東方二次小説

こちら秘封探偵事務所第8章 地霊殿編   地霊殿編 第12話

所属カテゴリー: こちら秘封探偵事務所第8章 地霊殿編

公開日:2017年11月25日 / 最終更新日:2017年11月25日

―34―


 蓮子の問いに、閻魔様は軽く眉を寄せた。
「古明地こいしの実在を疑っているのですか? では閻魔として白黒はっきりつけますが、古明地さとりに、こいしという妹は実在します。その能力のために他者に嫌われることを恐れ、心を閉ざし、第三の眼も閉ざしてしまった妖怪です」
 その答えに、相棒はどこか少しほっとしたように「――そうですか」と頷いた。
「では、事実関係をもう少しはっきりさせたいのですが。鬼が地底に移り住み、地上の嫌われ者を地底に受け入れたのは、博麗大結界ができた頃――今から一二〇年ほど前のことですよね。古明地姉妹はそれ以前から、灼熱地獄跡で怨霊の管理をしていたんですか? 私が地底で聞いた話では、地上と地底の相互不可侵条約が結ばれた時点で、閻魔様によりサトリ妖怪が管理者に任命された――というような話だったのですが」
「順序でいえば、私が古明地さとりに怨霊の管理を命じたあと、鬼などの妖怪の本格的な地底移住があり、地上と地底の相互不可侵の協定が結ばれた、という順番になります。相互不可侵協定は博麗大結界の成立と同年、賢者の式神・八雲藍と、鬼の代表者・星熊勇儀の間で締結され、私が立ち会いました」
「藍さんなんですか? 八雲紫本人ではなく?」
「彼女は私を嫌っていますので。――その協定締結の場で、地上側から怨霊の管理という条件が提示され、私がそれに対して『怨霊の管理者には地霊殿の主、古明地さとりを任命しました』と返答しました。貴方の聞いた話は、そのことが地底で不正確に伝わったのでしょう」
「なるほど。――では、古明地姉妹は元から地底の住人だったのですか?」
「いえ、あの姉妹も元々は鬼などと同様、地上に住んでいた妖怪です。私が地底での怨霊の管理を依頼した際も、まだ姉妹は地上に住んでいました」
「姉妹はその依頼を受けて地底に移住したわけですか。……閻魔様が依頼をした時点で、妹の古明地こいしちゃんは既に心を閉ざした無意識の妖怪だったのですか?」
「そうです。――古明地さとりは、私の依頼を聞き入れるにあたって、妹を地底の移住先まで連れて来ることを条件として私に提示しました。既に古明地こいしは、姉にも居場所が掴めない状態だったようです」
「それで閻魔様が捕まえ、地底へ連れて行ったと?」
「そういうことになります」
 なるほど、それなら地底で顔の広いヤマメさんが、こいしさんの存在を伝聞調でしか知らなかったのも無理はない。今の地底住民が旧都で暮らし始めた頃には、彼女は既に誰にも認識されない無意識の存在だったわけだ。
「ところで、閻魔様にはこいしちゃんが見えるんですか?」
「閻魔の力とは白黒はっきりつける力です。『見えるものが見えない』などというような曖昧な状態は私には通用しません」
「ははあ、さすがは閻魔様」
 大げさに感心したように頷き、それから蓮子は何やら帽子の庇を弄りながら、「じゃあやっぱり、あれはそういうことかしら――」と小さく呟く。あれとは何だ?
「――では、閻魔様に伺いたいのですが、うちの相棒にはどうしてこいしちゃんが見えるのだと思います?」
「マエリベリー・ハーンにですか? ――そんなことは私には解りませんね」
「あら、閻魔様にも解らないことがあるんですか」
「閻魔といえど全知ではありません。私にできることはただ、白黒はっきりつけることだけ。ある事象が真か偽かという問いには答えられますが、その事象に対して意見を求められても答えることはできません」
「閻魔様への質問は、イエスかノーかで答えられるものでないとダメということですか」
「大雑把に言うならば、そういうことです」
「ダービー弟のスタンド能力みたいですね!」
 と口を挟んだのは早苗さん。私も同じことを思ったが、「邪魔しないの」と早苗さんの袖を引っ張って引き下がらせておくことにする。
 閻魔様はちらりと早苗さんの方を見て小さく息を吐いた後、くるりと踵を返した。
「そろそろいいですか、宇佐見蓮子。私も忙しいので、仕事に戻らねばなりません。貴方への説教はまたいずれ」
「ああ、これはどうもお忙しいところを失礼いたしましたわ。――ところで閻魔様、もうひとつだけ確認したいことがあるのですが」
「なんですか?」
 振り向いた閻魔様に、蓮子は帽子の庇を持ち上げて問うた。
「千年ほど前、聖白蓮という僧侶を魔界に封印したのは、閻魔様ですか?」
「――そうです」
 ぴたりと動きを止め、閻魔様は硬い声でそれだけを答えた。
「聖白蓮という僧侶は、今も魔界に封印されているのですか?」
「そうです」
「なぜ、聖白蓮は魔界に封印されなければならなかったのですか?」
「――貴方がなぜそれを私に問うのですか、宇佐見蓮子」
「浮き世の義理というものですわ」
 蓮子の答えに、閻魔様は感情の見えない声で、「そういえば、地底にはあの僧侶の弟子が封印されていましたね――」と呟いた。
「聖白蓮は罪を犯していました。彼女が封印されたのはその罰です。――部外者の貴方に、私が答えられることはこれだけです。それでは」
 それだけを言い残し、閻魔様は三途の川の霧の中に姿を消す。
 その背中を見送って、蓮子もまた感情の見えない顔のまま、帽子を目深に被り直した。




―35―


「蓮子さん、結局何を調べてるんですか?」
「うーん、まあちょっと色々ややこしいのよ。八坂様の進めてる計画がオープンになったら早苗ちゃんにも教えてあげる」
「えー、ずるいですよー。二人だけの秘密ってことですか。やらしいです!」
「やらしくないから。そういうこと言うと蓮子が馬鹿なこと言い出すからやめて早苗さん」
「あらメリー、二人で秘密のやらしいことする?」
「しないわよ!」
「まーたイチャイチャしてる。おふたりともどこまでラブラブなんですかあ」
「違うから!」
 無縁塚からの帰り道、そんな益体もない話をしながら私たちは里に向かって飛んでいく。
 蓮子が何を考えているのかは私も知りたいところではある。しかし、閻魔様との話で何かしらの結論めいたものを掴んだようには見えるが、考えがまとまるまではどうせ答えは教えてくれないのだろう。
 そうこうしているうちに里の入口に辿り着き、早苗さんに抱えられた私たちは地面に降り立った。「早苗ちゃん、事務所寄ってく?」と蓮子が声を掛けるが、「あ、いえ、うちに帰ります」と早苗さんは首を振った。
「あらそう? 八坂様を問い詰めるの?」
「それもありますけど、今ちょっと新技の開発が忙しいんです」
「新技?」
「ええ。幻想郷は海がないので海を割っても仕方ないですから、もっとこうばーんと信仰を集められそうな、幻想郷用の新しい奇跡の秘術を考えてるんです!」
 大幣を振り上げて早苗さんはそんなことを言う。奇跡の秘術って、そう新しく編み出すようなものなのだろうか。
「ははあ、このところ事務所に来る頻度が下がってたの、そのせい?」
「あ、はい。でもあんまりいいアイデアが浮かばなくて……蓮子さん、何かありません?」
「ええ? そうねえ」
 顎に指を当てて蓮子はひとつ首を捻り、
「現状、守矢神社はまず豊作祈願での信仰集めを考えてるのよね? じゃあ早苗ちゃんも、それに合わせてみたら? それこそ、空からお米や作物が降ってくるとか、なんて」
 冗談めかして蓮子がそう言うと、早苗さんは目をしばたたかせて、
「なるほど! さすがです所長!」
 と、蓮子の手を掴んで身を乗り出した。「え?」と蓮子がたじろいで身を引く。
「そうです、五穀豊穣の秘術です! 今私が幻想郷で起こすべき奇跡は豊作、豊穣の奇跡なんですね! 海を割るとか、そんな常識に囚われた奇跡ではなく、もっと実用的でインパクトのある奇跡を! 空から降りそそぐ五穀豊穣のライスシャワー、奇跡が産み出すミラクルフルーツ! そういうのでいきましょう!」
 ハイテンションで雪の上をくるくると踊る早苗さんに、私たちは顔を見合わせた。

 そんなこんな早苗さんと別れ、私たちは寺子屋離れの探偵事務所に向かう。
 と、その途中で雪の上を元気に駆け回る子供たちの集団を見かけた。寺子屋の生徒の顔も何人かある。そのうちのひとりが立ち止まり、こちらを指さして「あ、蓮子せんせーとメリーせんせー!」と声をあげた。他の子供たちもこちらを振り向き、私たちは手を振る。
「こんにちは。子供は風の子、みんな元気でよろしい」
「寒いから風邪引かないようにね」
 私たちがそう声をかけると、はーい、と元気な声が唱和する。笑って頷いた蓮子は、「あ、そうだ」とぽんと手を叩き、子供たちに屈み込んだ。
「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど。みんなで遊んでいるときに、いつの間にか知らない子が混ざってるっていうこと、なかった?」
 蓮子のその質問に、子供たちが顔を見合わせる。
「しらないこ?」
「そう。先生と同じような黒い帽子を被った女の子」
 自分の帽子を指さした蓮子に、しかし子供たちは不思議そうな顔で首を傾げた。
「しらなーい」
「そっか。ごめんね、変なこと聞いて。みんな暗くなる前に帰るのよ。晩御飯までにおうちに帰らない子は慧音先生の頭突きが待ってるからね」
 立ち上がった蓮子に、子供たちはまた「はーい」と返事をして、駆けだしていく。――こいしさんが地上で子供たちに混ざって遊んでいる、という話の裏付けは取れず、か。まあ、子供相手ならそんなものだろう――。
 そう考えていた私は、しかし子供たちの中のひとりが、その場にぽつんと残っていることに気付いた。遊んでいた子供たちの中で一番小さい子で、寺子屋の生徒ではない。その子は駆けていった友達の方をちらちらと見ながら、何か逡巡するようにこちらにも視線を向ける。
「……どうしたの?」
 私が屈み込んで目線の高さを合わせると、その子は意を決したように顔を上げ、
「――そのこ、しってる」
 と、必死に言い募るように、口を開いた。
「……え? 今言った子のこと?」
「うん。……いっしょにあそんだのに、みんな、そんなこいなかったっていうの」
 私は蓮子と顔を見合わせる。――いた。こいしさんを認識して、覚えている子が。
「みんな、ゆうれいでもみたんだっていうけど、ゆうれいじゃないもん。あのこ、ほんとにいたんだよ」
「――そっか。ありがとう、教えてくれて」
 私がその子の頭を撫でると、その子は顔を上げ、「しんじてくれるの?」と目をしばたたかせた。「ええ」と私が頷くと、その子はぱっと顔を輝かせた。
「おーい、なにやってんだよー!」
 と、そこへ子供たちから声がかかり、「あ、まってー!」とその子は私にはもう脇目もふらずに駆けだしてしまう。全く、子供は気まぐれだ。息を吐いて私が立ち上がると、蓮子がまた何か難しい顔をして帽子の庇を弄っている。
「どうしたの、蓮子」
「ううん、今の子――ちょっと、慧音さんのところ行きましょ」
「ええ? なに、急に」
「ちょっと確認よ。仮説の補強」
 そう言って、蓮子はずんずんと歩き出してしまう。私は慌ててその後を追いかけた。

「慧音さんでしたら、北の方で食い逃げがあったっていうんでその応援に出てますよ〜」
 自警団の詰所を訊ねてみたが、慧音さんの姿はなく、小兎姫さんがお茶を飲んでいた。
「あらら、そうですか。それなら小兎姫さんでも構わないんですけど」
「事件ですか〜?」
「いえ、ちょっとお聞きしたいことが――」
 そう言って蓮子が口にしたのは、とある人名だった。どうやら先ほど、古明地こいしさんを見たと言った子の名前らしい。
「小兎姫さんと同業の家の子じゃありませんでしたか?」
「確かにうちと同じ妖怪退治の家ですけど〜。我が家は武家の系列で、あそこは拝み屋なので、同業と言われるとちょっと困りますね〜」
 小兎姫さんは苦笑する。この人間の里のルーツは、まだ幻想郷が結界に閉ざされる前、魑魅魍魎の跋扈するこの地の寒村に妖怪退治を生業とする人間が住み着きだしたことに端を発するという。小兎姫さんもそういう、大結界成立以前から妖怪退治を生業としていた家系の人らしく、自警団員をしている人の多くも妖怪退治の家系の末裔なのだそうだ。
 その妖怪退治の家も、文字通りの妖怪討伐を行う武門の家系や、亡霊や呪詛などの相手をする拝み屋の家系などに分かれ、いろいろとしがらみや軋轢があるのだとかなんとか。
「それにあそこは拝み屋はとっくに廃業して、今は家具屋ですよ〜」
「廃業しても、先祖代々の拝み屋の力は残っているんじゃないですか?」
「まあ、そうですね〜。あの子も、巫女に近い力を持っているはずですよ〜」
「というと?」
「神霊とか幽霊とかが、人よりよく見えるってことですね〜。拝み屋の人たちは、普通の人の目には見えないような力の弱い、消えかけの幽霊なんかも見えるらしいです」
「ははあ――なるほどなるほど、参考になります」
 蓮子は頷き、小兎姫さんの出してくれたお茶を啜る。幽霊が普通に人間の目に見える存在として現れるこの幻想郷でも、普通の人に見える/見えないの境界はあるわけだ。
「まあ、どっちにしても『妖怪退治の家』という概念自体、私の世代で消え失せる運命でしょうけどね〜。今の幻想郷では需要がありませんから〜」
 湯気をたてるお茶を見つめながら、ぽつりと小兎姫さんはそう呟いた。確かに、妖怪が里を襲うこともなく、たまに異変が起こっても博麗の巫女が独力で解決するような状況では、里の人間が妖怪退治の力を標榜する意味はほとんどあるまい。こうして自警団という形で里のトラブルシューティングをするぐらいしか、やることがないのだろう。
「里の自衛力は、これからは自警団が全て担う、と」
「そうなるでしょうね〜。役割を終えたものが消え失せるのは仕方ないことです。無理をして残そうとしても歪みが出るばかりですから〜。妖怪退治の家を残すために、妖怪にたくさん里を襲ってくれって頼むわけにはいかないですからね〜」
 小兎姫さんは笑ってそう言うけれど、その笑顔は少しばかり、寂しそうにも見えた。




―36―


「で、蓮子。推理は固まったの?」
 寺子屋の離れの探偵事務所に戻ってきた私たちは、寒い事務所で火鉢にあたっていた。相棒は室内でもコートを着たまま、「まあ、それなりにね」とうそぶく。
「どっちなのか判断がつかない部分は残ってるけど、おおよその構図は見えたわ」
「おおよその構図って――」
「それを言ったら答えと同じよ。メリーも考えてみたら? 今回の異変がどういう構図から成り立っているのか」
 蓮子はそう言って、ごろりと畳に横になると、帽子を顔に被せてしまう。
 私は息を吐いて、文机と紙と筆を用意した。考え事は書き出すに限る。
 ――というわけで、以下は私のまとめた、今回の異変のまとめである。
 読者諸賢には、これが今回の、恒例の疑問点まとめに代わるものだと思ってくれて構わない。

【異変の元凶の元凶・守矢神社】
 一、エネルギー資源確保のため、八坂神奈子さん(と洩矢諏訪子さん?)が、灼熱地獄へと直通する穴を掘り、地獄鴉のおくうさんに八咫烏の力――核融合の力を授けた。
 二、この件は地霊殿の主である古明地さとりさんには話が通っていた。一方、早苗さんにはまだ秘密にされている模様。
 三、八坂様はおくうさんが地上侵略を考えていることは知らなかった。
【異変の元凶・地獄鴉のおくうさん】
 一、地獄鴉のおくうさんは、お燐さんとともに地霊殿が出来る前から灼熱地獄に住んでおり、地霊殿ができたことでさとりさんのペットになった。
 二、おくうさんが八咫烏の力を手に入れたことで灼熱地獄の火力が増加、その影響で博麗神社の近所に間欠泉が噴き出した。
 三、八咫烏の力を手にしたことで調子づいて、おくうさんは地上侵略を企み始めた。地上侵略の具体的な動機は不明(本人が忘れてしまっている)。
【異変の主犯・火車のお燐さん】
 一、お燐さんは同じく地霊殿が出来る前から灼熱地獄に住んでいた。火焔猫と名乗っていたが、妖怪の種族としては火車らしい。さとりさんからは怨霊の管理を任されている。
 二、お燐さんは、おくうさんの地上侵略計画が露見すると、おくうさんがご主人様に処分されてしまうと危惧した。
 三、お燐さんは、地上からおくうさんを止めてくれる人材が派遣されてくることを期待して、間欠泉から怨霊を地上へ解き放った。
 四、お燐さんは、八坂様がさとりさんに話を通していたことは知らなかったと思われる。
【主犯の主・古明地さとりさん】
 一、サトリ妖怪のさとりさんは閻魔様から怨霊の管理を依頼され、鬼に先んじて地底に移住、地霊殿に住み始めた(その時点でお燐さん、おくうさんなどをペットにしたと思われる)。
 二、閻魔様からの依頼時、妹のこいしさんを閻魔様に捕まえてもらったらしい。
 三、さとりさんはその能力のため、旧都の住人からも嫌われている。
 四、妹のこいしさんの心は読めず、妹がどこにいるのかもわからないらしい。
 五、さとりさんは蓮子に、こいしさん探しを依頼中。
【主犯の主の妹・古明地こいしさん】
 一、さとりさんの妹で、同じサトリ妖怪。ただし嫌われるのを恐れ、心を読むのをやめ、第三の眼を閉ざしてしまったという。
 二、それ以降、無意識を操る能力を手にし、誰にも存在を認識されない妖怪として、地底や地上をふらふらと放浪し、地上で子供に交ざって遊んだりしているらしい。
 三、なぜか私には彼女が見えるが、蓮子が近付くと逃げてしまう。
 四、地上の子供の中にも彼女が見える子が存在するらしい。
 五、彼女の行動には意味があるのか? ないのか?
【旧都の代表者・星熊勇儀さん】
 一、妖怪の山で《山の四天王》と呼ばれていた鬼のひとり。残り三人のうちひとりは伊吹萃香さん、ひとりは地底にいない茨木華扇という鬼らしい。残りひとりは不明。
 二、博麗大結界が成立した頃、他の鬼を引き連れて地底に移住、地上の嫌われ者を受け入れて旧都に嫌われ者の楽園をつくり、その代表をしている。
 三、旧都に住んでいない妖怪(パルスィさんなど)の面倒もよく見ているらしい。
 四、ムラサさんと一輪さんを地上に脱出させてあげたいと思っている。
 五、灼熱地獄で起きている事態のことは全く知らなかった様子。
【旧都の住人・黒谷ヤマメさんとキスメさん】
 一、陽気で気さくで面倒見がいい土蜘蛛と、無口で内気な釣瓶落としのコンビ。
 二、地上へ通じる縦穴でよく遊んでいるらしい。自殺者目当て?
 三、ヤマメさんは顔が広く、勇儀さんやパルスィさん、お燐さん、ムラサさんとも知り合い。
 四、彼女たちもお燐さんたちの件は全く知らなかったようだ。
【橋姫・水橋パルスィさん】
 一、縦穴から旧都へ向かう途中にある橋にいる橋姫。嫉妬心を操る妖怪らしく、旧都に住んでいないのもその能力のため。茨木童子とは関係なさそう。
 二、よく面倒を見に来るらしい勇儀さんに反発しているようだが、ヤマメさんから見ると仲良しに見えるらしい(妹紅さんと輝夜さんみたいなもの?)。
 三、勇儀さんから何か頼まれ事をしている?(地上に脱出しようとする妖怪の見張り?)
【封印された僧侶の弟子・ムラサさんと一輪さん、雲山さん】
 一、大きな船(星蓮船)とともに地底に封じられた、船幽霊と入道使い、および入道。
 二、かつて封印された偉大な僧侶・聖白蓮の弟子。船とともに地上に脱出し、聖白蓮さんの封印を解きたいと考えているが、手段がなくて困っている。
 三、近くには正体不明の妖怪が出没するらしい(こいしさんとは別とのこと)。

 こんなところか。書き終えて息をつき、私は自分の文字を眺めて頬杖をつく。
 こうしてまとめる限り、異変の構図はほぼ明瞭ではないかと思う。謎らしい謎といえば、おくうさんが地上侵略を考えた動機だろうが、本人が忘れてしまっているのを解き明かしたところでどうというものでもあるまい。
 怨霊関係以外でなら、こいしさんが蓮子を避ける理由とか、勇儀さんがパルスィさんにしているらしい《頼み事》の内容、ムラサさんたちの近くに出るらしい正体不明の妖怪のことなどが謎といえば謎だが、おくうさんとお燐さんと守矢神社の問題に関係しているとは考えにくい。まさか聖白蓮という僧侶が今回の異変に関係してくるわけでもあるまいし……。
 謎といえば、相棒が「さとりさんが八坂様から八咫烏の件を聞いていたこと」を聞いて驚いていたのが、私にとっては最大の謎である。いったいそれに何の意味があるというのか?
 やはり私にとっては、この異変そのものより、相棒の思考こそが謎である。いったい、誰のどんな謎を解き明かそうというのか――。話の流れからすると、やはり古明地姉妹が軸になるのだろうけれども、こいしさんの件は今回の異変とは別件ではないのか?
「どうメリー、何か掴めた?」
「全然まったくこれっぽっちも。私は蓮子みたいな誇大妄想狂じゃないのよ」
「あら、地震騒動のときに私を上回る推理をしたメリーとは思えない言いぐさね」
「あれはたまたまよ。偶然思いついただけ」
「メリー、偶然の閃きは必然なのよ」
 蓮子は息を吐いて身体を起こし、「まあそれより」とまた火鉢に手をかざした。
「とりあえずは、霊夢ちゃんたちがおくうちゃんを止めてくれることを祈りましょ。地上が火の海にされちゃったら、さすがの蓮子さんも推理どころじゃないわ」
「そうね。焚き火程度にしてもらいたいわね、せめて」
「博麗神社の温泉、早く入れるようにならないかしらねえ」
「そうなったら、博麗神社の看板が神社から博麗温泉に変わりそうね」
 私が何気なくそう言うと、蓮子は頬杖をついて目を細めた。
「メリー、やっぱり私の考えてる真相、本当はなんとなく見当ついてるんじゃないの?」






【読者への挑戦状】


 というわけで、長かった今回の出題編はここまでである。
 本書の冒頭に記した、「解き明かされるのは誰の謎か?」という問いはもちろん、まだ有効だ。読者諸賢には改めて、この異変に対して我が相棒、宇佐見蓮子がどんな推理を繰り出したか、相棒と誇大妄想力を競ってみてほしい。

 推理のとっかかりも掴めない、あるいは考えすぎてしまう人に、少しだけヒントを。
 例の寺にまつわる面々の話は、今回の謎解きにはほとんど関係がない(完全な無関係ではないが)。聖白蓮や正体不明の妖怪の件は、とりあえず度外視してくれて構わない。
 もうひとつは、これまでの事件簿でも散々記してきたことだが、幻想郷は認識が力を持つ世界だということだ。外の世界で忘れられたために幻想郷に逃れてきた妖怪は、認識され恐れられることが力の源になる。私たちのこれまでの事件簿も、多くはその認識の力を利用しようとした妖怪たちの物語だったということを、念頭に置いてみてほしい。

 ちょっとヒントを出し過ぎたかもしれない。
 蓮子の推理した真相を知っている私には、貴方がここまで私が記してきた物語からどんな真相を紡ぎ出せるかを虚心坦懐に推測することは難しい。
 だが、蓮子が推理に用いた材料の書き漏らしはないはずだ。あったら申し訳ない。

 最後に、改めて読者諸賢に問いかけよう。
 ――この怨霊異変とは、結局のところ、どういう異変だったのか?

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この小説へのコメント

  1. もしかして…
    ①αは『お空が鳥頭である』という性質を悪用した。『地上侵略の先兵となれ』と言っといても出処がバレないから。つまりお空は最初から『なんとなく』地上侵略しようとしてたわけじゃない。
    ②αは地底に住む妖怪が『人間と接触しないことによる忘却=存在の消失、地底の妖怪達の力の減退』を恐れた。
    ③αは異変をお空達に起こさせることで霊夢達を呼び寄せ、鬼を含め存在の忘却を防ごうとした。そこには義理だが、命蓮寺の物達も含まれていた。
    ④αは地底の妖怪を守ろうとしていたわけではなく、地底の幻想の力が衰えたら紫が不可侵条約を破って攻めてくることを懸念していた。守りたいのは、一緒に家にいる物達。

  2. 「認識が力になる」世界で「認識されていない存在」っていうものは、いずれ消えてしまうのかな?
    地底の妖怪たちは、地底に存在するだけで危険な荒くれ者という認識から力を与えられそうなものだけど。そうすると、こいしちゃんは…?

  3. A1八坂様とさとり様が仲良しである以上暴走による地上侵略は起こり得ない
    2.つまりお燐は嘘をついている。自ら唆した?
    3.ここでペット間の嫉妬が原因と仮定してみる。勿論犯人は明白。そうすれば主犯も。
    B次にこいしが蓮子から隠れる理由。お空の人工太陽は蓮子の瞳術で破ることができるから?
    つまりお空の能力が鍵。
    C次に主犯の動機は?ここでお空に力を与えた八坂様との争いという説が、
    A1で八坂様がハブられていることから予測できる
     以上から、A3の主犯は発電エネルギーとして八坂様の支配を作るだけではないお空の核融合、地底の戦力となるお空の能力の認識が作りたかった、これが理由と予想。

  4. そういえば推理とは違うけど、仮にαが真犯人だった場合、αは随分うまいことやったなあと思う。地霊殿の異変って『不可侵条約』という壁があるのに、責任の所在がしっかり曖昧になるようになってるし。

    例えば異変解決後に状況を整理した場合、
    『力を与えられた、異変の元凶のお空』『お空に力を与えた神奈子』『怨霊管理に失敗したお燐』『それらの管理者であるさとり』『管理者を任命した映姫』『異変解決の為とはいえ先に生身で潜入した霊夢達』『防衛の為とはいえ地上人と交戦した地底の妖怪達』と、これだけ責任が問われる候補がいる。
    これじゃ紫も制裁を加える相手が見つからない。

  5. 私の初めての推理の答え。「こいしちゃんが、姉を地上へ連れ出すために仕組んだ一手」
    地底の地獄で怨霊管理を押し付けられたカワイソウ=>地上を地獄にすれば、さとりも地上を出歩けるようになるに違いない=>ちょうどペットが特殊能力を得ているから利用しよう。無意識だから覚えられる事は無い・・・

    蓮子の目は「時間・位置を固定する」と考えれば、こいしが「固定」されてしまうので、近付けないのではないか。
    閻魔がこいしを捕獲できたのも、白黒を「固定」するからではないか。

  6. 地底の妖怪達の存在が危うくなったから、地底にも妖怪がいるぞと人間に知らしめて恐怖心を得ようとした…のかな?
    次回も楽しみにしております。

  7. やっぱり何度考えても、鍵はお空な気がする。
    鳥頭を誰かが利用すれば、地上に喧嘩をふっかけられるし。
    ただ、それだと不可侵条約を破るのが地底側になっちゃうからなあ。

  8. こいしの存在が希薄になりつつあるのを案じてお姉ちゃんがお空に吹き込んだとか?
    お空が鳥頭だから唆した事がバレル心配ないし、最悪神様に止めて貰えば地上が火の海になることもない
    しかし地上侵略は協定に引っ掛かるし、それこそ幻想郷を脅かすことになるので紫かえいきが地底(地霊殿)に来るだろから、それを狙ってるのだろうか
    こいしが「意識」と「無意識」の境界に居るのだとすれば、境界を操る程度の能力や白黒つける程度の能力で意識側に引っ張ってこれそうだし
    メリーが見れたり見えなかったするのは意識と無意識の境界に立っていると見えて、無意識側に振れると見えなくなるってことなのかな

  9. 作製お疲れ様です~まさかの蓮子の発言で早苗の新しいスペルが生み出される結果となったとは~w 
    さて、私の推測ですが~原作通りに行くとお空は八坂神奈子から八咫烏の力を手に入れて地上侵略を目指したのは神奈子達の産業革命もあるんでしょうけどもお空自身は忘れていますが、意外にもさとりの為だったりするんではないか?と思ってます。さとりは、こいしを見つけたいならばお空に力を与えた神奈子に興味を示してくれれば姿を現す?っという私の推理はこれ位しか思いつきませんが~次の話が楽しみです。

  10. この問題は他の小説でも結論が出てたなぁ
    多分こいしの認知の問題なんだろうけど、その小説では「さとり妖怪からさとりの妹妖怪として存在してるから!」で本人が解決してたな

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