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こちら秘封探偵事務所第5章 花映塚編   花映塚編 第9話

所属カテゴリー: こちら秘封探偵事務所第5章 花映塚編

公開日:2016年10月29日 / 最終更新日:2016年10月29日

花映塚編 第9話


―25―


 太陽の畑に、軽快で陽気な、しかしどこか少し物寂しい旋律が響き渡っている。
 咲き誇る無数の、季節外れの向日葵たち。その上を、踊るように飛び回る幽霊たち。
 妖精が舞い、風に向日葵がざわめき、その風に乗って音はどこまでも運ばれていく。
 ルナサ・プリズムリバーのバイオリンと。
 メルラン・プリズムリバーのトランペットと。
 リリカ・プリズムリバーのキーボード。
 その音に導かれるように、幽霊が集まり、花がざわめく。それはさながら、ハーメルンの笛吹きのように。幽霊を導いていく、騒霊の音色。騒楽の旋律。
 私たちは、すり鉢状になった太陽の畑の縁の部分から、その光景を見下ろしていた。
「やってる、やってる。――さて、彼女はどこかしら?」
 帽子の庇を弄りながら、相棒は唇の端を釣り上げて笑った。
 私はそんな相棒に肩を竦めながら、太陽の畑の中に視線を巡らし――向日葵の中に、薄紅色の日傘を見つけた。あれだ。彼女はここにいる。
「蓮子、あそこ」
「見つけた? ――ああ、あれね。よし、行くわよ」
 相棒は私の手を取り、坂道を駆け下りた。相棒に引きずられながら、私は向日葵の迷路の中に足を踏み入れる。騒霊楽団の音色と、頭上を飛び交う幽霊に導かれるように、私たちは向日葵の中を進み――。
 そして、その中に鮮やかに咲く、赤い花を見つけた。
 チェック柄のスカートと、その手の日傘は、去年出会ったときと変わらない。
「風見幽香さん」
 相棒がそう呼びかけると、彼女はゆっくりと振り返り、訝しげに目を細めた。
「あら、人間? 珍しいわね。騒霊楽団のライブを聴きにきたの? それに、どうして私の名前を知っているのかしら」
 どうやら、彼女は私たちのことを覚えていないらしい。相棒は帽子を脱いで一礼した。
「記憶にないのも仕方ないですね。去年、一度会っただけですから」
「去年?」
「稗田阿求さんが取材にいらしたときに、同行していた者です」
「――ああ、思い出したわ。確かにいたわね」
「改めて、宇佐見蓮子と申しますわ。こっちはメリー。里の人間です」
「ふうん。今日は、あの子は一緒じゃないようね。それで、何をしにここへ? 私にいじめられに来たのかしら?」
 どこか獰猛な笑みを浮かべて、幽香さんはぱちんと傘を閉じた。ひどく剣呑な気配に思わずたたらを踏んだ私の横で、相棒は帽子を被り直して「滅相もない」と首を横に振った。
「幻想郷が、花だらけになっているこの異変。この太陽の畑も、こうして季節外れの向日葵に埋もれている、この異変について、独自に調べているところでして」
 相棒の言葉に、幽香さんは目をしばたたかせる。獰猛な気配が消えて、私はほっと一息。
「あら、天狗の仲間? それとも巫女のかしら」
「射命丸さんと霊夢ちゃんですかね。どちらも知り合いですが、特に協力関係では」
「顔が広いのね」
「それほどでも」
「じゃあ、いいことを教えてあげましょう」
「――というと?」
「残念ながら、この異変の犯人は、私だということよ」
 楽しげな笑みを浮かべて、幽香さんはあっさりとそう言った。
「これはこれは――」
 意表を突かれたように、相棒は顎に手を当てて首を捻る。
「本当なら、是非詳しいことを聞かせていただきたいのですが。何が残念なんです?」
「残念なのは、それが嘘だということよ」
 なんだそれは。
 どう反応していいか解らない私たちの前で、幽香さんは傍らに佇む向日葵を撫でた。
「勝手に花に咲かれて、私も困っているのよ。まあ、三途の川のボトルネックが解消されれば、そのうち幻想郷は元通りになるでしょう」
「――幽霊が取り憑いて、季節外れの花を咲かせているということですね?」
 蓮子の言葉に、幽香さんは振り向いて目を細める。
「あら、もう異変の真相を知っているんじゃない。それならもう調べることはないはずよ」
「果たして、そうでしょうか?」
「どういう意味かしら?」
「六十年に一度、博麗大結界が緩み、外の世界の大量の死者の幽霊が流れ込んできて、花に取り憑いて季節外れの花を咲かせる――それがこの異変の真相だと、阿求さんから伺いました。閻魔様も同じようなことを仰っていましたし、大枠では、それが真相なのでしょう。だけど、それでは説明のつかないことがあるということを、私たちは知っているんです。諸般の事情で」
「説明のつかないこと?」
「幽霊が多すぎるんですよ。私たちの知る限り、今、外の世界では、これほど大量の死者は出ていないはずなんです。ひとりの死者から複数の幽霊が生じるとしても、花のひとつひとつが死者の霊だとしたら、あまりにも幽霊が多すぎる。外の世界では、万単位の死者が出るような大惨事は起きていないんです」
「――外の世界のことを知っているの? 貴方たち、何者なのかしら」
「ちょっとワケ有りの外来人ですわ。――そしてもうひとつ、一昨日になって一斉に花が咲き始めたこと。あのタイミングは、ひどく人為的なものを感じました。この異変は、単なる自然現象ではない。自然現象に、誰かの意志が介入している。そう考えた方が自然です。――だから、花畑の妖怪である風見幽香さん、貴方に伺いたかったんですよ。この異変の犯人に、貴方なら心当たりがあるのではないかと、そう思いまして」
 蓮子の言葉に、幽香さんはただ沈黙を返し、
「風見幽香さん、貴方は知っていませんか? 幻想郷中に花を咲かせている犯人を。幽霊を花に取り憑かせている犯人を。――いえ、この言い方は正確ではありませんね」
 相棒はそこで言葉を切って、そして告げる。
 この異変の核心。相棒が辿り着いた〝真相〟を示す言葉を。

「――花の幽霊を咲かせている犯人に、心当たりはありませんか?」





―26―


 幽香さんが軽く目を見開き、それから「――ふうん?」と鼻を鳴らした。
「宇佐見蓮子といったかしら。花の幽霊というのは、どういう意味?」
「文字通りの意味ですよ。かつて咲くことのできなかった花たちの幽霊です。この幻想郷に増えている幽霊は、人間だけのものではない。まして虫や獣のものだけでもない。今、幻想郷を花で埋め尽くしているのは、花の幽霊なんです。――幽霊とは、気質の具現だと聞きました。生けるものは皆、気質を持っているとも。それならば、植物も生物であるのだから、植物からも幽霊は生じるはずなんです」
 ――植物も生物。言われてみればその通りなのだ。だが、私にとっては完全に盲点になっていた。植物から幽霊が生じる、なんて考え方が、果たして今まで私たちにあっただろうか?
「植物の幽霊が存在しうるなら、外の世界の死者の数と、幻想郷の幽霊の数の不整合は容易に説明がつきます。もちろん、結界が緩んで紛れ込んできた人間の幽霊もいるのでしょう。彼岸桜に取り憑き、紫の花を咲かせる罪人の魂もあるのでしょう。ですが、今幻想郷に満ちている花、その正体である幽霊の大半は、植物の幽霊だと考えられます。そうでなければおかしなことが多いんです」
「おかしなこと?」
「まず第一に、六十年前にも同じことが起きたはずのこの異変が、ほとんど誰の記憶にも残っていないこと。第二に、この異変が危険性のないものであるとされていること。そして第三に、阿礼乙女がこの異変の情報を事前に開示していなかったこと。この三点です。
 何がおかしいのか。一番重要なのは第二の疑問です。この異変には本当に危険性はないのか。冷静に考えてみましょう。季節外れの花が咲き乱れることが、本当に幻想郷に何の影響も及ぼさないのか。そんなことはありえません! 夏の花や秋の花が、全て春の間に咲いてしまったら、幻想郷の自然のサイクルは崩壊し、人間の里の農作物にだって多大な影響が出るはずなんです。この異変は、吸血鬼が紅い霧で太陽を遮ったり、冥界に春が集められて冬が終わらなかったり、夜がいつまで経っても明けなかったりする異変のように、幻想郷に多大な影響を与える、解決されなければならない重大な異変のはずなんです。
 それなのに、この異変は危険性がないものとされている。六十年前に起きたらしい同じ異変は誰の記憶にも残っておらず、阿礼乙女がこの異変の情報を周知しなかったことは、この異変が危険性のないものである証拠です。しかし、発生している現象は危険なはず。だとすれば、前提が間違っていると考えるしかありません。
 つまり、今幻想郷には、季節外れの花など咲いていないんです。再思の道の彼岸花も、竹林に咲いた竹の花も、そして今ここに咲き乱れている向日葵も、全て生きた花ではない。生命のない、花の幽霊なんです。だからこそ、この異変は危険性がなく、自然解決する異変として、博麗の巫女が解決を放棄したんです。実際には季節外れの花が咲き乱れる異変など起こっていないんですから。季節外れの花が全て幽霊だからこそ、この異変には危険性がないんです。
 霧の湖に住んでいる氷精のチルノちゃんは、ちゃんと知っていましたよ。この異変が六十年ぶりだということも、咲き乱れている花が幽霊だということも。自然の具現たる妖精だけが、この異変の真実を――植物からも幽霊が生まれるということを知っていたんですね」
 相棒の長広舌に、幽香さんは苦笑した。
「じゃあ、貴方は今、ここに咲いている向日葵が全て幽霊だと言うのね?」
「ええ、そうなりますね」
「幽霊ならば、この向日葵には触れられないのではなくて?」
「では、試してみましょうか」
 相棒はそう答え、傍らの向日葵の茎に手を伸ばす。
 その手は、向日葵の茎を――すり抜けない。
「ほら、この通り、この向日葵にはちゃんと実体があるのよ」
 愉しげに幽香さんは言うが、相棒は驚いた風でもなく、「ええ」と頷いた。
「それは知っています。再思の道の彼岸花にも実体はありましたしね」
「じゃあ、貴方の話は成立しないのではないかしら?」
「いえいえ。幽霊は実体のないものとは限りません。私の知り合いにも、亡霊の姫様や半人半霊の庭師がおりまして、その幽体には触れることが出来ましたし――今そこでライブをしている騒霊の皆さんも、実体はあるでしょう。――強い未練を残した人間が幽霊ではなく亡霊になり、実体に近い姿を持つならば、強い未練を残した花の幽霊も、実体に近い姿を持った、亡霊に近い存在になり得るのではないですか?」
「――花に、未練などという感情があると考えるなんて、随分ロマンチックな人間ね。花はただ、あるがままにそこに咲くだけよ。咲けない花もある。摘み取られてしまう花もある。踏みにじられてしまう花も。けれど、それもまたあるがままの自然の一部」
「ええ、そうでしょう。だからこそ、私はこれを人為的な異変だと考えるんです」
「――――」
「咲けない花、摘み取られた花、踏みにじられた花――その命を全うできなかった花たち。花そのものに未練という感情はないかもしれません。けれど、花を愛する強い妖怪が、そうした花たちに対して、悼む心を抱え続けていたならば。花の幽霊に実体を与えているのは、その強い妖怪の力なのではないでしょうか。花の幽霊に、たとえ仮初めでも、花を咲かせてやりたいと願う一番のロマンチストは、そんなとてつもなく強くて恐ろしい、花を愛する妖怪――。騒霊楽団は、ひとりの少女の願いが生んだ存在だとルナサさんが言っていました。ならば、ひとりの妖怪の願い、その力によって、花の幽霊が実体を持って咲くことだって、あり得るのではないでしょうか」
 蓮子は帽子の庇を持ち上げて、幽香さんを見つめた。
 幽香さんは一度閉じた日傘をもう一度広げ、その下に顔を隠す。
 その表情が伺えない中で、相棒は言葉を続ける。
「これは、私の想像です。そんな花を深く愛する妖怪は、咲けなかった花たちのために、鎮魂の儀式を行おうとした。その生を全うできなかった花の魂を鎮め、弔う儀式を。季節を問わず、あらゆる花を分け隔てなく弔う。――その妖怪は、その儀式を滞りなく行うために、人間の里の阿礼乙女に口添えをしたのです。この異変のことを伝え、その情報を開示しないように口止めを行った。咲き乱れる花が、花の幽霊であるという事実を隠すように」
「あらあら――この異変の犯人は、何のためにそんなことを? どうして、咲き乱れる花が幽霊であることを隠さないといけなかったのかしら?」
「この儀式を、大結界の緩みによって外の世界から幽霊が流れ込んだ異変の中に紛れ込ませてしまうためです」
「――――」
「もちろん、大結界が緩んで外の世界の人間の幽霊が流れ込んでくるのは事実でしょう。犯人は、この六十年に一度の機会に、この花の幽霊の異変を紛れ込ませたんです。幽霊を隠すなら幽霊の中というわけですね。霊が彼岸花や彼岸桜に取り憑くという現象に乗じて、季節外れの花の幽霊を咲かせるという異変を起こしたんです。それはただひとえに、この儀式を誰にも邪魔させないために」
 幽香さんは答えない。
「異常な数の花が咲けば、異変として博麗の巫女や好奇心の強い人間の魔法使いなどが動き出すことを、犯人は知っていた。だから、彼女ら異変を調べる者を、死神や閻魔の方へと誘導することで、この異変の真相を、大結界の緩みという真相の中に隠蔽してしまおうとした。博麗の巫女が調査に出ても、閻魔様のもとに辿り着いて結界の緩みという〝真相〟を知ってしまえば、それ以上解決に動くことはないと、犯人は読んでいた。異変を隠すなら異変の中、であり、真相を隠すなら別の真相の中、というわけです。人間は自力で調べて得た結論を疑うことはなかなかしませんからね。それは博麗の巫女も、例外ではないということです」
 得々と語る相棒の横で、私は呆れ混じりに息を吐いていた。木を隠すなら森の中、殺人を隠すなら連続無差別殺人の中である。この異変が六十年周期で定期的に起こるものだったからこそ、それが可能になったというわけだ。
 だとすれば、フーダニットの絞り込みも可能となる。すなわち――。
「さて、では犯人はなぜ、皆が忘れていた、大結界の緩みという異変が起きることを知っていたのか? それは、犯人が大結界の成立時の阿礼乙女と交友があったからではないでしょうか。六十年に一度、結界が緩み、外の世界の幽霊が流れ込む異変が起こるだろうということを、犯人は百二十年前の阿礼乙女から聞いていたのでしょう。つまり犯人は、稗田阿求さんの前世から取材を受けたことがある、花を愛する妖怪。幽霊の花を香らせる力を持った妖怪。――そうですよね? 風見幽香さん」
 日傘を持ち上げ、風見幽香さんが再びその顔を見せた。
 そこに浮かんでいるのは、ただ、どこまでも花のような笑顔だった。





―27―


「面白い人間がいるものね。そこまで勝手な想像を広げられるというのは、大した才能だわ」
「お褒めにあずかり恐悦至極に存じますわ」
「褒めてはいないわよ。――その自信満々の態度、苛めたくなってしまうわね」
 不意にその笑みが剣呑に歪み、私はぞっとたたらを踏む。
「冗談よ。怖がらなくていいわ」
 いやいや、怖いです。私は蓮子の背中にしがみつく。蓮子は私を庇うように手を広げた。
「気分を害されたなら、謝りますが」
「別に。人間風情に何か言われて気にするほど狭量ではないわよ。ただ――」
「ただ?」
「まあ、貴方がそれで全てを解き明かしたつもりなら、そう思っていればいいでしょう。だけど、それを言いふらす相手は私だけにしておいた方がいいわね」
「あら、私は何か間違えました?」
「自分で考えてご覧なさいな」
 そう言って、風見幽香さんはくるりと踵を返して歩き出す。
「あ、ちょっと――」
 慌てて、蓮子はその後を追った。引きずられるように私も歩き出す。向日葵の中を、風見幽香さんの背中、その日傘を追って歩いて行くと――不意に視界が開けた。
 そこは――ステージになっていた。
「ありがと~♪ さあ、次の曲行くわよ~♪」
「いぇーい! ほらほら、ルナ姉も盛りあがって!」
「盛りあがるのは私の仕事じゃないから」
 太陽の畑の真ん中にしつらえられたステージに、プリズムリバー騒霊楽団の姿。
 宙に浮いた楽器がひとりでに動いて音を奏でる、幽玄なそのステージを見渡せる、特等席。
 周囲には幽霊や妖精が集まって、音楽に合わせて盛りあがっている。
 ――そしてその特等席に、見覚えのある姿があった。
「阿求さん?」
「……あら、貴方たちもいらしてたのですか。騒霊楽団のライブを聴きに?」
 振り向いたのは、稗田阿求さんだった。そういえば、昨日もどこかに外出していたっけ。
「いや、そういうわけでもないんですが……阿求さんはどうして?」
「幽香さんに誘われたんです。一緒に花を見て歩かないかと。昨日も彼女と、幻想郷に咲いた花を見て回っていました」
 幽香さんを見上げて、阿求さんは笑う。幽香さんはひどく優しく微笑んで、阿求さんの隣に立つと、日傘を少し阿求さんの方へと傾けた。――まるで、花を慈しむように。
「せっかくの、六十年に一度の異変です。私が次に見られるのは来世ですしね。お二人も、一生に一度と思って楽しまれては? ライブも盛りあがってますし」
「そうね、そうするといいわ。花を慈しむ限り、私も歓迎するわよ」
 幽香さんもそう言って微笑み、阿求さんとともにライブの行われているステージに向き直る。
 並び立ったその背中を見て――私は、不意に解った気がした。
 この異変の犯人が風見幽香さんだったとしたら、その本当の動機は――。
「……ねえ、蓮子」
 私はそっと、隣に立つ相棒に耳打ちする。
「彼女がこの異変――花の幽霊を幻想郷中に咲かせる異変を起こしたのは、阿求さんにたくさんの花を見せるためだったんじゃないかしら?」
「……え?」
「風見幽香さんは、百二十年前の先代阿礼乙女と知り合いだった。そして、六十年前の大結界異変のときは、阿礼乙女は転生期間で不在だったと、阿求さんは言っていたわよね。百二十年前、風見幽香さんが先代の阿礼乙女と、六十年に一度花が咲き乱れる異変を、百二十年後に一緒に見ましょう、と約束していたから……彼女は幻想郷を花で埋め尽くしたんじゃないかしら。その約束を守るために。阿礼乙女にあらゆる花を見せてあげるために……」
 私の言葉に、蓮子は不意に帽子を目深に被り直して、小さく苦笑する。
「メリーが一番、ロマンチストね」
「……そうね。自分でもちょっとロマンチックすぎる解釈だと思うわ。でも、幽香さんが花を愛する妖怪なら、阿礼乙女を慈しむ気持ちも解る気がするの」
「というと?」
「花の命は短く、だけど枯れても、季節が巡ればまた同じ花が咲く。――その繰り返しは、転生を続ける阿礼乙女と、よく似ているんじゃないかしら……」
 不意に、風が吹いた。阿求さんがなびく髪を押さえる。
 ――そういえば、阿求さんは大きな花の髪飾りをしている。
 あれもまた、風見幽香さんが先代の阿礼乙女に贈ったものなのだろうか?
 もちろんそれもまた、ロマンチックに過ぎる妄想なのだろうけれど。

 陽気で軽快な、けれどもの悲しい旋律が、高く高く響き渡っていく。
 季節外れの向日葵の中で、幽霊や妖精が飛び交う中で、寄り添う花の妖怪と阿礼乙女の姿。
 私たちはそれを見つめながら、互いの手を強く握りしめた。
「ねえ、メリー」
「うん?」
 不意に、相棒が私の耳元で囁く。
「もし私たちが、このまま科学世紀の京都に戻れないまま、この幻想郷に骨を埋めたら――私たちも幽霊になって、閻魔様の裁きを受けるんでしょうね」
「……どうしたの、急に」
「ううん、ただ、ね」
 相棒は私の手を強く握って、振り向いて、私の顔を見つめて。
 くしゃりと、なんだか泣き出しそうな笑みを浮かべた。
「私は、生まれ変わってもメリーの相棒でいたい」
「――――」
「だから、成仏も地獄行きも断って、メリーを探しに行くわ」
「……なにそれ」
 私は呆れ顔で苦笑して、相棒の肩に頭を預ける。
「来世でも私は蓮子につきまとわれて、振り回される羽目になるのね」
「嫌?」
「――きっとそうなるんだろうな、って思ってる自分に、呆れてるの」
 私のその言葉に、相棒はまた帽子を目深に被り直して、ただきゅっと手を握り直した。
 その繋いだ手と、もたれた肩の温もりだけで、今の私には充分だった。

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この小説へのコメント

  1. 植物の幽霊は盲点でした。植物も生き物。魂があるのだから、咲きたいという願望もあったんでしょうね…。納得がいきました。
    蓮メリの友愛は亡霊になる未練になるのかな?と思うくらい強いですね。この先どうなるのか楽しみです。

  2. 8話から蓮刈ちゅっちゅが急激に進行してる気がする・・・いいぞもっとやれ!

  3. 二つの異なる異変でカモフラージュしていることは想定してませんでした…..しかし幽香×阿求とは新しい…..
    そしてやっぱり蓮メリは夫婦だったんですね….

  4. いや~読者への挑戦は難しいですね~。植物が生物であり、そこから幽霊が生れるってのは分りませんでした。

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