると思ったんだけどね。どこかで結界がほつれて何か漏れてきてるとか、何かが隠れて魔力を放射してる、とかならメリーの高性能レーダーアイの出番だったはずなんだけど」
「だから人を結界探知機扱いしない」
「逆に言うと、メリーの目に何も見つからないってのがひとつの手がかりかもしれないわ」
「どういう意味?」
「何らかの魔力が幻想郷の野良妖怪や付喪神に影響を与えてるのは事実でしょう。その魔力の源がどこかにあるのも事実。でも、メリーの目に結界のほつれやら何やらが映らないとなると、どこかに常時あるものが漏れてきた異変ではない、ということが考えられるわね」
「……つまり、常時強い魔力に満ちた別の世界との間の結界がほつれて、勝手に漏れてきた魔力が幻想郷に影響を与えている――というような異変じゃない。この魔力の源がどこにあるにしても、その発生源は最近生まれたものである……ってこと?」
「ザッツライト」
「いくらなんでも論拠が薄弱じゃない? 私の目だって、どんな遠距離からどんな小さな隙間も見逃さないとかそういうレベルじゃないと思うんだけど。単に遠目じゃ見えなかっただけじゃないかしら」
「そうねえ。だから明日、明るいうちにもうちょっと調べましょ。少なくとも成美ちゃんのおかげで西の方という当たりはついたわけだし」
「漠然とした当たりねえ」
 結局、私の目がコキ使われるわけである。視力が落ちたら損害賠償を請求してやらねば。
 そんな話をしていると、不意に玄関のドアが叩かれた。こんな時間に来客?
「あら、九十九姉妹がもう戻ってきたのかしら?」
「事務所ならともかく自宅の場所は教えた覚えないわよ」
 私たちは顔を見合わせつつ、とりあえず玄関に顔を出す。ドアを開けると、そこには。
「――やあ、こんばんは。ちゃんと家にいたか」
 提灯を手にした上白沢慧音さんが、苦笑しながらこちらを見つめていた。
「あらこんばんは、慧音さん。ちゃんと家にいますわよ。どうしました?」
「こちらから依頼しておいてなんだが、君たちが消えた楽器を探して外をほっつき歩いているんじゃないかと心配になったんだ。もうすぐ満月だし、余計にな」
 私たちは思わず顔を見合わせる。――やれやれ、本当に危なかった。あそこで戻っていなければ完全に頭突き案件であったところだ。それはともかく、はて、九十九姉妹のことはなんと説明したものだろう。まさかさっきまで、その付喪神化した楽器と一緒に外に出てたとは言い出しにくい。
 ――あ、そういえば、太鼓のことを九十九姉妹に聞きそびれた。
「楽器の捜索の方はどうだ?」
「今のところ、これといった手がかりなしですわねえ。楽器が消えたのはここ二週間以内ですけど、盗もうと思えば誰でも可能だったということぐらいしか」
 いけしゃあしゃあと相棒はそう答える。まあ、現状ではそう答えるしかあるまい。正直に答えたらはたして何と言われるか。外出禁止ぐらいは食らいそうだ。
「そうか。何にしても今は里の外にはあまり出るんじゃないぞ」
「了解しておりますわ。ところで慧音さん、私たちの所在の確認のためだけに陽が暮れてからわざわざこちらまで? 心配していただけるのはありがたいですけど」
 蓮子がそう問い返すと、慧音さんは虚を突かれたように目を見開いた。
「それとも、何か事件ですかしら」
「……いや、まだ何かが起きたわけではない。だが、ちょっと様子を見ておきたくてな」
 慧音さんがちらりと外へ視線をやる。ははあ、と相棒は頷いた。
「蛮奇ちゃんですか。確かに、気になりますわね」
「……どうしてそう無駄に察しがいいんだ」
「名探偵ですから」
 こめかみを押さえる慧音さんに、蓮子が笑う。――ああ、なるほど。慧音さんは赤蛮奇さんの様子を見に行こうとしていたらしい。
 前回の記録でも少し触れたが、赤蛮奇さんは、里で人間に紛れて暮らしている飛頭蛮だ。夜な夜な首を飛ばして、水路沿いの柳の下で夜更けまで呑んでいた酔客を驚かすのを妖怪としての日課にしているため、里で暮らしていた方が何かと都合がいいのだと本人は言う。
 里の中の妖怪ということで、慧音さんはちょくちょく赤蛮奇さんの様子を見に行っている。普段の赤蛮奇さんは人間を驚かすだけで直接の危害を加えない、無害に近い妖怪だが……野良妖怪が凶暴化している現状では、確かに心配の種だろう。
「そういえば、影狼ちゃんは大丈夫なんです?」
「そっちは妹紅に様子を見るよう頼んである。まあ、影狼に何かあっても、そもそも里の外に出る人間が減っているから、迷いの竹林に急病人以外が近付くことはないとは思うが……。さすがに、私の身体もひとつしかないからな。里近隣の見知った妖怪全員に常時気を配ることはできない。歯がゆいところだが」
 腕を組んで慧音さんは答えた。まあ、影狼さんは妹紅さんに任せておけば安心だろう。迷いの竹林に人間が入るときは妹紅さんが道案内するのが通例だし、危険はあるまい。
「ともかく、もう日も暮れたんだから、君たちは大人しくしているんだぞ」
「いえいえ慧音さん、蛮奇ちゃんとは私たちも知らない間柄じゃないんですから、ご一緒させてください。私たちも蛮奇ちゃんが里の人を襲って里から追放されるようなことになったら寂しいですから」
 ああ、そう言うと思った。私はこっそりため息をつく。慧音さんは難しい顔をして蓮子を見やった。
「馬鹿を言うな。君たちに何かあってからでは遅いから、こうして釘を刺しにきたんだぞ」
「ええ、それはよーくよく承知しておりますわ。だけど私たち、蛮奇ちゃんのことが心配ですから。お友達ですもの、影狼ちゃんのことだって心配ですわ。ねえ慧音さん」
 両手を祈るように組んで、蓮子は身を乗り出して上目遣いに慧音さんを見上げる。その表情の意味を察して、慧音さんはこめかみを押さえて唸った。
 ――連れていってくれなきゃ勝手に行きます、という言外のプレッシャーをかけにいく蓮子と、その言外の意図は重々承知していながらも、言葉の上ではただ単に友人を心配しているだけの発言なのでそれ自体は怒れないという慧音さんのせめぎ合いである。慧音さんの保護者という立場を利用して、自分自身の身の安全を盾にとって脅迫にかかるのはわりと外道な振る舞いではないかと思うが、異変の調査のためならそのぐらいはするのが蓮子であるからして。
「どうして君たちはそういつもいつも私を困らせることを言うんだ」
「あら、慧音さんを心配させたくないからこう言ってますのよ。私たちだって慧音さんが一緒の方が安心ですし、蛮奇ちゃんの様子を確認できればなお安心ですわ」
「………………」
「ねえ慧音さん、里の中のことですよ?」
「…………わかった、そこまで言うなら一緒に来なさい」
 根負けした慧音さんががっくりと肩を落とす。蓮子の横で、私は小さくごめんなさいと頭を下げるしかなかった。




―8―

 そんなわけで、慧音さんと夜の里の運河沿いを三人で歩いていく。
 里北方の運河沿いは飲み屋街で、赤蛮奇さんが縄張りにしているのはその手前あたりのはずだ。野良妖怪が凶暴化していると言ってもそれは里の外の話、飲み屋街には今夜も提灯の明かりが並んでいる。仕事を終えた近隣の大人たちが飲んだくれているのだろう。
「蛮奇ちゃんが人間を驚かすのって、飲み屋が閉まる頃ですよね? まだ早くないです?」
「ああ、だから自宅の方に行ってみる」
 そういえば、赤蛮奇さんの自宅がどこなのかは聞いたことがなかった。里に住んでいるのだから、当然どこかに自宅があるわけだ。まさか空き家や物置小屋に勝手に住み着いているわけでもあるまいし、だいいちそんな暮らし方をしていたら目立ってしまう。おそらく低所得層向けの長屋にでも住んでいるのだろう。
 こっちだ、と慧音さんが細い路地に入ろうとした、そのとき。
「うー、らー、めー、しー、やー!」
 近くの柳の木の上から、そんな大きな声。振り向くと、ふわふわと降りてくる影ひとつ。
「おどろけー! ばあー!」
 地面に降りたって、長い舌を垂らしたなすび色の傘をこちらに突きつけるのは、唐傘お化けの多々良小傘さんだ。わー、びっくりしたー、とリアクションしてあげるべきだろうか。
「……なんだ、君か」
「あら小傘ちゃん、こんばんは」
「おどろけっつってんでしょおおお! せっかく久々に里の中に出張しに来たのにいいい!」
 傘を振り回して小傘さんは吼える。普段なら「よよよ、ひもじいの……」とくずおれるところなのに、今夜は妙にテンションが高い。これも例の魔力のせいだろうか。
「おどろけー、おどろけー、あなたはだんだんびっくりしてくるー」
 催眠術のように傘を振る小傘さん。いや、だんだんびっくりするってなんだ。
「どうしたの小傘ちゃん。酔っぱらってる?」
「酔ってないし! 人間驚かせに来ただけだし! 夜は妖怪の時間! 人間はあちきに驚かされるための生き物! もう時代遅れとは言わせない! これからは唐傘お化けが時代の最先端、まさにあちきの時代でありんす! 明日はホームラン! とおりゃー!」
 よくわからないことを叫んで、小傘さんは慧音さんに躍りかかる。慧音さんは手にしていた提灯を蓮子に手渡すと、右手でその傘を受け止め、左手で小傘さんの腕を掴み、そのまま躍りかかってきた勢いを受け流すようにしてぐるんと小傘さんの身体をひっくり返した。
 どしん、と背中から地面に落ちて、小傘さんは何が起こったのかわからないという顔で夜空を見上げて目をしばたたかせる。ぱんぱんと手を払い、慧音さんは腰に手を当ててそれを見下ろした。おお、慧音さんの体術は初めて見た。合気道か何かだろうか?
「人間に直接危害を加えようとするようなら、見過ごせないぞ」
「うおお? ま、まだまだでありんす! おどろけー!」
 立ち上がった小傘さんは、慧音さんに傘を向けてばっと開いた。べろん、と傘の長い舌が慧音さんの眼前に伸びる。しかし慧音さんは動じることなく、その傘の舌をむんずと掴んで引っぱった。
「い、痛い痛い痛い! やめてやめてやめへぇぇぇ!」
 悲鳴を上げる小傘さん。慧音さんが手を離すと、小傘さんは尻餅をついて半泣きで呻いた。
「うううう……どうしてこうなるの。あちきの時代が来たはずなのにぃ」
「いったいどうした。君まで凶暴化してしまったのか?」
「これからは道具の時代なのよぉ。道具が人間を使う時代、人間が傘を忘れる時代は終わり、傘が人間を忘れてやる時代が来たはずなの! さあ、力みなぎる、あちきが相手だ!」
 立ち上がろうとした小傘さんに、慧音さんがデコピン一発。
「うううううううあああああ」
 悲鳴をあげて小傘さんはしゃがみこんだ。なんというか、南無。
「ひどい、ひどい、私が何をしたっていうのぉ……。墓地に全然人間が来ないからこっち来ただけなのにぃ」
「お、元に戻ってきたか? よしよし、落ち着け。どうして襲いかかってきたんだ」
「ううう……」
 かがんで小傘さんの頭を撫でる慧音さんと、涙目の小傘さん。なんというか、寺子屋の子供を相手にしているようにしか見えない。
「人間を襲うのは妖怪の本分じゃないのさあ」
「それはそうだが、君らしくはないな」
「あちきは妖怪としての本分を全うすることに目覚めたでありんす! うおー!」
 がばっと立ち上がり、再び傘を大きく振り上げる小傘さん。――と、その背後に。
「あっ」
 ぼんやりとした光とともに、小傘さんの顔の後ろあたりに接近する影ひとつ。宙に浮いたボールのようなその球体に私たちが視線を向けると、小傘さんもそれを追って振り向き、
 ――そこにあったのは、宙に浮く生首。
「ぴぎゃあああああああ!?」
 小傘さんが悲鳴をあげてたたらを踏む。多々良小傘さんがたたらを踏むって変な言い回しね、と私がぼんやり思っていると、そのまま小傘さんはバランスを崩し、
「はへ? ――ふわああああっ!?」
 ばしゃーん。大きな水音をたてて、里の中心を流れる水路へと派手に転落した。私たちが思わず水面を覗きこむと、目を回した小傘さんがゆるやかな水路の流れに乗って下流へと流されていく。おばあさんが川で洗濯をしていると、どんぶらこ、どんぶらこと大きな傘が流れてきました。中からは玉のような小傘さんが――って、そうじゃない。
 小傘さんを驚かせたその生首は、慧音さんが何か声をかけようとする間もなく、ふわふわと闇の中へ飛び去って行く。慌てて慧音さんがその後を追い、私たちも小傘さんは放っておいてそれを追いかけた。まさか小傘さんも死にはすまい。この記録ではいつもこんな扱いでごめんなさい小傘さん。
「赤蛮奇!」
 柳の下に向かって、慧音さんがそう声をあげる。しかし、柳の下の影はくるりと身を翻すと、闇の中に溶けるように消えてしまった。慧音さんが「待て――」と声をあげるが、もう街の闇に紛れて、それらしき影は見当たらなかった。
 今の生首は、間違いなく赤蛮奇さんだったが……。もし彼女も魔力の影響で凶暴化しているなら、なぜ慧音さんに追われて逃げたのだろう? 小傘さんは襲いかかってきたのに。
 ――その後、慧音さんに「やはり君たちは帰りなさい、小傘ですら人間を襲う状況だ、いざとなったら守れないかもしれない」と言われ、私たちはそのまま自宅に帰されてしまった。
 おかげで、赤蛮奇さんの住所はわからずじまいである。翌日慧音さんに聞いたら、赤蛮奇さんの自宅は留守だったらしい。――いったい、赤蛮奇さんはどうしたのだろう?




―9―

 何か色々と釈然としないままに夜も明け、翌日。
 寺子屋の授業を終えて。自警団に向かった慧音さんを見送ってから事務所に戻ると、思わぬ顔が私たちを待っていた。
「妹紅?」
「ああ、勝手に上がらせてもらって悪い」
 事務所の座布団に腰を下ろしていたのは、なんと藤原妹紅さんである。
「いや、別にいいけど、どうしたの? 里に来るなんて珍しいじゃない」
 蓮子が目をしばたたかせる。迷いの竹林で暮らしている妹紅さんだが、全く里に来ないわけではなく、たまに妹紅さんの方から慧音さんを訪ねたりもしているようだ。とはいえ、人間の集まりとは距離を置いている彼女が里に来ることは確かに珍しい。
「いや、お前たちにちょっと相談があってな」
「あらあら、メリー、いよいよ我が探偵事務所も商売繁盛の兆しよ」
「収入に結びつかないのを商売繁盛とは言わないと思うわ」
 まあ、際限なく増え続ける閑古鳥を貯蔵し続けるよりはマシだろうけども。
「それで、相談って? 慧音さんへのプロポーズの言葉とか? 『私は慧音のことを永遠に覚えていたい。私の記憶の中で永遠に一緒に生きてくれないか』とかオススメよ」
 ああ、妹紅さんにそんなことを言われたら、慧音さんがどんな顔をするか想像に難くない。
「なんでそんな恥ずかしい台詞がさらっと出てくるんだ。というかそんな話じゃない」
 実際に慧音さんにそう言うところを想像したのか、ちょっと顔を赤くして妹紅さんが唸る。
「あら残念。じゃあ何? ひょっとして影狼ちゃんのこと?」
「いや、影狼は影狼で心配なんだが……。最近は満月が近いせいか家に引きこもって出てこないんだよな、あいつ」
「ああ、満月になると毛深くなるから嫌っていつも言ってるものね」
 人間と狼男のハーフである影狼さんは、狼男の父親を早くに亡くして、人間の母に育てられたという。そのせいか彼女のメンタリティは人間寄りで、満月の影響で妖怪の血が濃くなると狼の体質が表面に出て毛深くなってしまうことを気にしているのだ。
「相談ってのは、影狼じゃなくて、わかさぎ姫のことなんだ」
「姫の?」
 おや、意外な名前が出てきた。というか、それってまさか……。
「今朝、久しぶりに霧の湖の方に釣りに行ったんだが」
「まさか、姫に襲われた?」
「そのまさかだ。おまけに氷精にまで襲われて、まったく釣りどころじゃなかった」
 わかさぎ姫だけではなく、チルノちゃんもか。今回の謎の魔力が弱い妖怪ほど強い影響を受けるというなら、確かに妖精は強い影響を受けてもおかしくない。光の三妖精あたりは大丈夫だろうか?
「姫が妹紅を襲うなんて……ねえそれ性的な意味じゃないわよね?」
「馬鹿言うな。弾幕ごっこの話だよ」
「まあそうよね。そうか、確かに姫も一種の野良妖怪だし、戦闘力の高い格上の妖怪ってわけじゃないから、今回の異変の影響受けるわよね。――ねえ、妹紅はなんか人間を襲いたい気分になったりしてない?」
「私か? 私はいつも通りだよ。どこか変なところがあるか?」
 憮然とした顔で妹紅さんは答える。まあ、私から見てもいつもの妹紅さんだと思う。
「おめでとう、たぶん妹紅は幻想郷の中でも強者って証拠よ、それ」
「なんだそりゃ? どういうことだ」
 怪訝そうに眉を寄せる妹紅さんに、蓮子がこれまでの調査で判明している事実をかいつまんで告げる。「なるほど」と妹紅さんは腕を組んで頷いた。
「野良妖怪が凶暴化してるとしか聞いてなかったが、そういう法則性があったのか。確かに輝夜の奴もいつも通りだったな」
「永遠亭の兎たちは?」
「てゐの奴はいつも通りで、鈴仙ちゃんは不機嫌そうだったな。他の兎たちはどうだか知らん。あいつらいつも好き勝手遊んでるだけだからな。このところは案内する人間もいないし」
 永遠亭の蓬莱山輝夜さんと八意永琳さんとは長年の敵対関係にある妹紅さんだが、竹林の先住民である因幡てゐさんら兎たちと、永遠亭の下っ端である鈴仙さんとは別に敵対していないらしい。妹紅さんが鈴仙さんを「鈴仙ちゃん」と親しげに呼んでいることを知ったときには私も驚いたものだ。よく見知った相手にも意外な人妖関係があるものである。
「あとは妹紅、身近なものが付喪神になったりしてない?」
「あいにく、私の家に付喪神になるほど物はない」
「そうよねー」
 妹紅さんの家はとかく物が少ない。不老不死の身で長年放浪生活を送ってきたことによるミニマリズム的生活様式が身に染みついてしまっているらしい。
「で、お前らは慧音に内緒でその魔力の源を調べてるわけか?」
「ま、そういうこと」
「相変わらず無茶してるな。異変は霊夢や魔理沙に任せておけばいいじゃないか」
「何を仰る妹紅さん。世界への好奇心を失うのは精神の老化の始まりよ! 常に子供の好奇心と知識欲を持ち続けることが若々しくある秘訣なのよ」
「私にそれを言うのかよ」
「妹紅にだから言うのよ。私たちと友達になってから気分は若返ったでしょ? 蓬莱人も精神まで不老じゃないんだから、心の若々しさを保っていかなきゃ」
「……まあ、それはそうだな。蓮子が私の身体のことを知ってなお友達になりたいって言ってくれたのは、慧音と出会って以降では一番幸せなことだったかもな。感謝してるよ」
 微笑んで頷いた妹紅さんに、蓮子が「あらやだ、口説くのは慧音さんだけにしてよ」と頬を掻く。まったく、人妖たらしめ。
「それで妹紅、結局妹紅の相談ごとって?」
「ん? ああ、そう、わかさぎ姫に襲われる心当たりがなかったからな、お前たちなら何か知ってるんじゃないかってことだよ。結局、その魔力のせいってことでいいのか?」
「たぶんね。どうも弱い妖怪ほど強気になって見境なく襲ってくるみたいねえ」
「厄介な話だな。霊夢の奴が動きだしたら片っ端から退治されるやつじゃないか。影狼も心配だし……解決するには元を絶つしかないか?」
「お? どしたの妹紅、異変解決に前向き?」
「ああ。できれば大事になる前に、この状況を解決したい」
 妹紅さんの思わぬ言葉に、私たちは顔を見合わせる。いったいどうしたのだ? 普段は世俗との関わりを絶って竹林に籠もっている妹紅さんが、よもや異変解決に乗り出すとは。
「というわけで蓮子、メリー。協力してくれないか」
「ええ? いや、それは一向に構わないけど、どうしたの? 妹紅が異変解決だなんて」
 目をぱちくりさせる蓮子に、妹紅さんは頬杖をついて嘆息する。
「この前の騒ぎのこと、忘れたわけじゃないだろ?」
「この前って、こころちゃんの希望の面探し?」
「そうだ。あのとき、里まで影響が出たってんで慧音が背負わなくていい責任まで背負い込んでただろ。慧音本人は活き活きしてたけど、私としては見てられん。なんもかんも慧音が背負い込む必要なんかないっていうのに……」
 これに関しては、前回の記録を読まれている方には説明不要だろう。
「今回も、野良妖怪が凶暴化してるってんで慧音がピリピリしてるだろ? また慧音が勝手に不要な責任被るようなことにはなってほしくないんだよ。里の人間に犠牲者が出たりする前に解決してやりたいんだ」
「ははあ。その気持ちはたいへんよくわかるけど。それだったら霊夢ちゃんか魔理沙ちゃんに相談するんでもよくない? 本職だし、知らない相手じゃないんだし」
「霊夢や魔理沙が『慧音のために』動いてくれると思うか?」
「あー……」
 確かに、そのふたりには慧音さんにそこまでの義理はなさそうだ。まして霊夢さんは基本的に自分に被害が及ばない限りは動かない主義だし。
「それと、蓮子、メリー。お前たちに相談してる理由はもうひとつある」
「うん? なに?」
「――お前ら、いつも霊夢が異変解決する前に、異変の首謀者のところにたどり着いてるだろ」
 にやりと、妹紅さんは笑う。私たちの過去の異変での活動記録については、蓮子の武勇伝としてちょくちょく妹紅さんに話しているので、妹紅さんがそれを知っているのは当然なのだが。
「ええ? つまり私たちが一緒なら霊夢ちゃんより先に異変の首謀者にたどり着けるだろうってこと?」
「そういうことだ」
「……妹紅さん、あの、それはいつも、たまたまだと思うんですけど」
 思わず私が口を挟むと、「いや」と妹紅さんは首を横に振った。
「今までにお前たちが首を突っ込んだ異変で、お前らは必ず霊夢より先に首謀者にたどり着いてるんだろう? それは、絶対偶然じゃない。ことにこの幻想郷においてはな」
 幻想郷に迷い込んだ先が紅魔館の図書館だった紅霧異変。
 アリスさんとともに、白玉楼に送りこまれた春雪異変。
 誰よりも早く伊吹萃香さんの姿を見つけた百鬼夜行異変。
 贋物の月が出た瞬間に蓮子が倒れて永遠亭に担ぎ込まれた永夜異変。
 霊夢さんより先に守矢神社に案内された守矢神社騒動。
 早苗さんとともに天界に乗りこみ、天子さんと戦った地震騒動。
 地底に落っこち、首謀者のお燐さんのところまでたどり着いた怨霊異変。
 そもそも私たち自身が首謀者だった宝船騒動。
 ナズーリンさんの依頼で調査に行き、青娥さんに捕まった神霊異変。
 そして、霊夢さんが解決しようとする前に異変を解決するため、マミゾウさんに協力することになった、先日の感情異変――。
 大結界異変のように、誰を首謀者と呼ぶべきかという異変もあれど、少なくとも首謀者が誰かはっきりしている異変では、私たちはいつも霊夢さんに先行している。
「蓮子、メリー。お前たちが必ず霊夢に先行して異変の首謀者にたどり着くなら、それはもうお前たちの能力なんだよ。少なくとも、お前らは霊夢から、なぜかいつも自分より先に異変の首謀者のところに首を突っ込んでる連中と見なされてるはずだ。《博麗の巫女より先に異変の首謀者の元にたどり着く程度の能力》を自称するには充分すぎる実績だよ。そして今回も、お前たちは霊夢より先にこの件の調査に動いているわけだからな」
 ――ジンクスや法則性は、発見された瞬間に無効化されると言われる。それは結局のところ、それが疑似相関、つまり対象との間に何の因果関係もない偶然の一致に過ぎないからだ。
 私たちが常に霊夢さんに先行することだって、偶然に過ぎない――と私は思う。
 しかし、幻想郷は認識が力を持つ世界だ。因果関係とは結局のところ、人間の認識が生み出す物語に過ぎないとすれば――幻想郷では、ジンクスは必然たりうる。因果関係と相関関係の間に差はないということになってしまう。
 私たちが常に霊夢さんに先行することは、私たちの能力である――という解釈がなされれば、それが事実となり、私たちに能力として備わってしまい得るのが幻想郷である。
 だから――この場においては、妹紅さんの方が圧倒的に正しいのである。
 妹紅さんは不敵な笑みを浮かべて、私たちを見やった。
「お前たちの、その能力を買いたい。――霊夢より先に、私がこの異変を解決するために」

感想をツイートする

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>

この小説へのコメント

  1. 蓮メリに最強格の護衛&依頼者(?)来たりかぁ。っていうかレイマリの信用度がががが(笑)不覚にも「あー」って同じ反応してしまった。これは深秘につながるフラグかな?次回が楽しみです!

  2. おお、もこたんが今回の異変解決に動くとは!緋想天編のように妹紅ifルートかな?
    どんな展開になるかますます楽しみです!

  3. まさか妹紅が異変解決に動こうとするとは思わなかったな、全くの予想外だったw
    確かに蓮メリはレイマリより早く首謀者の元に着いてるからな…と言ってもそれが能力になるのかどうかはわからんがw

一覧へ戻る