東方二次小説

こちら秘封探偵事務所第5章 花映塚編   花映塚編 プロローグ

所属カテゴリー: こちら秘封探偵事務所第5章 花映塚編

公開日:2016年09月03日 / 最終更新日:2016年09月03日

【――あるいは読者への挑戦状】


 第一二〇季の春、幻想郷は狂い咲きの花に包まれた。
 春に花が咲くのは当然の話である。桜、梅、菜の花、躑躅、花水木、沈丁花。幻想郷には様々な花が咲き乱れ、時に狂い咲き、人々は花見に興じ、浮かれ酒を呑み団子を食べて絶景だの春爛漫だのと浮かれて陽気になる。それはごく当たり前の自然の摂理だ。
 だが、それも春の花のみであれば、のこと。
 もし、桜と紫陽花と向日葵と秋桜が同時に咲き乱れていたとしたら?
 季節を無視して、ありとあらゆる花が同時に開いたら。温室の中でもなく、合成でも造花でもなく。春の日射しの下で、桜の木の傍らに、紫陽花が、向日葵が、秋桜が咲いていたら。それは、美しいというよりも、どこか異様な光景ではないだろうか?

 その異変について、本来、私たちが解き明かすような謎はないはずだった。
 これまでに語ってきた《紅霧異変》《春雪異変》《三日置きの百鬼夜行》《永夜異変》――それらの異変は全て、何者かが意図して起こした異変であった。レミリア・スカーレットが、西行寺幽々子が、伊吹萃香が、八意永琳が。全ては人為的(妖為的?)な異変であり、それ故に一度きりの異変でもあった。
 だが、この異変には首謀者はなく、危険もなく、そして過去にも前例のある異変だった。
 故に、これは異変ではなく、六十年に一度起こる自然現象と言う方が適切なのだ。
 だから――我が相棒、宇佐見蓮子が解き明かすべき謎も、あるはずがない。
 異変の本当の理由も、首謀者の正体も、犯人不在ではそもそも解き明かしようがない。
 謎のない異変に、名探偵の出番はない。
 ――そのはずだった。

 けれど私は今、こうして筆を執っている。あの異変の物語を記すために。
 それは何故か? ――もちろんそれは、我が相棒の活躍を記録するためである。
 博麗の巫女さえ解決を放棄した異変に、名探偵・宇佐見蓮子は何を視たのか?

 そう、これは読者への挑戦状だ。
 掟破りの、本編が始まる以前の挑戦状。
 なぜならこの異変については、上白沢慧音さんや稗田阿求さんから、容易に真相を聞くことができるからだ。阿求さんはこの異変についてとある事情からよく知っているし、慧音さんも阿求さんから概略を聞いている。故に、慧音さんの退屈な説明さえ我慢すれば、貴方たちは誰でも、この花の異変の真相を知ることができる。
 ――故に、私はここで貴方たちに挑戦しよう。
 謎のないこの異変に、名探偵はどんな謎を見つけ出したのか?
 そして、犯人のいないこの異変の犯人は誰か?

 さあ、それでは語り始めるとしよう。
 私たちが幻想郷にやって来て二年目の春、あらゆる季節の花に覆われた幻想郷で繰り広げられた、宴にも似た弾幕騒ぎと、その陰にあった物語を――。

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この小説へのコメント

  1. ついに花映塚始まりましたか、期待してます!

    それはそれとしてこのページのURLのほうがエピローグってなっちゃってますが大丈夫ですか?

  2. フム、蓮子たちが来て2回目の春。ちょうどその時に前回から60年目の春って運良すぎな気もしますが、やはり蓮子がどこぞの体が縮んだ高校生探偵みたいな、そういう体質なんですかねw

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