東方二次小説

こちら秘封探偵事務所第4章 永夜抄編   永夜抄編 プロローグ

所属カテゴリー: こちら秘封探偵事務所第4章 永夜抄編

公開日:2016年04月23日 / 最終更新日:2016年04月23日



 ミステリの名探偵は、なぜ行く先々で事件に巻き込まれるのか。
 それをいちいち現実的に考えるのは、野暮なことには違いない。本格ミステリがある種の様式美の文学である以上、黄金パターンにケチをつけても生産的ではない。もちろんそれで、シリーズ探偵が実は全ての事件の黒幕だったとか、そういうオチを用意するなら、それはそれで成功させれば面白い試みではあろうが――と、この幻想郷でミステリ談義をしても仕方ないが、どうかご勘弁願いたい。
 どうしてこんな話をしているかといえば、私たちにとって、この問題は切実に現実の問題であるからなのだ。
 即ち、なぜ私たち秘封倶楽部は、行く先々で異変に巻き込まれるのか――。
 これは今のところ、謎にしておく他ない問題である。

 第一一九季――私たちが幻想郷にやって来て二年目のこの年は、異変続きの一年だった。
 冬が終わらなかった春雪異変、夏に入っては三日置きの百鬼夜行。このふたつの異変の物語は、既に別の機会で語った通りである。
 そして、夏が終わり、秋が訪れ。中秋の名月を迎えようという頃――。
 ひどく歪な月が、幻想郷の夜空に浮かんだ。
 ――巷間に〝永夜異変〟と呼ばれることになる異変の発端である。

 幻想郷に迷い込んだときには、紅魔館で我が相棒が紅霧異変の引き金を引き。
 春雪異変では、ひょんなことから妖怪の賢者によって白玉楼に送り込まれ。
 三日置きの百鬼夜行では、首謀者の鬼を最初に見つけたのが私たちだった。
 では、永夜異変にいかにして私たちは関わり合ったのか?
 もちろん今回は、それについての物語である。

 月の賢者はなぜ月を棄て、幻想郷に隠れ住んだのか。
 月の姫はなぜ永遠の命を求め、禁忌を犯したのか。
 月の兎はなぜ、地上の罪人の元へ転がり込んだのか。
 ――そしてなぜ、歪な月が幻想郷の夜空に浮かぶことになったのか。

 毎度のことながら断っておくが、この物語もやはり、幻想となった与太話に過ぎない。
 相棒の過剰な推理と想像が築き上げた真相は、水面に映った月のようなものだ。
 だが、本物の空の月よりも、時に水面の月の方が美しく見えることもあるだろう。
 そして水面の朧な月こそが、月の本当の姿を映していることもあるだろう。

 それでは、今回もしばしのお付き合いを願いたい。
 私たち《秘封探偵事務所》第四の事件――永遠と罪業についての物語を、始めよう。

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