東方二次小説

木ノ花、疾風に咲く木ノ花 前編   木の花前編 第2話

所属カテゴリー: 木ノ花、疾風に咲く木ノ花 前編

公開日:2016年01月28日 / 最終更新日:2016年01月28日

四./姫太郎(西暦1179年)

 太郎の案内――と本人は思っているのだろう――により、射命丸らは蒲神明宮の正面の門に着く。
「すぐに戻りますので、陰に入ってお待ち下さい」
 そう言って小走りに門の内側に去って行く範頼。門に立つ神人は射命丸にばかり注意を向け、頼景の方は見ていない。やはり知れた仲なのだ。
 側を流れる川のせせらぎは心地良いが、射命丸は却って、ここに満ちるきな臭い空気を残念がる。
 一見すると、射命丸が本当に初めて訪れた時と変わらないように見えた。もっとも、門も外郭も補強されているし、神人の数も増え、その武装も充実している。
 彼はこういう立場の人物、とても物怪退治などして目立ってはいけない存在なのだ。
 東に隣する駿河国(するがのくに)(※1)、西の三河国(みかわのくに)(※2)、そしてこの遠江国も――今やこの大八洲(おおやしま)(※3)の大半が平家の所領なのだから当然のこと――平家の支配下であり、源氏の御曹司である彼への危害はいつあってもおかしくはない。
 幸いにも当家は源氏の筋であり、この防備も、彼を見張るのではなく守るための物ではある。
 射命丸は気になっていたことを、隣に腕組みして立つ頼景に尋ねる。
「頼景殿、少々お聞きしたいのですが」
「俺に答えられる話ならば、なんなりと」
「見附とはあまり縁の無さそうなあなた方があえてあちらに赴いたのには、なにがしかの理由がおありかと思いまして」
 範頼が、この様な身の上であっても、あえて国府のある見附にまで赴いての物怪退治に応じたのは何故であろうか。誘った側の頼景についても同じ事が言える、単に人助けというだけではあるまい。
 彼は「ふむ」と息を漏らして顎に手を当て、考える。やはりそれなりに理由はあるのであろう。ただ言ってよいものか否かと、迷う様子を彼は見せている。
「ああ、うん、それはちょいと。これから行く先でお話しした方が分かり易いと思いますな」
 答えられない話ではないということか。射命丸はそれにはまずよしとして、もう一つ問い掛ける。
「太郎は何ゆえ、『太郎』なのですか?
 先を行く太郎の後ろ姿を見ていた射命丸は、何気に驚いていた。この体躯にあれだけの力を見せつけたこの犬、雌だったのだ。
 足下で座る太郎は「呼んだか?」と言いたげに見上げる。射命丸には徴発している様にも見えた。
「ああ、それも答えられるが……これも同じく、行った先でお話ししましょう」
「はぁ?」
 少し頓狂な声が射命丸の口を突く、今一つ話の先が見えないでいる。
 そこへ丁度範頼が戻り、頼景が出発をうながしつつ、彼女から受けた質問と答えをおおよそそのまま伝える。
「そうですね。確かに、行った先でお話しした方がよろしいかと思います」
 いずれにしても話が聞けるのなら良いと射命丸は納得し、またも太郎の案内に従う形で出発した。

 これより南は田圃が広がり湊に至る、北に行けば池田荘の中央、東北東に向かえば池田宿や渡しに戻る形になる。今まで通って来たのも池田荘の中であった。
 農作業が一段落するぐらいの時期であり、地元の人間が今時分そこらをふらついていることは少ない。道を行くのは旅の者が殆ど。
 そんな中でまたもや太郎が注目を集めつつ、東海道の往来との分岐地点まで戻ると、今度は北へ延びる通りに進路をとる。
 犬が自分の住処への戻り方を分かっているというのはよく知られた話だが、この太郎は蒲神明宮と本来の住処、いずれへの道程も心得ている。これは二人の飼い主が居るものと見るべきか。射命丸にはこの、ある意味奇異な犬への興味も沸いてきた。
 北へ半里、歩きでも大して時間はかからない。周囲は田畑よりも家屋が多くを占めるようになる。住宅のいくつかは壁で囲われ、暮らしぶりの良さが伺える。それらは比較的位の高い役人や、名主などの邸宅であるのが分かる。
 そのうちの一つ、蒲神明宮と比べれば小さいが、辺りの中ではだいぶ大きな敷地を持つ屋敷に着く。周囲を覆う壁は二十五間四方余り。
「御免」
 門の脇には警護らしき役人が詰めているが、声を上げた頼景に一礼して通し、太郎、範頼と続く。
 彼らにとっては常かも知れないが、寺社以外このような屋敷へ赴いたことは皆無の射命丸。彼女が足を止めると、範頼が遠慮の必要は無いと言う風な微笑みを向けて、入門を促す。
 正面の母屋らしき建屋の他に蔵や納屋も備え、元は名主の屋敷だとは伺える。檜皮葺(ひわだぶき)の屋根を供えた母屋の佇まいからして洗練され、付随する建物から浮いた風になっている。
 そこから壮年と言えるぐらいの歳の、しかしふくよかな、まだ艶の溢れる女性が現れ、出迎える。
「これは蒲殿、ご機嫌麗しゅうございます」
 屋敷の規模や母屋の佇まいから察せられる暮らしぶりとは裏腹に、纏うのはごく質素な小袖。頭に巻いていた布を取ると静々と腰を折り、範頼に頭を下げる。彼もそれに合わせ礼を返してから言う。
「藤の前(ふじのまえ)様、ご健勝のようで何よりです」
 頼景も遅れて軽く頭を下げ、挨拶の代わりとする。藤と言われた女性はそちらにも改めて挨拶をし、範頼に話しかける。
「見附にて何やら怖(おそ)んがい事のあろうとか、大事はありませぬかと気を揉んでおりました。お連れした太郎に粗相はありませんでしたか?」
 そう問われた範頼は射命丸の方にちらっと視線を走らせ、彼女が難しい顔をしているのを認めてから答える。
「はい、私や相良次郎改め四郎殿、それに今回ご助力下さった秋葉寺の一貫坊様。皆、太郎のお陰でこの通りであります」
 一応は言葉を選んだのであろう「太郎のお陰」との言に、――太郎との間に何も無ければよかったが――射命丸は憮然とした心持ちで範頼と太郎を交互に見る。
 その太郎は、藤の方を見ながら左右にうろうろと落ち着かない様子。引き綱は無いが、それに止められているかの様に前に出ない。
「まあ秋葉山の、これは有り難いことです」
 藤は手を合わせて礼拝(らいはい)し、射命丸も同様にして返す。
「一貫坊と申します。私など修行中の身の上故……」
 声で女とは知れただろうが、姿勢を戻した藤はあまり気に留めていない様子。そこへ頼景が言う。
「藤殿、このたび太郎は、こちらの一貫坊殿共々大活躍でござった。よぉく褒めてやって下され」
 確かに彼女らは、大の男二人より活躍していた。
 頼景は太郎の頭を指を立てて掻いてやる。犬は頭上から何か被せられるのを厭がるものだが、太郎は目を瞑りながらもそれを受け、終わるとせがむ風にもした。
 彼がもう一度そうしてやると、満足したのか藤に向き直る。
「ほれ太郎、行け」
「ヲン!」
 太郎は元気よく一声吠えると、藤の足下に跳び、隣にピタリと座って彼女を見上げる。激しく尾を振り、嬉しそうなのが見て取れた。
 藤は腰を落としてその背を撫でてやってから、また立ち上がって頼景らに問う。
「大活躍とは、本当に何やら現れたのですか?」
「ええ、やはり猿共に襲われ申した」
「ああなんと、本当にご無事で何よりで」
 天邪鬼の出現については伏せる。猿だけでも尋常でないのに、あれは輪を掛けて異常。いらぬ心配をさせるよりはとの心配りであった。
 藤の、他人に対するとは思えない狼狽ぶりを見れば、射命丸にも範頼らの態度は納得出来た。
「ときに藤様、ゆやは―」
 ゆや、人の名か。不思議な響きだと射命丸は思う。
「あの子でしたら今は畑に出ております。もしお急ぎでしたら、迎えを出させますが」
「いえ、本日は太郎を連れ出したお礼に参りましたので、お呼び立てなどなされませぬよう。待つのがお邪魔であればこちらから赴きますし」
「いえいえもったいない事で、どうぞお上がり下さいまし。あの子も半刻もせず戻ることでしょう」
 畑仕事をするなら、朝餉と夕餉の間にも軽く何か口にするであろう。戻るというのはその時分。
 藤が促すのに従い、範頼らは階(きざはし)を上がって部屋に入る。頼景などは腰の物を降ろすと適当に脇に立て掛けたりと、こちらも慣れた様子が見られる。
 腰を落ちつけて、射命丸は周囲を見回してみる。外からは広く見えたが、内側から見るとそこまででもない。建物で敷地が埋まっている所為ではなく、前庭が木々で埋まっているからだ。
 芙蓉(ふよう)や紫陽花などの低木が青い葉を茂らせるそばで、藤棚も設えられている。その側には一抱えほどの幹の山桜の木が一本だけ、これも青々としている。
 藤の花などはちょうど見頃で花の房が長く垂れ、紫陽花はまだ蕾がつき始めたぐらい。
 特に綿密に設計して造られた庭でないのは、射命丸にも分かった。

 射命丸が縁側に立ち庭をしばらく眺めていると、藤が自ら白湯(さゆ)を運んで提供する。下男下女は居ないのかと不思議になる。これには、警護の役人が門の横の詰め所に居る他は皆畑仕事だと頼景が答え、更に続ける。
「旱魃に凶作無し、長雨に豊作無しとの言葉があります。と言っても尾張(おわり)(※4)辺りを境に東西でひっくり返りますがな。ときに、最近の夏は涼しいのには気付きませぬか?」
「山に居るといつも涼しいと言うか、寒いぐらいなので、特には分かりませんねぇ」
「なるほど。いや、俺もあくまでそういう感がするという程度なのですが、うちの年寄り共の言うには『飢饉の兆しかも知れん』と。そういうのに敏感な人々は、今のうちに増産や備蓄に努めているようですがな」
 そこに当家の人手がどう絡むのか。
 限られた田畑にどれだけ人を放り込んでも増収が見込めるわけで無し。多分休耕地への作付けか、そうでなければ隠し田でも持っていうのかと勘繰る。
 するとそれを見透かしたのか、範頼から一言。
「荘官、荘司(しょうじ)としては余りよくはないのでしょうけれど、百姓を無碍にしていいことなど在りませんから」
 荘司か、と射命丸は独りごちる。私邸でこれだけの屋敷を構え、警護の役人まで居るのにも得心がいった。さっきの話は実際に耕作する百姓が気にすべき事で、荘司は淡々と税を取って上納すれば良いはず。にも関わらず、ここの荘司は――実際どれだけの効果があるか蓄えが出来るのかは知れないが――これを国府へ納める足しにしているのだ。力で押し潰すよりは良い。
 頼景ら相良氏のように、古くから荘園を拓くか経営権を得て本拠に据える武家でもなければ、百姓は兵と兼業である。力押しはよろしくない結果を生むのは道理。
「さっき言った寒い夏の事に加え、西の方でも旱魃の兆しがあると聞きます。これは平家の所為だという声もあるぐらいですからなぁ」
 平家が政(まつりごと)において権勢を振るうが故、天道明らかにならずに愁(うれ)い、厄災が襲うという理である。これは射命丸にも一言(いちげん)あって思惟を浮かべる。
 三尺坊の様に、神通力などでもって限られた範囲に直々に御利益をもたらす者以外、広汎に神徳をもたらす行為など神代に終わっている。大八洲にまで及ぶ話なら、天地開闢(かいびゃく)まで遡ることだろう。今更平家がどうこうしようが、天命が天道がと大して揺らぎはしないだろうと、若干の不敬も混じる事まで浮かぶ。それ故言葉には出さない。
「まあ水利や土地開発などに関してか、見附の怪異の如き者の対応などは、平家のやることですね」
 あくまでも実利。統治者が彼らなのであれば、範頼達からしても実際問題はそういう事であった。
「荘司重徳(しげのり)様はその点、やれることをやっているな」
 頼景が腕組みしながら言う。かく言う相良荘はどうなのだろう。気になった射命丸が尋ねようとした時であった、門の方から多くの人の話し声が聞こえ始める。
「どうやら大休止のようだな」
 いかにも野良仕事の帰りという、土と汗にまみれた格好の人々。顔色は一様に明るい。ゆやなる、太郎の本当の主人も帰って来るだろうと、範頼と頼景は席を立ち、迎えるために地面に降り、射命丸も二人に続いて降り立つ。

 前庭は人で溢れかえっており、普段ここに勤める下男下女以外も参加しているであろう事が伺える。ここで、この様な時だからこそという騒ぎが起きる。
 辺りがにわかに賑やかになる中、門に居た役人が刀の柄に手をかけ、一人の少女を詰問している。
「何かあったみたいですね」
「こちらの人手に混じって食事にありつこうとしたのでしょう。仕方の無いことだと思います」
 いずれの仕方が無いなのか、射命丸は少し気になった。ただ範頼は言うや歩を進め、問答する役人と少女に近付こうとする。彼女が期待した彼らしさだ。
 彼より先に褐色の直垂を着た男と、それより頭二つ分ぐらい背の低い小柄な女が役人の前に出る。
「一人分ぐらいはいいら、私の分をやっておくれ」
「いや、オレのをやろう。オレは大丈夫だから」
「じゃあ半々、ただし食べた分は働いてもらうに」
 射命丸は先の通りに見ていたが、それぞれに違った。
 小柄な女はその背丈に見合う程の――止められた少女より少し年上ぐらいだが――やはり少女。そしてもう一人も、範頼ぐらいの上背に加えて体格も良いため男に見えたが、女であった。
 ボロボロの服に煤けた顔をした少女は、二人に深くお辞儀をすると、小走りに庭に駆け込む。
 納屋の前では、飯櫃いっぱいに盛られた飯を取り分けて配る藤や下女の姿がある。蒸した(※5)ばかりと見られる、それが彼女らの仕事だった。列を成すそこに襤褸を纏った少女も並ぶ。
 彼女に飯を与えた方の少女は、範頼達の存在に気付き、女に向き直る。
「やっぱり私はいらない。その代わり今日はこれで休ませて。範頼様が来てるから話しをしたい」
「ああ、オレが許す事じゃないけれどな。ゆやの好きにすればいい」
 少女の方がゆやであった。
 年の頃はまだ十五にも満たない、多く見ても十三ぐらい。射命丸よりも小柄だし、血色は良いが肢体も顔も、母の藤の様な具合のふくよかと言うに足りない。
 直垂の女が飯の列に並ぶのと入れ替わって、人混みを抜けて太郎が現れる。
「太郎! お帰り!」
 太郎はゆやの足下まで来ると、彼女の周りをグルグルと回り始める。よく分からない鳴き声を発したり、時折くしゃみが混じる。嬉しいのか興奮しきりだ。
「範頼様! 頼景様! こんにちは!」
「はい、こんにちは」
「相変わらず元気だのぉ」
 ゆやは範頼らにはつらつと言い、二人がそれに答えると、今度は射命丸の方を向く。
「えーとそれと……」
「秋葉寺の僧、一貫坊、と申します」
 射命丸の声に、ゆやはきょとんとして言う。
「女なのに、尼さんではないの?」
「はい、色々とあるのです」
 こういう反応もよくある、射命丸は平静に答える。
 ゆやはそれを受けて「ふぅん」と息を漏らすと、思い付いた様に言う。
「範頼様、物怪退治をしてきたのでしょう? 私、そのお話を聞きたい」
 目を輝かせて範頼を見上げるゆや、彼は少し困った風に微笑みながら了承の答えを返す。
「あ、でもちょっと待ってて。汗をかいたので沐浴して来るから」
「はい、もちろん構いませんよ」
 汚れた手で何度も汗を拭ったのだろう、顔もだいぶ土汚れにまみれている。
 笑顔で応じる範頼に再度お辞儀をして、ゆやは裏へ回って行った。

 ゆやの沐浴が終わるまで時間がある。再び床に上がった三人は揃って座り込み、白湯を頂戴する。
「そう言えば一貫坊殿、いずれの話からすればよろしいかな?」
 いずれの話、何と何の事であろうかと首を捻る。
「太郎の事と、見附まで赴いたことです」
 話の切り出しが唐突に過ぎて分からなかったが、射命丸は言われて思い出した。
「ああ……急にどうしたのですか?」
「語るに必要な人物も出揃いましたので」
 なるほどと射命丸は頷く。いずれも話を聞けばすぐ分かること、まずは早く話の終わりそうな――
「それでは、太郎の名の由来から伺いたく」
 その太郎はゆやの後に付いて屋敷の裏手に回っている。あの犬は雌なのに何故太郎というのか。
「初めに生まれた仔である故、太郎と」
「それでは余りに端折りすぎです」
 人間に倣って名付けるならば、雌なら姫であろう。
 頼景の簡潔に過ぎる説明を範頼が捕捉する。
「太郎の母、母犬は、いつの間にか当家の床下に迷い込んでいた山犬でして――」

 弱りながらも、ちょうどこの足下で仔を産んだという。ゆやが産まれるのと時を同じくして。
 物音に気付いた家人が床下でそれを見付け、主人の藤原重徳に伝えた。畜生のお産など汚らわしいから追い出せと言うかと思われたが、「これも縁なので丁寧に取り上げなさい」との指示。
 ゆやは難も無くに生まれ、藤の身も無事であった。
 続いて間もなく生まれた太郎達はと言えばしかし、酷く衰弱していた母犬は、太郎ともう二頭を産んで力尽きた。その雌雄一頭ずつの太郎の弟妹も、すぐに亡くなってしまったのだ。

「その為、雌ではありますがあえて太郎と名付けたのだそうです。ゆやのお守になる事も期待したそうで、それから見事に今に至って、と」
 もしかしたら母犬や他の仔達は、藤やゆやの身代わりになったのではないかとも言われた。その亡骸は庭に埋められ、墓碑の代わりに山桜が植えられたのだ。
 聞いて射命丸がふと思い出したのは、秋葉寺からなお奥の、尾根伝いで北に分け入った先に在する、山住(やまずみ)神社。大山祇命(おおやまつみのみこと)(※6)を勧請して祀るこの社は山犬を神使としており、その神使自体にも、農作物を食い荒らす――鹿も猪もひっくるめての――シシ避けや、邪気退散の御利益がある。また何の因果か、射命丸が修行を始めた辺りから熊野権現(※7)まで招かれている。
 もしかしたら当家の主人は、山住の山犬の事を知っていたのかも知れないとも思い、頷く。
「なるほど、それにしてもあの山桜も太郎も、ちょうどゆや殿と時を同じくして生まれたものと」
 ゆやは十二か三ぐらい、となると太郎は犬としてはそろそろ老境、老犬。確かに瞳が白くなりかけていたし、鼻もすこし乾き気味。その割りにはずいぶんと元気な事だと、言いながら思う。
「いや、桜は恐らく苗木からですからな、同じ――」
「相良殿、趣に欠けます」
「だから頼景と言えと。それにだな、そこまで無理して因果を絡めぬでもよかろうに」
 確かにそこまでこじつけなくてもよい。それよりまた、冗談か本気か分からない言い合いが始まりそうなのを察知した射命丸は、さっさと次の話を求める。
「太郎の事は分かりました。して、見附に赴いたのは如何なる理由からだったのでしょう?」
 射命丸の問いには顔を見合わせ、そちらがお前がと無言で押しつけ合う。初めに応じたのは貴方だったのだからと射命丸から言われ、頼景が仕方なく答える。
「田畑の被害がこの西岸にも及びかけていたのです、当然この荘園にも、時によっては蒲御厨にも」
 相良氏は元々藤原南家(※8)の一流であり、同じく遠州に在する藤原南家の当家、重徳とは親交があったのだと言う。そもそも範頼を蒲御厨で匿い始めたのもやはり同じ流れの季成で、範頼と頼景、それにゆや達の三者はその縁で知り合ったのだった。
 この繋がりから、まず武家の頼景が怪異に対して動き出し、近隣に在する範頼にも話を持ちかけた。早い話が身内の互助である。
 ただ、家督を譲った頼景には郎党をかり出す事は――本当に無理を通せば可能だが――出来ず、結果現地でのあの体たらくとなったのであった。
「それに田畑より何より、蒲殿が守らねばならぬものを知っておりましたで。ですな、御曹司」
「またそのお話ですか、それは誤解ですよ」
 諦めた風に範頼が嘆息する、常からこの様にからかいのネタになっているのが分かる。いい年をした男同士のしょうもない話、普段ならそれで済むはずである。
 しかし、今は普段とは違う要素がある。いや居る。
 射命丸。
 彼女には、範頼が守ろうとした者が誰であるかすぐに分かった。出来るなら見附に手勢を連れて来たかったというのは、彼の本心であったのだ。平家に目を付けられる危険を押してでも。
 射命丸は、彼に再会してからここまで感じていた、周囲が梅か桃の色に見えていた気分がどこかへ吹き飛び、薄ら寒い物が心に下りて来た気がしていた。
「なるほど、分かりました。有り難うございます」
 素っ気なく返事をする射命丸に範頼が不安げな視線を投げかけると、それに気付いた射命丸は、より平静に近い顔色を心がける。
「一貫坊様、本当に誤解ですよ」
 何を気遣っているのか分からないが、射命丸には彼が言い募るのが不快に思えてしまう。
 頼景は彼女のそんな様子に気付き、これは痛恨、真にしたりと気まずそうな貌。範頼は眉を寄せて彼を睨(ね)め付ける。
 二人がどう取り繕おうかと各々思案していると、庭の方で、人々の賑わいの中で太郎がひと鳴き。

 太郎が縁側の付近まで寄って座る。太郎がここに来たと言うことは、ゆやの沐浴が終わったのだ。太郎も一緒に水を浴びたのであろう、濡れたため獣臭さが強くなっている。
 廊下の向こうから彼女が姿を現す。それも先程の野良着とはうって変わり、この様な場では余りにも不釣り合いな格好で。
 野良仕事のために纏めていた髪を垂らし、そよ風になびかせる。召し物は尚のことで、藤の花をあしらった桂(うちぎ)にうっすら梅色に染めた細長(ほそなが)(※9)姿。化粧も施さず、眉も歯も塗ってはいないが、それでも地方役人の家にあってのこの装いは、おおよそハレの日の物。
 躰の貧相な事を除けば、公家の女(むすめ)として十分通じる。
 その姿、殊に髪を見て射命丸はまた思い付いた。一昨日、天竜川で彼方に見た逢瀬、あれはこの二人だったのではないかと。
「まあ、馬子にも衣装とは言ったものだな」
「相良の殿様に見せるために着たのではありません。如何です? 範頼様」
 ゆやは流し目を彼に遣りながら袖をひらひらと舞わせて言い、問われた彼は苦笑しながら応じる。
 射命丸は白けた風にその場を立ち、階を降りて庭に歩き出していた。

 庭では飯の配分が終わり、下人や所従(しょじゅう)(※10)は思い思いに飯を食む。射命丸はその中で一人の女に目を止める、先程ゆやの側に付いていた者だ。彼女は人目から避け、納屋の陰で飯を口に運んでいる。
 その時は分からなかったが、被っていた布を取った今はその異様さが分かる。山吹色の髪に鳶色の目、本邦の人間ではない、渡来人でも特に西方から来た民族がこの様な風体であるはず。
 平安の始めからここに至るまで、遠州でも渡来人(※11)を囲っていることは多くあった。相良氏の本拠のある東遠でもそうだ。
 だが近付いてみて、射命丸の感覚はそれが間違いであるのに気付く。と同時に答えを導き出した。
「ん、なんだ、坊様か」
「安心なさい、無闇に調伏するようなことはしない」
 彼女はふうんと呟いたきり、また飯を食い始める。その反応の薄さを射命丸は不思議に思う。
「正体は割れている、と言っているのだが」
 物怪に違いない、殊勝にすればよいのに。余裕を誇示し、見下ろしながら言う。
「お前様だってそうだろうに」
「分かるのか。妖が坊主など不思議と思わないか?」
「ここに来るまでに、狐狸に限らず坊主に化けた奴はよく見たからな。駿河国などでも、岩魚が『仲間を守るためだ』とか言って僧身に化けていたし。もっともお前様はちゃんと修めた僧みたいだが」
 常に沈んだ、抑揚の無い声で女は答える。
 射命丸の方も、女の正体に当たりが付いていた。虫も死なない程度に抑え込まれてはいるが、僅かに瘴気を漏らすこの物怪。渡来系の鳥の妖怪『鴆(ちん)(※12)』か、そうでなければ、
「土蜘蛛がこの辺りに出るとは、知らなんだ」
 本邦の妖であり、鴆などとは比較にならないほど危険な妖怪。一体何故この様な所にこんなモノが居るのか、先般の天邪鬼といい異常に過ぎる。
 それを知る射命丸にも、彼女の事を秋葉山の三尺坊に報告する考えが浮かばなかった。
 無害に見えるからか、否――
「どうしたのだ一貫坊殿、急に席を立ったりして。おおヤマメ、こちら秋葉寺の僧の一貫坊殿と仰ってな、何か説法でも賜っていたか?」
 頼景が現れ不意に言う、射命丸を追って来たのだった。同時に放たれた問いにまずヤマメが返答。
「いえ相良の殿様、少し世間話などを。一貫坊様よ、オレ達は案外と、どこにでもおるのですよ」
 恫喝に聞こえなくもないが、声に力は無く、言葉通りに一族の身の上を語っているだけであった。
「この様な風体の者は珍しいですからな。しかし飯の邪魔をするのはいけない、一旦戻りましょう」
 頼景は、射命丸が席を外したのはヤマメが気になったからだと考え、それ以上は問うのを止める。
 ヤマメと互いに軽く頭を下げ、射命丸は範頼らの所へ戻ることにした。

 射命丸が気になったのは、範頼が彼女の事に気付いているのかということであった。
 辟邪(へきじゃ)の武と言えば、土蜘蛛や鬼をはじめ数多の妖を退治て見せた、源頼光(みなもとのよりみつ)(※13)を祖とする清和(せいわ)源氏傍流の摂津(せっつ)源氏(※14)が挙がる。その資質を、庶子ではあれ嫡流河内源氏に在る彼が備えていても不思議は無い。見附でも真っ先に天邪鬼に気付いたのは、彼であったのだ。
 翻って頼景は気付いていないだろう。射命丸がそう考えた傍から、彼は声を潜めてとんでもない事を言う。
「ヤマメは不幸があって気を病み、さ迷っていたとか。それをゆやが目に止めたそうで……ですから、退治などなさいますな」
 絶句するより他ない。知っていて匿っていたのだ、それも特に危険極まりない種族を。
「天竜川縁でヤマメに会い、余りに非道い有り様だったので連れて帰って来たのだとか。事情を聞けば子に惨い事があったと、哀れな事です。しかし、その時は分からなかったのですが、後に訪れた蒲殿が――」
「妖である、と気付かれたのですね」
「然り」
 なのにこのまま、それも頼景も揃って。さすがに人が良いにも程がある。土蜘蛛に、いや物怪などに子など居るものなのか。物怪と知ったなら、意図はどうあれ、奴が嘘を吐いたとは考えないのか。
 当家の人間はどうとでも、範頼が襲われるのだけは射命丸も望まなかった。
「何故、大丈夫だと思うのでしょう」
「さて。だが俺は、蒲殿が大丈夫だと言ったから信じているまでですて」
 もしかしたらと射命丸は思う。範頼は己の正体にも気付いているのではないか。そこで不思議に感じたのは太郎の反応。
 太郎も天邪鬼相手には鋭く気付いて見せた。初めに襲いかかって来たのも、己を妖だと見破ったからではないか。警戒は続いているのかも知れない。だのにヤマメ相手には、そんな素振りを一切見せていないのだ。これが腑に落ちない。
「ゆや殿や当家の方々はそれを?」
「俺に分かる限りでは、知らぬはずです」
「そう、ですか」
 そうか知らぬか。射命丸は己の心がまた、薄ら寒い物に包まれた気がした。

 射命丸が頼景と共に戻ると、ゆやは姿を消しており、範頼だけがそこに居た。
「蒲殿、ゆやは如何した?」
「流石に着替えなさいと言いつけました。都ならいざ知らず、当地では時と場合による他は、華美な格好は控えなさいと」
 優しげで、誰に何を言われてもヨシとする風に見えたので、彼がその様に諭したのには射命丸も感心した。
「また……お主にそんな事を言われてはむくれるぞ、あのご婦人は」
「まだご婦人という歳でもありますまいに」
「いーや、もうそういう歳だ。逆に今以て嫁を娶った事も無い蒲殿の方が――」
「相良殿」
 彼らにとってのいつもの調子の軽口の叩き合いを範頼がピシャリと締め、頼景はまたやってしまったと、額に手を当てて沈み込む。
 射命丸はそれらを意に介さない風に、問い掛ける。
「そう言えば、蒲殿のお歳は、いくつなのですか? 頼景殿よりお若そうですので」
「一貫坊殿もきついですのぉ、御曹司と並んでいるとよく言われるのだ。ですが見た目で歳を言えば俺の方が合っているはずだ。あと御曹司とは同い年ですて」
 同い年、この二人の間柄は、そういう点も含めての事なのかも知れない。射命丸にはそのような者が居ない分、少し羨ましくも思う。
 だが、ゆやの事はどうか。
 その彼女が、若干質の良さげな、飾らないぐらいの平服に着替えて戻って来た。
「ねぇね、範頼様。これで良いよね?」
 右へ左へと袖を振って見せてから頼景と反対の側に座り、範頼の決して逞しくはない腕に抱き付く。それを見た射命丸の胸には、やはり悪いモノが降りて来た。
「まったく、そんなに邪険にされては俺も傷付くぞ」
「相良の殿様がそんなに繊細だとは、今の今までとんと知りませんでした」
「ヤマメもお許も、その殿様と言うのは勘弁してくれ。御曹司、このご婦人に説教をくれてやれ」
「あのお召し物、それなりの場で着るためにご母堂が見繕われたのでしょう? 四郎殿や私如きの前で着る物ではありませんよ」
「なんでそれなのだ……」
 頼景の求めを無視して範頼は諭す。
「だってあれ、国府に来てる平家のお偉い方へのご挨拶に上がる時のためにって、父上が用意した物だから……」
「では尚更です」
 言われて、ゆやは少し口を尖らせて頬を膨らませる。
 ここで射命丸は思った。
 未だ明かしてはくれないが、源氏の落胤(らくいん)とも言える彼にとって、平家と言えば彼の父義朝や異母兄達の仇だ、それには何の感情も抱かないのか。
 もっとも、見た事も言葉を交わした事も無い父兄弟への思いなぞ、そんなものかとも思う。
「平家のお偉い様か。お偉い様が多すぎて分からんな、伊豆から駿河から、ここまでも平家の所領であるし」
「確か、入道相国(※15)清盛(きよもり)公の三男、平宗盛(たいらのむねもり)様が長逗留しているというお話でしたが」
「よく知っておるな、御曹司」
「一応は、です」
 範頼自身に源氏だ平家だとの事に関心が無いとしても、あちら側はそうでもない。自身や御厨のためにも情報は必要であるゆえ、彼はこれを知っていた。
「小松(こまつ)殿(※16)――嫡男重盛(しげもり)様に次ぐ、平家の跡継ぎでしたね」
 射命丸が言う。清盛の次男基盛(もともり)(※17)は夭逝(ようせい)したため、彼がその位置に居るのだ。
「俺は全く知らないが、なるほど、かなりお偉い人物ですな。俺なら進んで頭を下げになど行きたくない。おお、ゆやが着飾って行ったりしたら、嫁に取ってくれるのでは?」
「ご冗談でも真っ平です! 聞けば歳のいったお方だそうですし」
 頼景の言葉に、ゆやはそっぱを向く。
「えーと……ゆや、宗盛様は私達と大して歳が違わないのですけれど」
「いいのだいいのだ、どうせ俺達はジジイよ」
「あっ、すいません!」
 ゆやは慌てて謝り、しょげた風にする。
 範頼が気にしていないからと言うと、すぐさまケロッとして元の話題へ。
「ね、ね、それより見附での物怪退治の事、速く聞かせて下さいまし」
「と言われても――」
「俺達はなぁ……」
 二人して射命丸に視線をくれる。
 頼景などは間違いなくあの妖を斬ったのだから、それを堂々と誇ってしまえばいい。ただ範頼にはそれが無い、彼らが言い淀むのは当然そこだ。
 射命丸はそう思って応じる。試す意図も持って。
「どこからお話するのか迷っておられるのでしたら――まず物怪に気付いたのが蒲殿で、私がこれを叩き落として、後はお二人と太郎の大立ち回りと、この様な辺りで如何です?」
 範頼に笑みを向ける。好きに語るといいと。
 ゆやが彼の好いた相手であるなら、尾ひれを付けて、騙ることだろう。
「ははは……一貫坊様も手厳しいです」
 どういう意味か、彼は苦笑しながら言い、ゆやに顛末を語り始めた。騙る事無く正直に。

 話を聞き終わったゆやは、少し不満そうにしていた。期待を裏切られたのがよく分かる。
「なぁんだ、範頼様が活躍したと思ったのに。でも、相良の殿様もお侍だったのですね」
「そうですよ、相良の殿様ですから」
「だから、頼むから殿様はやめてくれ、それと御曹司はそれに乗っかるな。あとな、ゆや、一貫坊様も太郎も、蒲殿のために体を張ってくれたのだぞ」
「それでは太郎は、後でうんと褒めてやります」
 射命丸を蚊帳の外に置こうというのか。範頼も頼景も、射命丸の通力の凄さを幾度か話に織り込んでいたが、それを全く意に介さない風にするゆや。
 こうまであからさまだと腹も立たないと、射命丸は心情的に場から間を置き、話の輪の外へ出る。

 目の前の情景を夢うつつにしてから、射命丸は思った。
(ゆやもこの家の者達も、皆あの土蜘蛛にでも喰われてしまえばいいのに)と。

     * * *

 平宗盛はかつて遠江守(とおとうみのかみ)(※18)であった事がある。
 これは平治の乱の勲功により除目にて下されたであるとされ、彼は当時十三歳と、元服して間もなくの事であった。だが実際は前遠江守重盛がより格上の伊予守(いよのかみ)(※19)に任じられたため生じた、お下がり人事であった。
 その後、平家の隆盛に従って彼個人の位も職も順調に上って行き、正二位権大納言(ごんのだいなごん)兼右近衛大将(うこのえのだいしょう)にまで任じられていた。ここに至る前までは。
 治承三年(西暦1179年)。宗盛は前年終わりに任じられた春宮大夫(とうぐうのだいぶ)(※20)を正月には辞し、春には権大納言と付随する右近衛大将を辞任していた。
 そもそも前年には既に、右近衛大将の辞任と還任を繰り返していた。これは正室の清子(※21)を亡くした悲しみのためであったとも見られた。

 遠江への遊行(ゆうこう)は、現世一切への気力を失った彼が、一時は国司に任じられた当地へ抱いていた興味からの行動であったのかも知れない。

 これが源氏、平家、ひいてはこの国すべての如何に関わる事態に発展するのである。


第2話注釈――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

※1 駿河国:現在の静岡県中部地方。城の名にも残る駿府は、その国府が置かれた地域のこと。
※2 三河国:愛知県中部から東部にかけての地域、古くは三川とも言った。
※3 大八洲:八つの島から成る日本列島を一つの国として表した語。単に八州(はっしゅう)と言うと、律令上の八つの国(例:関八州→関東八ヶ国)となる。
※4 尾張:尾張国(おわりのくに)、現在の愛知県西部
※5 飯:この当時は米を蒸した物を主に食していた、固い。これを強飯(こわめし、こわいい)と言い、水から炊く方式の米飯を姫飯(ひめいい)として区別する。
※6 大山祇命:大山津見神などとも。木之花咲耶姫と磐長姫姉妹や、素戔嗚尊(すさのおのみこと)の妻となった奇稲田姫(くしなだひめ)などの父ともされる。
※7 権現:神は仏の化身した姿であるという思想からの語。地名に由来する場合(秋葉権現など)や、個別の神霊を指す場合(三尺坊大権現など)がある。
※8 藤原南家:奈良時代の藤原武智麻呂(ふじわらのむちまろ)を祖とする藤原氏の流れ。“南”は弟の房前(ふささき)に対して南に邸宅を構えていたことから。
※9 袿・細長:袿は公家などの女性が纏った上衣。この上に更に細長などを重ね着する。
※10 所従:隷属身分の従者、扱いは低く農奴に近い。様々な雑役を負う。
※11 渡来人:ここではユーラシア大陸から渡って来た人々全般を言う。著名な氏族に秦氏、東漢(やまとのあや)氏、西文(かわちのあや)氏などがある。
※12 鴆:妖怪と言うよりは空想上の“鳥”。猛毒を持ち、好んで蛇を食う。
※13 源頼光:『らいこう』との諱でも称される、御伽草子においては、大江山の鬼を始め、多くの妖を屠った侍として登場
※14 摂津源氏:摂津国(せっつのくに、現在の大阪府北部から兵庫県南東部)多田で、父満仲(みつなか)が組織した武士団を継いだ頼光の代から始まる。
※15 入道相国:入道とは出家して仏門に入った者の事。相国は国家元首の意で、役職では丞相などがあり、入道相国と言えば一般に平清盛を指す。
※16 小松殿:重盛の通称。平家一門が在した六波羅のうち、小松第に居を構えた彼をそう言った。人物としては清盛の信頼も篤く、有能な人格者として描かれる。
※17 基盛:平基盛。重盛の同母弟で、二十三歳で病死(作中の夭逝とは若くして亡くなること。基盛の様に天寿を全う出来なず死した事も言う)した。
※18 遠江守:遠江国の国司。守は律令で定められた四等官の長で、以下に介(すけ)、掾(じょう)、目(さかん、もく)がある。国号の後に職を付して呼んだ。
※19 伊予守:伊予国(いよのくに、現在の愛媛県辺り)の国司。上記遠江守と共に上国と規定された本国の守は、従五位下相当の官職
※20 春宮大夫:春宮(坊)は皇太子の家政一般を掌った機関で、大夫はこの機関の長
※21 清子:平清子(たいらのきよこ/たいらのせいし)。平時信(たいらのときのぶ)の娘で、母である清盛の継室時子(ときこ、後の二位尼)の腹違いの妹

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