東方二次小説

木ノ花、疾風に咲く木ノ花 後編   木ノ花後編 第7話

所属カテゴリー: 木ノ花、疾風に咲く木ノ花 後編

公開日:2016年09月15日 / 最終更新日:2016年09月15日

 卅三./源範頼(西暦1193年)

 頼朝が征夷大将軍に任じられ、鎌倉は日本の武の本営たる幕府となった。
 頼朝の征夷大将軍任官の翌月には、彼と正室政子との間に次男が産まれる。梓弓の弦の音が鳴り響く中、子は千幡(せんまん)と名付けられた。
 その翌年。
 時には激しい訴訟や諍いが起こる事もあったが、いずれも頼朝の下、政所や侍所が上手く治め、坂東全体としては順風満帆と言っても良かった。
 範頼の仕事は実に雑多で、侍ではあるが外に出るよりも書き物、政所や公文所に近しかった。彼にはその方が性に合っていた様で、ゆやとの仲も家人との関係も、前にも増して良くなっている。
 そしてそのゆやにも、良い兆しが見えていた。

       ∴

 この年、鎌倉では武威の維持のためと称して、田植えの時期が終わってすぐに大規模な巻き狩り(※1)が挙行される運びになった。
 だがそこに、範頼とその郎等達の姿は無い。彼らは淡々と鎌倉での業務をこなすだけであった。
「先月は那須野、今月は富士の藍沢か。いくら狩りとは言え、これだけの兵が動くとなると、糧秣もごっそりと減るな。時に勝間田様」
「何か?」
「なんでも現地では、遊君別当なる職も設けられているとか、羨ましいと――」
 言葉にならない怒号が頼景の鼓膜を振るわせる。
 確かにそんな事がありもするが、あくまで調練の一環であるのだ、遊びでは無いのだぞと。徹底して建前を並べ立てるが、それは頼景には聞こえていない。
「勝間田様うるさい!」
「なっ!?」
 駆けつけたゆやに咎められる次長。彼女の足下では朝光より引き受けた子の一人が泣いている。そして腕の中でも一人がまた同じく。
「う、ぬ。男子たる者、斯様な事で……」
「あんな声を張り上げられれば誰でも泣きます!」
 言葉に詰まる次長。それを見て頼景は厭な笑いを浮かべている。
「頼景殿も、勝間田様を怒らせないで下さい」
「承知した」
 事実を述べて勝手に怒られただけだがまあいいと、頼景はやはりにやにやと次長を見ていた。

       ∴

 有力な御家人の大半が巻き狩りに出ている中、範頼は御所への勤めが主になっていた。
 ここ最近はこちらに詰めていると言ってもいい。顔を合わせる郎党も、八幡宮などへ勤める射命丸ぐらいとなっていた。
 夏も盛りとなったある日、その範頼は八幡宮への参詣と称して御所を抜け出し、射命丸の元へ訪れる。
「こんな時分にどうしたのです、蒲殿」
 僧姿で勤める射命丸を見るのは範頼にも新鮮で、つい目を細めている。
「一貫坊様、本日の夜、暇ではありませんか?」
 逢い引きという歳でもあるまいに。それでもそんな事を期待して、射命丸の頬は赤くなる。
「え、はい、今日は特に何もありませんから。そのまま浜の館に戻ろうと思っていたぐらいで」
「良かった。では戌の刻辺り、舞殿側の弊殿でお待ち下さい」
「は、はい」
 小娘でもあるまいにと自身を律しようとする射命丸。だがそれは治まらず、つい小躍りまでしてしまうのであった。

 日が暮れきった八幡宮。およそ言ったとおりの時間、言ったとおりの場所に、灯火を手にした範頼が到着する。しかし射命丸は既にそこに居た。
「すいません、待たせてしまいましたか」
「ああ、いえ、今来たばかりですよ」
 お定まりの文句でにこやかに応じる射命丸。刻限まで待ちきれず、半時も前からそこに立っていたのだから、範頼が遅れる形になるのは無理も無い。
「では、行きましょうか」
 どこへであろうかと射命丸は問わずに、範頼の導きに従う。彼が手に包みを持っているのだけが見える。
 八幡宮を御所方面に出て、本宮の横を迂回して坂を上がる。坂がちな鎌倉らしい急傾斜。飛べばすぐだが、ここは範頼と共に歩む。
 今日は新月で月明かりも無い。森に入ると範頼は包みから松明を取り出し、それに火を移した。
 揺れる火に照らされ、互いの顔を見る二人。これだけで普段とは違う、幻想的な感覚すら覚えた。坂を登り切り、道が途絶えたところで範頼は立ち止まる。ここが目的地という事だ。
 眼下を見れば、鎌倉中の盛り場も夏の熱気のそのままに、呑んだり歌ったりとの声があちこちから漏れる。
「飛行自在の一貫坊様にとって、この様な風景など取るに足らぬ物でしょうけれど」
 そうして指し示すのは、それらの盛り場が点在する大路のずっと先。夜の由比ヶ浜。
「いえ、そんなことは……」
 そんな事はない、どころではない。眼前に広がる眺望に、言葉すら失ってしまう射命丸。
 星明かりをうっすらと映じる浜、暗くもありながら波の合間に僅かに光を返す海。そして、
「良かった。月が無い時の方が、映えるのです」
 天の川の両岸に、無間に横たわる星々。
 美しい、射命丸はただただ感動した。これほどまでに齢を重ねてみたが、こんなにも鎮かに、美しい光景を見たのは初めてだと。
 月明かりが無いからこそ、普段それに隠れてしまう無数の星の瞬きも鮮やかになっている。
 人間とすれば壮年であるが、己に比べれば遙かに歳の若い範頼がこれを見い出せたのにも感動し、同時に、少しばかり心地良い嫉妬も覚えた。
 範頼は射命丸の顔を見て笑みを浮かべ、竹の筒を包みから出すと、同じく包みから竹の盃を取り出して、射命丸に手渡す。
「よろしければ、一献」
「お受けいたします」
 二人だけの酒宴、何年ぶりの事であろうか、いや、本当に二人だけなのは初めてでは無いか。射命丸は盃を受け、そして返しながら思う。
 少し離れて腰を下ろす二人。
 しばらく水上の星空を眺めていた射命丸は、ふと範頼に求める。
「蒲殿」
「なんでしょう?」
「お側に、よろしいでしょうか?」
 範頼は射命丸に答える代わりに、自分から射命丸の方に身を寄せる。範頼の方からそうされた事に驚き戸惑うが、それもすぐに治まって受け容れる。
「蒲殿」
「はい」
 射命丸の言葉に、範頼は一々と答える。これがあの、平家を討ち滅ぼした軍の――華々しくは無かったかも知れないが――大手の大将軍を勤め切った者かと、知らぬ者なら不思議になるであろう。
 だが、射命丸達にとっての範頼は、今ここに居る彼に他ならなかった。
 齢も既に四十を過ぎたが、その居住まいはあの時のまま、さして変わらぬ若さを持っている様だった。
 あの時――
 ゆやを取り戻すためひたすら駆けたのも彼なら、義高や義経の死に狼狽したのも彼。実は義経にも及ぶほどの気性の持ち主かも知れないのに、今も、妖である射命丸を月見ならぬ星見に誘うのも彼。何よりその幼い日、河原で死にかけていた鴉を救ったのも――
「一貫坊様?」
「あ、すいません」
 古い日のことに想いを馳せていた射命丸は、範頼の、言葉の続きを求める呼び掛けに、また顔を赤らめながら答える。自身でも上気しているのが分かる、彼は悟っただろうか。気恥ずかしくなりつつそんな事を考えながらも、更に思い切った行動に出る。
「その、恐れ多いのは承知ですが。寄りかかっても、よろしいですか?」
「ええ、私こそ」
 互いに支え合う様にしなだれ、天を仰ぎながら範頼は口を開く。
「いや、これは楽です」
 彼は歳を感じていた、その身にも心にも。
 見た目で言えば彼の姫と言っても通じる射命丸は、こんな彼も己の仕える蒲冠者のままであると信じていた。例え総髪白くなったとしても彼は彼であり、それでも若いままの自分であるから、ゆやと彼の幸せを見守り、太郎と共に二人の側に居られるのだと。
「射命丸様」
 先程とは打って変わり、思い立った風な声音で範頼がその名で呼ぶ。
「はい」
「ゆやが、身籠もりました。もう間もなくお腹も大きくなる頃であろう、との事です」
 身籠もった、あのゆやが。
 普段から少し体調を崩しがちだったが故、その異常には気付いていなかった射命丸。かつてなら横恋慕故の激情を催していたかも知れない、だが今の彼女はその慶事を心から喜んでいた。
 彼と――仮初めとはいえ――妹と言える者の幸せを。
「それは、おめでたい事です!」
「ただ――」
「え?」
「ゆやの産後の肥立ちを考え、今のうちに蒲神明宮、蒲清倫様の下で養生をさせたいと考えているのです。同時に、北斗丸達も吉見の方へ控えさせたいと」
 なぜ母子別々なのか。よく考えれば腑に落ちない事も、今の射命丸には全て当然と思えてしまった。
「非道い事と承知の上お願いいたします。射命丸様、ゆやの側に居てやって下さい」
 何を以て彼は非道い事などと言うのか。射命丸はゆやの懐妊を喜び、今これを聞いてその身を案じてすら居るのに。
 二人は話を終えると、ただじっと浜を眺め、酒が尽きるまで酌み交わすのであった。

 浜の館の一室、こちらでも酒を酌み交わす者達が在った。だがこちらはむさ苦しい。
 黙ったまま酒を注ぐ頼景に、受ける頼綱。互いにそんなに酒に強いわけでは無いが、淡々と飲み、注ぐ内に、酒量はかさんでいた。
 頼綱には兄に語りたい事が多かったが、兄の雰囲気がそれを許さない。酒に誘ったのは彼であるのに、未だに言葉の一つも無い。
「兄者――」
 堪りかねて語りかけようとした頼綱に先んじて頼景が言う。
「何も言わん。帰れ」
 出し抜けに過ぎる言葉に戸惑うが、間を置いてその言葉をなんとか認識し、およその見当を付けてから問いを返す。
「どこに」
「無論、相良へ」
 予想した通りであった。だが理由は全く分からない。
「言ってもらわねば帰らぬ」
「ならば簀巻にして、年貢の荷駄馬に括るまで」
 これは酔っているからでは無い、素面でも同じ事を言うであろうと頼綱は顔を引きつらせ、しかし理由だけは求める。
「帰る。だから聞かせてくれ」
「言えん」
 むうと一旦は押し黙る頼綱。だがある事に思い至り、それを確かめに掛かる。
「もしかして蒲殿の事か? 侍所で噂になっている」
 範頼の近辺に某かの事態があった。否、事態があったのは範頼では無い、巻き狩りに出た隊にだ。それから範頼にも波及する事があった。頼綱はそれだけしか知らない。
 弟の問いに頼景は黙したまま、盃を空ける。
「沈黙も答え、か。兄者は家督を継いでからいっつも忙しくて、頼長に継いだかと思えば蒲殿の所に行ったりして、中々話せなかったな」
「ああ」
「ゆやの事や戦の事がきっかけとはいえ、戦場でも鎌倉でも、納得できるだけ語らえて嬉しかった」
「俺もだ」
「もしまた人間に生まれるならば、いや、たとえ畜生に生まれても、兄者の弟として生まれたい」
「無理だな」
「何故」
「お前は、お前が思う以上に長生きする、長生きして貰わねばいかん。この唐の算盤を賭けてもいい」
 数字を扱うのに便利だからと、西国で手に入れたそれを突きつけながら言う頼景。頼綱はそんな物は要らんと苦笑しながら続ける。
「ならば親でも子でも構わん。再び同じ血を受けたいものだ」
「……すまぬ」
「さらばだ、兄者」
 もうこうして酌み交わす事も無い。そう悟り、二人は乾杯するのであった。

 鎌倉より西国に出向く隊が進発する。その隣には射命丸とゆや、それに頼綱の姿があった。
 ゆやは範頼と触れ合い、語り合う。もう彼女に、あの頃の疵は無いのだ。射命丸もあの星見の時の続きの様に語り合い、別れの言葉の代わりとする。
 ゆやの側にはもう一人、太郎も居る。彼女も範頼や頼景、次長と共に鎌倉に残るのだ。ゆやはこちらにも別れを告げる。
 そこに小さな影も近付く、北斗丸だ。
「母上が遠江に行っている間、北斗が弟達を守ります。ですから安心してください」
 誰に言われるでもなくこの小さな兄がつむぐ言葉が、ゆやには堪らなく嬉しかった。
「北斗、有り難う。これで母は安心して遠江に行けますよ」
 微笑ましい母子のに皆の視線が集まる。
 太郎が射命丸の方を向き、近づいて何かを手渡す。
「これは?」
 かつて、桜坊天狗から贈られたかんざし。どんな意図でこれを渡すのかと、射命丸は訝るが、太郎はそれ以上は一切応じず。ゆやの側に戻る。
「七郎殿、頼景殿は?」
「さて、兄者も忙しいみたいですから、勝間田様もどこへ行ったやら……」
 ここには頼景も、次長の姿も無い。しばしの別れを前に寂しいものだと嘆息する射命丸に頼綱は言う。
「なに、昨日の内に別れは済ませましたので、これ以上は語る事もありませんて」
 ならばいいがとは思いつつ、己も別れを言いたかったとも考える射命丸。だがゆやが無事子を産んで戻ればまた会えるのだからと、それを振り切る。
「射命丸様、頼綱様、出発しますよ!」
 馬上から叫ぶゆや。身重の、それも参州公の妻だなどとはとても思えない。
「まったく。ゆや、少しはお腹の子の事も考えて」
「はーい、自重しまーす」
 しかし慣れているのなら馬でも構わないかと、かつてのお転婆ぶりを取り戻しつつある彼女を、射命丸は嬉しそうに眺めるのであった。

       ∴

 月も終わりに近づき、巻き狩りの隊が鎌倉に帰着する。だが居並ぶ彼らの相貌は、まるでひと戦をこなしてきたかの様に消耗していた。怪我をするなどでは無い、精神的な消耗が見て取れた。
 巻き狩り隊の帰着にも関わらず、範頼は依然として御所に止まっていた。

 ここに至った経緯は、極めて複雑であった。
 発端となったのは、巻き狩りの最後の夜に起きた一つの事件である。
 曾我祐成(そがすけなり)と曾我時致(ときむね)の兄弟が、父の仇として、血筋の上は同族の伊東氏、工藤祐経を討ったのである。
 祐経は工藤祐継(すけつぐ)の子であり、祐継は伊東祐親入道の弟。だが血縁に係る話はまだ長い。
 祐親の祖父は工藤祐隆(すけたか)と言い、その嫡男で祐親の父であった祐家(すけいえ)が早世すると、祐隆は後妻の子である祐継を嫡子として扱う様になる。その為、伊東氏の本貫地である伊東荘は、まず祐継に継がれたのであった。
 それを祐親は恨みに思い、祐継の死後に祐経を謀り伊東荘を取り戻し、今度はそれを恨んだ祐経が祐親を暗殺しようとしたが、これが的を違えて祐親の嫡男であった河津祐泰(かわづすけやす)を討ってしまったのだ。
 その祐泰が残した子が、当時五歳であった一萬丸(いちまんまる)、後の十郎祐成、そして同三歳の箱王丸(はこおうまる)、後の五郎時致であった。
 彼ら兄弟は曾我祐信を養父として、また近隣の豪族であった北条氏の庇護を受けて育ったのである。
 この絡み合った縄が、巻き狩りの最中、兄弟によって盛大に叩き切られ、伊東氏一族の因果を精算した――かに見えた。
 だが、事態はそれだけに収まらなかったのだ。
 仇討ちを成した曾我兄弟は巻き狩り隊の中を駆け、多くの御家人に刃傷を追わせた挙げ句に、祐成は討たれた。だが弟時致はその後も駆け続け、ついに頼朝の寝所にまで至ったのであった。(※3)
 しかしこれは頼朝本人と近習が退け、それ以上は事無きを得た。
 仇討ちに止まらなかったこの狼藉、当然生き残った時致はその場で詮議にかけられたが、あくまでも彼は「本懐を果たしただけ」と語り、頼朝の寝所にまで至った事については「その正当さを申し開かんが為」とだけするのであった。
 到底納得出来よう話では無い。
 時致はすぐに斬罪に処されたが、それは鎌倉中にも波及する事態であったのだ。
 その渦中に、範頼は居た。

       ∵

 遡って仇討ちの翌日。まだ事態を知らぬ範頼は、常と同じく御所に出仕していた。
 辺りの様子はいつもと変わり無い様に見えたが、何か妙な雰囲気が漂っているのには範頼も気付いた。巻き狩りも最終日に至ったとはいえ、まだ帰着の受け容れは先。その割に出仕の御家人がいつもより多い。
 少しの違和感を覚えながらも、彼はいつも通りに御所に入っていた。
 文机に向かい書類をしたためる範頼に政子が近寄る。
「参州殿、ようやく巻き狩りも終わりますね」
「これは御台様、ええ、ようやくですね」
 範頼は、政子が頼朝の帰りを待っているのだと解しつつも、自身は早く人手が戻って欲しいと、心中で悲鳴を上げていた。巻き狩り隊に斯様な事態が起こっているとも知らずに。
「少し、外しませんか?」
「はあ?」
 忙しいが政子の誘いを断るだけの理由も無く、仕方なく従う範頼。着いたのは政子がよく女房らを招く一室であった。だが今、そこには誰も居ない。
「参州殿、もしも、鎌倉殿に某かの事がありましたら。参州殿は如何に振る舞いますか」
「万一の事態?」
「戦では油断無く生き延びた御殿ですが、巻き狩りの如き催しには油断して、某かのこと故(※4)があるやも知れませぬ。そうなった時、貴方は如何に?」
 縁起でも無い話だ。そんな風に思いつつも範頼は答える。
「そう、なってみなければ分かりませぬが。鎌倉殿が巻き狩りで事故に見舞われるなど、中々想像が付きませぬ」
「……そう、では、そうなってからの話ですね」
 話はこれだけかと、なんとも奇妙な気分になりながら。範頼は暇乞いをし、元通りの仕事に戻る。
 そして鎌倉が動いたのは、次の日であった。

 富士野より飛脚が参着し、それが曾我兄弟の仇討ちと頼朝の安否不明を伝えてきたのである。
 昨日の今日の事でもあり、範頼はおおいに困惑し、政子の元を尋ねた。
 御所には昨日にも増して御家人が溢れかえっている。
「御台様、鎌倉殿の身に何事か起こったとの旨、ご存じでありますでしょうか?」
 努めて落ち着き、平静な様子で言うが、額や背には脂汗が滲んでいる。
 対面する政子は本当に涼しい顔で応じる。
「参州殿、これが、某かの事であります。さて、如何になさいますか」
 昨日の事が単なる戯れ言ならそれで良かったのだが、そうでは無いと今確かに知った。そして範頼は昨日からここまで、多くの考えを並べてみていた。
 その中で北条に特に関わる者と言えば、北条時政と小四郎義時。この二人である。二人とも、今回の巻き狩りでは事を起こしやすい位置に居た。
 まず時政、彼は巻き狩りの警備を奉行していたし、義時などは頼朝の供回りを勤めている。いずれが事を起こすにせよ、北条の手が伸びるのは間違いないと、昨日あれから考えてみていた。
 そこに加えて、今回事を起こしたのが曾我兄弟である。弟の時致は時政から一字を授かっているのが分かる。加冠親、烏帽子子の間柄であるのだ。
 その縁の深さは看過出来なかった。
 事が起こる、この鎌倉中でも。全てが周到に用意されているのであろうと、範頼は察した。
 今現在御所に溢れる御家人もまた、その一環なのであろうと。
 範頼は心を殺し、とても穏やかな笑みで政子に言う。
「大丈夫です、御台所様。私が控えておりますので」
 鎌倉は持たせられる、それだけの伝手が自身にはある。だがそれは頼朝の鎌倉ではない。そうではあっても、頼朝に万が一があったなら、その思いを継ぐのは己しか居ない。
 範頼は今、北条氏に対して明確な挑戦を叩き付けたのだ。
「参州殿、今仰った言葉の意味、自覚しておられますでしょうか?」
「はい、無論」
 分かっている。鎌倉の主の地位を簒奪する、そう言っているのと違いは無い。
 頼朝の安否は未だ不明。もし彼が生きているならば、問い糾されるであろう文言だ。だが今これを言わなければ、北条氏の、この政子の簒奪を許す事になる。それを阻止するにはこの手しか無かった。
 もし太郎がここに居たら。範頼はその眼が今欲しかったが、それを望む前には、言葉が口を突いていた。
「私も、私は御殿と、貴方とも心は一緒であります」
「えっ?」
「参州殿の今の言葉、叛意とも取れるでしょうし、もし聞く者が聞けば――」
 牽制となり、事を思い止まるであろう。
 まんまと利用されてしまったと範頼は思った。
 思えば政子も義時も、時政との仲は不和である。彼女らがおいそれと時政の企みに乗るはずが無かった。
(軍を進めては悠長だと言われ、筆を進めては拙速だと言われ、本当に私は、迂闊だなぁ……)
 席を立って、恐らくは今の言葉を時政の息の掛かった者達に伝えに行くのであろう政子。彼女を見送りながら、範頼はただただ自嘲するのであった。

       ∵

 範頼に掛けられた嫌疑は端的に言えば謀反である。その真意はいざ知らず、否、真意を知るからこそ彼を陥れようという者も居た。
 それらの圧力は、無事帰着して事後の処理に当たる頼朝にも覆せず、範頼にも反駁の余地は無かった。
 陥れようという勢力は巧みに姿を隠し、しかし鎌倉にはしっかりと根を下ろしていたのだ。そして頼朝は、その力をまだ必要としていた。
 範頼にはもう、覚悟は出来ていた。奥州で聞いた頼朝の鎌倉、それに馳せた思いは結晶と化して、消えることは無かった。
 己が身が無事なまま、鎌倉が頼朝の下で進むなら、助かりたい。当然の事だ。だがそれが許されないのは始めから分かっていた。
 自身に残された道は、多くの御家人らと同じく、鎌倉の礎になることであると、そう規定していた。
 範頼が今したためるのは、叛意が無い事を申し開き誓う起請文であったが、それこそが、その規定を確固とする物であると信じていた。
「参州殿、如何かな?」
「ああ、中原殿。書状などはいつもお付きの僧に書かせていた故、字も文も拙いばかりで恥ずかしい限りです」
 表情を崩さず、下書きされた起請文を一瞥する中原広元。範頼の謙遜は最初から耳に入っていない、申し分の無い文言だと彼は判断する。だが最後の最後に、彼は僅かに片眉を上げる。
「参州殿、本当にこれは、鎌倉殿に宛てた物でありますか?」
「はい、その通りです」
 気付いたかと範頼は安堵する、これなら頼朝も気付いてくれるであろうと。
「参州殿、貴方は今、何を考えておられるのか?」
「鎌倉の、未来です」
 ハッキリと言ってのける範頼に、広元ですらも唸る。
 しかし彼にも、その一文字に込めた範頼の意図を推し量ることは出来なかった。

 提出された起請文は、広元の手から頼朝に渡され、頼朝は一言一句に目を通し、そして気付いた。
 嘆息し、黙想する頼朝。彼は板挟みになっていた。
 鎌倉の為には、いずれかを切り捨てねばならない。そしてそれは、黒幕らより範頼を選ぶべきであると、そこまで判断していたのだ。
 だが、それが決断出来なかった。彼を生かすも殺すも出来ず苦悩する頼朝は、思い立つ。
「盛長、居るか?」
「はい、御前に」
「蒲殿を連れて参れ、問い糾したいことがある」
「御殿、蒲殿に叛意などありませぬ」
「そんな事は分かっておる」
 もとより範頼に叛意どころか、野心の欠片も無い事など知っていた。だが、未だに尻尾を掴ませない今回の事件の黒幕達は、陰から彼の誅殺を押してくるのだ。
「はっ、ご無礼を……」
 言って退座し、命じられたとおりにする盛長。頼朝の元には、一刻も経たずに範頼が連れて来られた。
「蒲殿、此度の件について問い糾したい。事実関係に相違は無いのだな?」
「はい」
「巻き狩りの事件については、無関係であるな?」
「はい、そこにしたためました通り、上には梵天・帝釈、下界には伊勢・春日・賀茂、とりわけ氏神である正八幡大菩薩に誓いまして」
 頼朝はそれには納得と頷き、しかしたった一文字について尋ねる。
「名を、源範頼、としたのは、如何なる故か?」
 紛れもなく源氏、同じ父を持つ兄弟ではある。しかし今まで、源姓を名乗ったことは無い。それなのに何故ここでその様に署名されているのか。
 これでは、叛意の裏付けになりかねない、そう頼朝は問う。
「鎌倉殿の弟として、源姓を名乗ったまでです」
「今まで、兄とも呼んだことが無いのに、か?」
「は……」
 源姓を記すること、そしてそれを責められることは覚悟していた。だがそこからこの様に踏み込んでくると、範頼は思っていなかった。
「ワシを兄と思うなら、そう呼ばぬか?」
「はっ、兄上」
 それを聞き、頼朝はまたフッと笑う。
「そうだ、俺はお前の兄だ。もう、義経の時の様な轍は踏まん。俺には、お前が必要なのだ」
 この度の黒幕達よりも。頼朝は範頼と対面し、そう断じた。
 範頼は嬉しかった。だが同時にこれを由々しきことであると捉え、後悔した。このままでは、頼朝の鎌倉は瓦解する、今、養父の公家頼みの己が持つ物は、頼朝の求める物ではないのだと。
 誰か事態を動かして欲しい。心からの祈りは、“彼女”の眼に届いた。

       ∴

 浜の館に待機していた太郎は、ずっと範頼の様子を眼にしながら、それを頼景達にも伝えること無く、己の胸にしまい込んでいた。
 己がその時に範頼の下に在れば、こんな事にはならなかったのに。その様に、誰が責めるでも無い責任を感じていた。
 そして今、彼女は決心した。
 二つの願いがある。一つは範頼の願い、もう一つは己の願いだ。いずれも、己が動けば叶えられる。
「太郎。どうだ、参州殿の様子は」
 次長が後ろに立っていた。いつもの厳めしい顔では無い。時折、実の孫のゆやにも向ける、優しい顔をしていた。
「クゥーン……」
(頼景様にも挨拶したいな、でも止められるな)
「参州殿の身に、何かあったのか?」
 太郎は首を激しく振って否定する。
「そうか、ならば良いが」
「ヲン!」
「ん? なんだ?」
(さようなら、お爺様)
 太郎は立ち上がり、目にも止まらぬ早さで館の中を駆けて大太刀を掴み取り、顔を布で覆うと、鎧直垂姿のままで夜の若宮大路を北進する。
 次長も頼景も付いて来ない、追いつかれないように全力で駆けているのだから当然だ。
 空では射命丸が一等速いだろうが、大地を征くのならば負けない。そう、白い疾風が駆ける。
 範頼を助けた上で、鎌倉が瓦解しない様にする術、己に出来る一つの方法で、己にしか出来ない方法を思い浮かべていた。
 頼朝が範頼を赦免するのが拙いのであれば、放免せざるを得ない状況に追い込めばよいのだ。そうすれば、範頼の断罪を望む者達も追求は出来ない。
 強引ではあるが、自身にはこれくらいしか出来ず、範頼の望みの半分を活かすにはこれしか無いと信じた。
 篝火の焚かれた御所の壁を一飛びで越え、庭に降り立つ太郎。気付いた立哨は慌てて周囲に呼び掛け、鳴り物を鳴らして周囲に知らせる。
 供回りの者も出て来るか、それでも構わない。庭もまた一歩で横断して、御所の濡れ縁に立つ。目指すのは頼朝の寝所。
 頼朝には幾度も刺客が放たれた過去がある。警護の兵もやはりそれを最優先に考えていたのか、寝所への庭や回廊に兵が現れる。
「ガウッ!」
 気合いを込めた一閃、鞘に収まったままの大太刀を力任せに振るうと、一挙に二人があちらの方へすっ飛んで行き、のびる。
 前に立ちはだかる者は次々と飛ばされる。誰にも止めることは出来ない、一ノ谷を駆けた精兵当麻太郎の姿がそこにはあった。
 頼朝はすぐそこ。そう見透す彼女の前に、一人の若武者が立ちはだかる。
「止まれ! 鎌倉殿の寝所と知っての狼藉か、梶原源太景季がお相手いたす!」
 なんでこの人なのだ。
 太郎の一瞬の躊躇を、もう一人の若武者は見逃さなかった。
「ギャンッ!」
 彼は後ろから近付くと、一瞬で組み伏せ、腕を極める。いくら膂力に差があろうとも、こうなっては動きようが無かった。
「景季殿! ご無事か!?」
「朝光殿! かたじけない」
 何の因果なのであろうか。だが挫かれるのであれば、この二人で良かった。太郎は抵抗を止め、朝光にされるがままに起こされ、砂利の上に叩き付けられる。
「朝光、どうだ!」
 襦袢を着た頼朝が太刀を手に現れる。二ヶ月前に刺客に襲われたばかりだ、すぐに起きて迎撃の準備を整えていたのであろう。
 朝光は片手でしっかりと腕を押さえ、景季がそれを助ける。辺りには警護の兵も集結しつつあるが、皆鬼神の如き武力を恐れて距離をとり、二人の若武者を頼りにしていた。
 朝光が布を剥ぎ取ると太郎の白い面が露わになり、同時に侍烏帽子も脱げて、山犬の耳も姿を晒す。
「当麻、、、殿?」
「そんな、まさか……」
 狼藉者が己であった事にも、そして妖であった事にも驚いたであろう。景季と朝光がどんな顔をしているのかが見えないのが、太郎には残念であった。
 頼朝だけは動じる風でも無く歩み寄り、二人に問い掛ける。
「お主達、この者を知っているのか?」
 先に答えたのは朝光であった。
「参州公の郎党、当麻太郎殿と存じます」
「朝光殿」
「曲者の身上を隠し立てする気ですか? 景季殿」
 景季は口をつぐむ、並べる言葉は無い。
「蒲殿の、郎党。そうか……」
 頼朝はじっと太郎を見る。恐れるか、そうでなければ即刻斬られると思っていただけに、その感慨深げな視線が不思議でならなかった。
「御殿?」
 朝光の呼びかけにもジッとしていた頼朝は、やおら顔を上げ、彼に命じる。
「朝光、この者の沙汰はお主に任せる――かつて八幡様の神託をくれたお前の心が、俺の心だ……」
 朝光は一瞬逡巡してから、
「はっ!」
 強く発する。
 八幡様の言う通りか、便利な言葉だと太郎は思った。どんなに非道いことも、それでどうにかなってしまうのだ。相親しんだ者を討たせるのだって、どうにか。
 今見にかかろうとする最大の災いを前に、太郎は、それをするのがずっと親しんで来た者達であるのを幸せに思い、彼らには申し訳ないと心の中で謝っていた。

       ∴

 御所にて蒲冠者の郎党が狼藉、のちに捕縛。
 その報は次の日には鎌倉中を駆け回り、当然、浜の館にも届いていた。
 その夜、浜の館には頼景と次長以下の範頼の郎党、鎌倉に駐屯する相良の衆が参集していた。この様な時に集結するなど、謀反の疑いを強くするだけであるが、構うことは無かった。それを企図して集まったのだ。
 皆は最後と酒を酌み交わし、高らかに歌い、笑う。当麻太郎の弔いだ、蒲殿を助けに行くのだと、鎌倉の重役に就けた者も中には居るのに、誰も彼もそれを捨てて駆け付けてしまった。
 皆、太郎の心意気を知り、後に続こうと決めたのだ。
 派手な騒ぎの側で、静かに酒を呑む頼景と次長。次長は酒をあおり、正面を見据えながら問う。
「四郎殿、一つ聞いておきたいのである。お主、太郎のことが――」
 この老人は何を言い出すのだと、少し吹き出してから、視線を土器に落とし、酒を揺らして寂しげに答える頼景。
「違います。太郎は俺の娘、だった」
「そうでなくば妹かと思っていたが、これはしたり」
「かつての太郎は、ゆやと蒲殿の妹であったでしょう。だが今の太郎は、俺の娘だ。おかしいとお思いでしょうな、領内外のあちこちに子をこしらえておいて、今そうと認めるのが畜生一匹など」
 誰がそんなことをと、次長は大きく首を振る。
「思わぬ。あの太郎、畜生などと思った事も無い。しかし異議はある。あの娘は儂の孫娘である」
「孫娘、ですと?」
 いよいよ何を言い出すのだと、いつもならうっとうしかった彼の言葉が、今の頼景には楽しく思えた。
「うむ。四郎殿はいつ、太郎を娘として迎えたのだ?」
「奥州征伐の後、ですな」
「ならば儂が先だ」
 後先の話ではないであろうと、失笑しつつも酒を勧める頼景。
「四郎殿と儂に血の繋がりは無い、このままならば太郎は儂の孫である。だが、お主が儂と親子の盃を交わすなら、太郎はお主の娘であり、儂の孫だ」
 この期に及んでとんでもないことを言い出すものだと、お堅い侍としか思っていなかったこの老爺の優しさにほだされる。
「では、今より俺は、勝間田様の子ですな」
「うむ」
 盃を回す二人。親に子に、想う事は余りに多かった。
「思えば娘と孫達には、親らしい事も、爺らしいことも、何一つしてやれなんだ」
「孫達、、、ですか」
 太郎の事では無い。そして頼景は、ゆやが藤の娘であり、その藤の父が彼であるとは知らない。それでも頼景は確信に近いものを持っていた。誰が彼の“娘”であり、誰彼が彼女の“子達”であるかを。
 そして、あの事が無ければ、決して彼らが結ばれる事などは無かったのだ。
「おっと、これ以上は何を問われても答えん。これは冥府まで持って行く秘密である、知りたくば地獄へと共をするべし」
 何やら面白そうな話だ、それならとくと聞かせて貰おうと、太郎の思いを果たすためにここに集った者達は愉快そうに言い、全く見当違いな話を交わしながら笑い合う。
 本当はそんなに愉快な事ではない、そうなるしかなかったあの二人の事を、頼景は瞼に浮かべる。
「まったく、勝間田様は狡い。が、どのみち俺も行く先は同じ、あちらでじっくりと聞かせて下され」
「うむ。刻限もそろそろだな、では四郎殿、盃を」
「おう。我らが逝くは参州殿のため、ひいては鎌倉のためである。この後に謀反のそしりを受けようとも、いざ!」
 男達は一斉に「応!」と声を発し、盃を空ける。

 浜の館を包囲する篝火。鎌倉中を騒がせないようにと夜間に決行の運びとなった鎮圧隊であった。
 門が破られ、前庭に徒武者ばかり十人が殺到する。
 そこに館からも打って出る頼景らの隊。その先頭に立つのは次長であった。
 全力で太刀を振るう次長、歳からすれば尋常で無い働きであったが、多勢に無勢と囲まれる。
「勝間田様!」
 頼景は救援に出ようとするが間に合わない。次長は、四方八方からの攻撃を凌ぎきれず、雑兵らの薙刀の海に沈む。
「勝間田様ぁ!!」
 滝口の武者としての仕官も叶った次長であったが、もう、年老いすぎていた。
 思った様に産まれることは誰にも叶わない、思った様に生きることも難しいだろう。だからせめてもと思った事すら許されない現実が、ここにある。
「無念だ、思った様にすら、死ねぬか」
 言って、次長は事切れる。
 一瞬だけ驚愕の表情を浮かべていた頼景、だが次の瞬間には微笑み、彼の死にも華を添えようと高らかに発する。
「勝間田様……よき敵よ来やれ、この古強者に代わり、拙者がお相手いたす!」
「ならば、それがしが」
「ほぉ、これはこれは」
 雑兵が道を空け、姿を現したのは朝光であった。
 頼朝から拝領したという太刀の白刃を煌めかせ、彼はじりじりと間合いを詰める。
「お手前とはお初にお目にかかるか。名を伺いたい、拙者は小山の生まれ、結城七郎朝光と申す」
 あえて頼景に名乗らせようとする、それは情けなのであろうか。
 太郎は彼に捕らえられたと聞いた、ならば斬ったのも彼か。この若者が太郎を送ったというのなら、頼景にも受け容れられた。
 だが――
「遠江国の、元は滝口武者であったそこな父の子。親子揃って蒲冠者に拾われた、しがない浪人だ」
 力は尽くす。ただで死んでやるわけにもいかぬ、朝光もそれを望まぬ。刃を正面に構えて、最高の敵を向かえる。
 朝光の後ろには頼景の姿を見て驚く景季が居た、少し離れて景時の姿もある。全てでは知らなくとも、おおよそ事情を知る者がここに送り込まれて来たのだ。
 朝光にしろ梶原親子にしろ、この差配は頼朝によるものだろう。ならばやはり彼の人物は範頼の信じた通りの男であり、太郎の死も己の死も、鎌倉のためになるのだ。
 頼景は、自身を相良四郎でない誰かとする声を上げながら、悟った。
 朝光が間合いに入る。彼も頼景を間合いに収めた。そこへ景季が太刀を手に駆け寄ろうとする、明らかに狼狽した足取り。
 もう若者という時期は過ぎたろうに。猛々しくも爽やかな様を失わず、ここまで武勇を重ねてきた彼の下には今も磨墨が居る。
 大事にしてやってくれ、頼景は心の中で微笑んだ。
 景季を僅かに視界に捕らえていた朝光が叫ぶ。
「これはれっきとした立ち会いにございます、どなた様も手出しご無用! 寄らば……斬ります!」
 周りに在る者は全て敵、その様な苛烈さを見せ付けながら、朝光は袈裟懸けの雲曜の一閃を見舞う。
 頼景は、速いが予想できていたこの初撃をいなすと、白刃を正眼から大上段へ滑らせ、すぐさま振り下ろす。
「ちぇえええい!」
 朝光の前には既に刀が帰っている。一瞬だけ息を吸って「フッ」止めると、頼景の一撃を迎えて、弾いた。
 剣線を逸らされ、僅かに左に前のめりになった頼景。頼景の右肩を見据えて刀を振る朝光であったが、その脇腹に鈍痛が走り、一瞬で肺の腑の息が押し出される。
 朝光の脇楯と胴板の間に何かが刺さっている。朝光本人は何が起こったのか理解出来ずに居たが、辺りに居た者と、当然頼景は分かっていた。
「なん……」
 太刀は頼景の左手にある。その鞘を逆手にして、鎧の隙間に挿し込んでいた。しかもその後に思い切り叩くというおまけ付きで。
 空気を求めてあえぐ朝光。腰刀で頼景の鞘の下げ緒を切ると、今度は逆手で彼の右袖を突く。だが浅い。
「おうりゃ!」
 頼景がそう吠えたかと思えば次は前蹴り、朝光の胴を足蹴が捉える。
 後ろへ三歩四歩とたたらを踏み、腰から落ちながらも、なお刀を放さない朝光。頼景への袖から腕への攻撃も、全く貫けていないのが誰の目にも分かった。
 鞘の方は効いている。ここぞとばかりに躍り掛かる頼景に向かってその鞘が投げ付けられる。これを頼景がかわす隙に、朝光はようやく構えを戻した。
「なんという、出鱈目を」
「奥州征伐であれだけの武功を上げた結城殿にその様に言われるとは、嬉しい限りだな」
 頼景自身ここまで通用するとは自身でも思っておらず、本当は金的でもなんでも見舞ってやろうと思っていた。命のやりとりをしているのだ、お綺麗では彼にはとても敵わない。
 仕切り直した両者。当初の体勢に戻ったと見るや、朝光は電光の如く刃を煌めかせて連撃を加える。並の鍛錬では打つ事も受ける事も出来ないこれを払い、頼景も辛うじてしのぐ。
 反撃を試みようとするも、間髪入れずに一撃が入る。若さに任せた有無を言わさぬ鋭さには誰もが舌を巻く、しかし彼の戦いざまを知る者には不思議であった。
 朝光は殆ど一刀のもとに相手を屠ってきたのだが、この立ち会いは既に十合を超え、幾度か鍔迫り合いも交えている。稽古でもここまで持たせた者は皆無。
(手加減しているのではあるまいな)
 頼景は思い、それならばと乗じて反撃を加える。
 朝光は、一撃に全力を尽くさずとも十分に相手を斃せる力量を得たが故、却って一合ごとの全力に応じられなかった。それに脇腹への打撃も効いていた。
 頼景は刀を握るよりも鍬や鋤、馬の手綱を取っていた時間の方が遙かに長い。明確に侍である朝光とは全く違い、幼少の時から今まで。
 幾度か鋭い斬撃をしのぐ中で、粘り強さが両者の体力を逆転させていた。
 朝光は余裕を失い、力を絞り出す。対する頼景は拮抗したと見るや、全力を発揮し続ける。
 何度目かの交叉で刃の押し合い。朝光に押し返す体力は無く、徐々に押され始めた。
「朝光殿!」
「手出し無用!」
 景季の加勢を止めた彼は、頼景を見据えながら小さく呟くぐらいに言う。
「頼景殿、当麻殿を捕らえたのは拙者です」
「聞いた」
「当麻殿とは、何者なのですか?」
「ゆやの妹、勝間田様の孫。そして、俺の娘よ」
 そう覚えておいてくれ、願いながら答える。捕らえて始末した朝光なら知っている事だろうと思いつつ。
「……太郎殿は、生きておられる」
 驚きの余り体勢が崩れそうになり、優位な状況のまま刀を弾いて跳び退る頼景。
 違う、それでは駄目なのだ。彼女を生かしておくという沙汰の先にあるのは、範頼が、彼は、彼の望むことは、そして自分達が彼の心を汲んで行ったことは、そこに帰着してはならない。
 しかし、
「そうか、太郎が……」
 期待せずにいられない、それが嘘だと知りつつも。
 その心の隙を朝光は見逃さなかった。頼景の顔を見据え、白刃を篝火で煌めかせ、雷光の如き逆胴を見舞う。
「朝光、、、汚いぞ……」
 腹と胸の内臓全てに衝撃が走った。頼景は遠のく意識の中、己の体がゆっくりと落ちるのを感じる。いつ大地にぶつかるのだろうかと考える暇すらあった。

 もう己は死んだのだろうか、いつまで経って倒れた衝撃が無い。代わりに誰かが受け止めた感触を覚える。
 これはまぼろしか。そう思った頼景の頬に、ヒトより強い熱を持った手が触れる。まぼろしではない、彼に触れるのは、兜の下に白い髪を隠した少女。
 彼が手を伸ばすと、空いた方の手で握り返す。焦点の乱れた彼の視界の中で、太郎の貌は酷く崩れていた。
 泣きたいのに泣けない、苦しげな面。これだけの兵の中では泣くわけにも行かないだろう。それ以前に彼女はその術を知らないのだったと、朧気に思い出す。
「――」
 視界が徐々に暗くなる中、太郎の唇が動き、頼景は何かを聞いた気がした。
(太郎、こんな所に来てはいかん、危ないぞ……)
 穏やかに目を閉じ、意識を奈落へ沈ませていった。

 御所での当麻太郎の狼藉、続く浜の館での郎党の騒乱。これを以て範頼に下った沙汰は、伊豆国修善寺への配流であった。

       ∴

 範頼の伊豆への配流、それに浜の館での騒動を知らないまま、蒲神明宮でゆやの出産を待つ射命丸。臨月となってゆやの腹もいよいよ大きくなり、その時も間近かと見る。
 男児であれば彼の跡取りとなろうか、そうなれば北斗丸達はどうなるであろう。女児ならば、ゆやと共に手元でうんと可愛がってやろうか。
 そんな想いの中に、不意にある人物の事が思い浮かんだ。ゆやに救われ、救った彼女が慕った妖、ヤマメ。
 あの妖なら、ゆやの子の事を喜んだであろう、多分そうであったろう。思えばあの時から始まった戦いは、今こうしてゆやが子を成す事で終わるのだ。
「射命丸様、門前にご来客だそうです」
「ゆや、歩き回らず安静にしていないと」
「あら、坂東では女は出産直前まで働くんだって言うし、このぐらいは平気へっちゃら」
 細い腕で力こぶを作って見せる。この痩身は未だにあの時のままであるが、馬の取り回しはそこいらの武家の女(むすめ)にも負けないし、野良仕事などは慣れたもの。
 とは言え、臨月では事情も違う。いいから休みなさいと射命丸が言って部屋へ上がらせると、彼女は少し口を尖らせて拗ねた風な顔をする。
 もういい歳なのに子供みたいな仕草だと、射命丸は苦笑する。
「ちぇー、これなら言伝なんか来るんじゃなかった」
「私と、お腹の子には幸いよ。で、来客って?」
「ええ、桜坊様がいらっしゃってるの」
 射命丸はすぐに席を立ってそちらへ向かう。
 彼がわざわざここにまで足を運ぶなどとは、どんな用件であろうか。三尺坊権現の伝言での雑事ならいいが、帰山の命令なら断固として断る。万一それなら独立も止む無しと意味も無く意気込む。

 門前では、桜坊が門衛の神人と世間話をしていた。
 この人好きのする老爺相手ではしょうが無い。門衛に招いた客であるとの旨を伝えてから、彼を連れて境内に入る。
「お久しぶりです、桜坊様」
 軽い気持ちで挨拶をする。しかし彼はにわかに険しい貌になり、声を落として言う。
「……時間がありませんから手短に話します。過日、参州様が伊豆へ下向させられ、今そこへ梶原様が兵を向かわせつつあります」
 今から飛べば間に合うかも知れないと桜坊は急かす。今現在の話なのか、射命丸は突然突き付けられた言葉に思考が追いつかない。
 なぜ範頼が伊豆へ流されるのだ。彼が義経のようなことをいつしたか、側に居た自分にもまったく覚えが無い。そうなると鎌倉に残った頼景や次長はどうなる、彼らの身も危うい。そして、太郎も。
「何が、、、一体何があったのです!?」
「それは後からでも話せるでしょう。いえ、行ってご本人から直接聞きなさい!」
 場所は福地山(ふくちざん)、修善寺傍の信功寺である。桜坊が続けるとその言葉に従い、射命丸は衆目を鑑みることなく飛び立つ。
 一挙に高度を取り一路東へ。黒く光る、日の本で最も速い翼が雲を引きながら飛んで行くのを、桜坊は手をかざしながら見送る。
「あれでは、間に合ってしまうかも知れませんね」
 彼にはそうであっても良かった。しかしそれは範頼が最も望まない事、だからこそ今更知らせに来たのだ。
 間に合うか否かの今にしたのは、首を取られる前に、せめてその顔を彼女を拝ませようとも思ったからであった。

 前日に鎌倉を進発した五百余騎の兵馬が、伊東から伊豆の山中に分け入り西進する。
 範頼の下には世話役の雑色数名が残るのみ、この様な兵を寄せる意味などどこにも無い。しかもその大半は吉見の衆、範頼の手勢と言ってよい。
 楚の国の故事(※5)を引くのではない。この軍団と、率いる景時はそれを知っていた。
 鎌倉の、日本の礎になるのは、範頼ではなく己だ。景時は強く思う。頼朝による大業が為った今も、それを支える血を分けた一族が、今後まだ必要なのだ。
 坂東の多くの氏族と婚姻での盟約を結んだ北条の力はまだまだ必要でも、決してその血が表に立ってはいけない。望みは、範頼の下にこそある。
 これから一時は混乱があるかも知れないが、それもまた頼朝の構想の一環。彼ならば全てを収めてくれると信じていた。
「各隊伍毎に往来を塞ぎ、修善寺を包囲せよ。信功寺へは儂一人が赴く」
 川沿いへ兵を配置すると、残る数十騎と共に修善寺へ立ち入る。ここへ残りの兵馬を置き、下馬して西へ歩む、信功寺はすぐそこ。
 どうせ気付いている事であろうと、彼はその本堂へ踏み込む。範頼が大鎧に身を包み、経を上げていた。
「平三殿、ですか」
「蒲殿、私が何用で参ったか、お分かりですな?」
「ええ、ですからこの様な格好をしておりました。しかし未だに慣れないのです。着付けるのに一刻もかかってしまいます」
 側に在るはずの雑色の姿は無い、逃がしたのか。景時は太刀に手をかけながら、毎日この様な事を繰り返していたのかとも推し量る。それも今日で終わりだ。
 範頼も太刀を携えている。初めて景時と対面した時は太刀に人がくっついている有り様だったのも、今は――慣れぬ慣れぬと言いながらも――紛れもない武人の姿になっていた。
「得物はありますな、では手合わせ願おう」
「どうぞ、存分に」
 やはりこの男は源氏の、鎌倉源家の者だ。景時は刀を抜き、刃の向こうに範頼を見ながら思う。
 範頼もまた、刀身をゆっくりと持ち上げた。

 射命丸は遠江から駿河湾を横断して駿河を抜け、つばくろやあらゆる猛禽達よりも速く、風すらも追い越して伊豆の半島へ到着する。土肥郷の上空からそのまま山中を抜け修善寺へ。
 例えどんな大軍で攻め寄せられようとも、範頼一人ならば救い出せる。その自信はある、それは間に合ったらの話。いや、疑う事無く間に合う。
 修善寺上空まで到達し、かなりの数の兵馬に気付くがお構いなし。あえて修善寺の、兵の屯(たむろ)する境内へ堂々と舞い降りる。
 驚く兵達、馬も何頭か驚き、いななく。射命丸は見覚えのある顔がいくつか混じっているのに気付いた。
「参州殿は、蒲殿はいずこか!」
 動揺する兵達。飛行に加え、その背には通力の副次作用の黒い光の翼、驚かない訳が無い。それでも彼女の顔を知る幾人かが、信功寺の方を指し示す。
 隣接して本当にすぐそこにある寺へ走る。
 かくして本殿の木階の手前に彼らは居た。お互いに太刀を構え、今まさに斬り結ぼうとしている。
 範頼を買っていたという景時が何故。駆け出しながら叫ぶ。
「蒲殿!」
 その瞬間、大きく振りかぶりながら斬りかかる景時。
 遅い、範頼ならばしのげる。
 そう信じながら手を伸ばす射命丸の視線の先で――彼は、斬られた。

 射命丸の足が止まり、範頼の体が崩れ落ちる。
「何故、何故でござるか。蒲殿!」
 残心を取りつつ、二歩三歩と後に下がった景時が、喉の奥から絞り出し、叫ぶ。
「平三殿、首は、お忘れに、ならぬよう」
 苦しげに範頼は言う。大鎧が左の肩口から深々と切り裂かれ、その下には鮮血が溢れ出る。
「蒲、殿……」
 へたり込む射命丸。ついさっき、突如もたらされた彼の危機が、現実となってここにある。何かの冗談にも、悪い夢にも思えた。
 近しい誰かが死ぬ、戦に出ている時はよく見た夢。常光が死んだ後はより、見続けた悪夢。
 いきなり桜坊が尋ねて来るのも変な話だし、つい先日まで鎌倉に居た時は何も無かったのに、何がどうなればこんなに不可解な事態が起こるものか。
 信じたくなかった。しかし、現実であった。
「平三、殿、少しだけ、時間を」
「……勝手に、なされよ」
 景時は踵を返し、胸を張り肩を怒らせて射命丸の脇を抜ける。
「一貫坊、様」
 見れば血の泡を吐いている。骨を裂き、肺の腑までやられているのは直ぐに分かった。
 射命丸は脚に力を込め直し、倒れた範頼に駆け寄り、
「はい、ここに、ここにおります!」
 膝を付いて彼を抱き起こし、必至で語りかける。
「すいま、せん。勝手を、赦して、下さい」
 それは、わざと斬られたと言う意味か。何のために。射命丸は本当に何も知らされていなかった事を知る。そしてこれがゆやを、己をも守るためだった事も同時に悟る。
 それより何よりも血を、手当てを。薬を取り出し、必死で傷を押さえる。
「これでは、あの時と、逆です、ね」
 あの時、いつの事だ。どう答えてよいか分からず、顔が歪む。
「天竜川で、怪我を、していた、鴉は……」
 気付いていたのか、知っていたのか。既に憂き世から離れつつある彼の瞳の奥に、かつての少年の面影があるのを見る。
「ええ、そうです、私です。だから喋らないで、傷が、傷が――」
「良かった。今まで、聞きそびれて、いたから。元気で、いて、良かった」
 何が良いものか、ゆやと貴方の人生を狂わせたのは己であるのに。そう射命丸は首を振り、
「お願いだから……」
 涙を溢れさせかける。
 範頼は唇を噛んで懇願する彼女の目元へ手を差し出し、言葉を紡ぐ。
「射命丸、様。ありがとう、好き、でした」
 言って、笑みを浮かべる範頼。
 ついにその手が力を失い、ゆっくりと下がる。射命丸はそれを取り戻そうと、その手を両手で強く握る。
「蒲殿。範頼様、、、お慕いしてました、お慕いしておりました。あの日より、ずっと……」
 過ちから一度はねじ曲げ、封じた想い。しかし、やはりそう、心の底ではずっと彼の事を想っていたのだ。
 範頼の笑みがより明るくなった様に感じ、その手からは熱が失せていく。
 涙を堪え、声を上げず、射命丸はじっと彼の手を握り続けた。

     * * *

 建久五年五月二十八日に鎌倉を上げての巻き狩りに乗じて起こった事件は、余りにも不可解な方向へ波及し、結果多くの要人が歴史の舞台から消え去った。
 一連の始末が終わってみれば、幾人かの者が失脚し、または自害し、死罪や遠流になる等、政治的策謀としか思えぬものが背景にあった。
 誰が糸を引き、何を企図していたのか。状況から察せられる事は多いが、真相は明らかにされなかった。巧みに張り巡らされた罠をかいくぐった者は、僅かに、明らかな武を以てはねのけた頼朝だけであった。
 その中で、範頼は最悪の事態を想定し、最終的に己を切り捨てた。これは誰も望まぬ事であった。この罠を張り巡らせた者ですらも、当初は。

 同年八月十七日の、伊豆下向と記する実質上の配流を以て、歴史から範頼の足跡は途切れる。これ以降は、彼がいずこに在ったかを明らかにする確たる史料は、無い。
 故に、蝦夷ヶ島やモンゴルにまで渡ったと言われる義経と同じく、彼にも多くの生存説が存在する。吉見へ逃れたとする説をはじめ、西国や、義経の本領であった伊予にすら、彼が落ち延びたとの伝説が残る。
 それ程までに、彼も惜しまれたのだ。しかし――
 鎌倉に首桶を持って凱旋した景時を、人々は冷たい眼差しで迎えたという。その首桶の中には、間違いなく範頼の首が収められていた。
 彼は、確かに死んだ。

 互いに想いながらも、ついに結ばれなかった者の、腕の中で。

第27話注釈―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
※1 巻き狩り:大規模な猟場を大勢の勢子(鳴り物などで獲物をかり出す要員)で囲う方法の狩猟。大規模で実施され、軍事訓練の一環としても行われた。
※2 那須野:那須野が原、現在の栃木県北部の台地。かつて玉藻前(先述)が退治された地であり、今も彼女が退治された跡とされる殺生石が残る。
※3 曾我兄弟:作中の通り、十郎祐成及び五郎時致の兄弟。曾我物語の主人公であり、その仇討ち譚は、独立した物語として多くの人に親しまれた。
※4 こと故:事故(ことゆえ)
※5 楚の国の故事:四面楚歌。現在の中国の安徽省での、漢の高祖劉邦と楚の王項羽の合戦の逸話。劉邦が、項羽の籠もる城の周囲で楚の歌を歌わせたという物

感想をツイートする

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>

この小説へのコメント

  1. 幾らなんでも辛すぎる、これまでの出来事を見てきた文さんと椛が一番辛かっただろうに
    二人の過去が本当にこんなのだったら可哀想すぎる。皆幸せに過ごしたかっただけなのに、もしこれも天邪鬼の仕業なら発狂する

一覧へ戻る