東方二次小説

こちら秘封探偵事務所第9章 星蓮船編   星蓮船編 第12話

所属カテゴリー: こちら秘封探偵事務所第9章 星蓮船編

公開日:2018年04月21日 / 最終更新日:2018年04月21日

―34―

「ありがとうキャプテン、いろいろスッキリしたわ」
「なんのなんの。でもあのときの話より、私は聖の偉大さについて話したいなあ」
「それはまた別の機会にゆっくり」
 操舵室を出て、そんなことを話しながら歩いていると、白蓮さんがひょっこり応接室から顔を出して「ああ、ちょうどよかった」と顔をほころばせた。
「ムラサ、一輪。ちょっとお寺の内装について貴方たちとも相談したいのだけれど――星も呼んできてくれないかしら?」
「あ、はーい!」
「解りました。じゃあ、星は私が」
「ああ、いっちゃん。それなら星ちゃんは私が呼んでくるわ」
 蓮子がそう手を挙げ、一輪さんは「いいんですか?」と首を傾げる。
「お話聞かせてもらったお礼っちゃなんだけど。星ちゃんどこ?」
「船首の方に毘沙門天像が飾ってあって、そこで勤行してるよー」
 というわけで、船尾近くの応接室から船首の方へ足を向ける。ほどなく読経の声が聞こえてきた。声のする部屋を覗くと、毘沙門天像の前で般若心経を唱える寅丸星さんの姿があった。
 読経を中断させるのも気が引けて、少し待つ。どうせ般若心経は一周二分半の長さである。一周終わったところで蓮子が声を掛けると、星さんはよほど集中していたのか、驚いたように振り返った。
「おや、蓮子さんにメリーさん。いらしていたのですか」
「ええ、お邪魔してます。白蓮さんが新しいお寺について相談したいそうで、お呼びですよ」
「そうですか。解りました、ありがとうございます」
 星さんが立ち上がり、それから居住まいを正して、私たちに深々と頭を下げた。
「先日はごたごたしていて、きちんとお礼を申し上げられず、申し訳ありませんでした。改めまして、ムラサたちを助け出していただいたばかりか、聖の復活にもご協力いただき、感謝の念に堪えません。宝塔の代金とナズーリンが壊したという窓に関しては後日必ず弁償いたしますので――」
「いえいえ、まあその件はともかく――ところで、そちらの白蓮さんとのお話が終わってからでいいのですが、少しお話を伺いたいんですけれど、よろしいですか?」
「はい? 私にですか?」
「ええ、キャプテンたちの来歴のお話は地底で聞いているので、星さんのお話も是非伺えればと思いまして。白蓮さんとの出会いから現在まで――」
 無邪気に言う蓮子に、星さんはふっと目を細め――そして、「ええ、構いませんよ」と朗らかに笑った。「では、また後ほど」と一礼して星さんは私たちの横をすり抜けて歩き出し、
 はっと何かに気付いたように足を止め、星さんは気まずそうに振り返った。
「……すみません、聖はどちらに?」
「応接室ですわ」
 苦笑して答えた蓮子に、星さんは恥ずかしそうに「すみません」と身を縮こまらせた。

 白蓮さんたちの打ち合わせが終わるまで暇になってしまったので、私たちは同じく暇していた早苗さんと甲板で合流し、話し合いに混ざらずに船の周囲を浮いていた(周辺警戒をしていたらしい)雲山さんと遊んで時間を潰した。
 無口で顔の怖い雲山さんだが、その身体に乗って「ドラゴンボール気分ですね!」とはしゃぐ早苗さんには満更でもなさそうな顔をしていた。先日船で戦って早苗さんの実力を認めたということなのか、単に女の子にデレデレしているだけなのかは謎だが。
 そうしているうちに「あら、こちらにいらっしゃいましたか」と白蓮さんが甲板に姿を現す。その背後からは諏訪子さんと、ムラサさんたちも揃って現れた。
「あ、諏訪子様。お話終わりました?」
「ん、数日中には工事に入るってことで話がまとまったよ」
「はい、どうぞよろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げる白蓮さんに、「いいってことよ」と先輩風を吹かせて諏訪子さんは笑う。
「じゃ、用も済んだし私らは帰ろうか。蓮子たちはどうする?」
「あ、私たちはちょっとまだお話したいことがあるので残りますわ」
「そう? じゃ早苗、帰るよ」
「はーい。蓮子さんメリーさん、それじゃまた」
 諏訪子さんと早苗さんは手を振って妖怪の山の方へ飛び去って行く。それを見送り、蓮子はそれから星さんに手招きした。「お待たせしてすみません」と星さんがぺこりと一礼。
「なになに? 星ちゃんってば、蓮子と何の話?」
「ムラサ、邪魔しないの」
 ムラサさんが寄ってくるが、一輪さんがその襟首を引っ張って「失礼しました」と会釈し、白蓮さんとともに船内に戻っていく。甲板に私と蓮子と星さんだけが残ったところで、星さんが「それで、私の来歴の話でしたか?」と口を開く。
「はい。白蓮さんとはどのようにして出会われたのです?」
「そうですね……少し長い話になりますから、ちょっと腰を下ろしましょう」
 というわけで、私たちは甲板の階段状になっている部分に腰を下ろして、星さんの来歴の話を聞くことになった。
「そもそも私は、かつての命蓮寺があった山の奥に住んでいた妖獣でした。今は便宜上虎を名乗っていますが、もともと自分が何の動物だったかは思いだせません。私は、伝説の動物としての虎ではないかと疑われ恐れられたことで、虎に似た妖獣になったようです」
 なるほど。確かに千年前に日本に野生の虎はいなかったはずだ。
「当時、私は山奥で静かに暮らしていたのですが、そこへ聖がやって来ました。私は牙を剥いて威嚇しましたが、聖は恐れることなく、私に『貴方が、この山の聖獣ですね』と呼びかけました。『私に力を貸していただけないでしょうか』と」
「力を?」
「はい。当時、聖は人妖を分け隔てなく救うための寺として命蓮寺を建立したばかりでしたが、毘沙門天が多忙で寺になかなか顕現できず、また毘沙門天の力を恐れて妖怪が寄りつかないという悩みを抱えていました。そこで、山の妖怪の代表を毘沙門天の代理とするという解決策を思いつき、私に白羽の矢が立ったわけです。毘沙門天の代理が同じ妖怪なら、妖怪も救いを求めやすいだろうと」
「ははあ。白蓮さんは、妖怪を神として祀るか妖怪として迫害するかは人間の都合でしかないと仰っていましたが……」
「はい、私のようなどこの馬の骨ともわからぬ妖怪を、仏の代理として祀るという行為自体が、聖の人妖平等思想の表明でもあります。――ともかく、恥ずかしながら私は最初、聖の申し出を一笑に付しました。迫害される妖怪を救うための寺などというもの自体が信じられませんでしたし、人間の匂いと妖怪の匂いが混ざった聖自身を、胡散臭いと思いました。『なぜ人間の匂いをさせたお前が、妖怪を救うというのか。人間への復讐か』と私は問いました。それに聖は微笑んで、『いいえ、人間と妖怪が平等に生きていける世界を創るためです』と答えました。私は狼狽えましたが、すぐにその思想に共感したわけではありません。いえ、むしろ反発を覚えました。おそらく人間から妖怪になったばかりの輩が、口だけは大層なことを言って、ちょっと脅かしてやれば尻尾を巻いて逃げるに違いない――今思えば顔から火が出るようですが、その時の私はそう思い、聖に襲いかかったのです」
「それで、返り討ちに?」
「まさか」星さんは苦笑する。「私が本気で喰い殺すつもりで頭から噛みつきに行ったのに、聖は微動だにせず、『恐れることは何もないのですよ』と微笑みました。『私は貴方に、人間に恐れられるだけではない生き方を示したいと思います。そのために、私に力を貸していただけませんか』――真っ直ぐに私を見つめ続けてそう言った聖に、私は敬服したのです」
 懐かしげに目を細めて、星さんは語る。
「そうして私は、聖の紹介で毘沙門天に弟子入りし、命蓮寺の本尊として毘沙門天の代理を務めることになり、寅丸星の名と、この虎の姿を頂戴しました。そうして私は、表向きは寺の本尊として信仰を集め、実際は聖と毘沙門天の弟子として御仏の教えを学ぶ行者として修行をする生活に入りました。そんな私の監視役として、毘沙門天から派遣されたのがナズーリンです」
「監視役のわりには、星さんのことを『ご主人様』と呼んでますけれど」
「まあ、寺では私が毘沙門天ですので、名目上は……。ナズーリンが私を本当に主人として慕っているかと言われると、いささか自信が……あ、いや、なんでもないです」
 気まずそうに頬を掻いて、星さんはそれからぶるぶると首を振る。蓮子は小さく肩を竦め、「弟子入りの経緯はよくわかりましたわ。ありがとうございます」と頭を下げた。
「では、白蓮さんが封印された際のことなんですが――寺が包囲されてから皆さんが白蓮さんを残して脱出するまでの経緯はキャプテンから伺っているんですが、星さんとナズーリンさんは宝塔を手に追跡から逃げ切ったのですよね?」
「……はい、どうにか辛うじて」
「その後は千年間、ナズーリンさんと息をひそめて隠れ住んでいたと、昨日伺いましたが」
「ええ、その通りです。ほとぼりが冷めた頃、無人の寺に一度戻りましたが、既に寺は荒れ果てていて……ムラサと一輪が捕まって聖輦船とともに封印されてしまったと風の噂に聞き、寺の跡地の整理をして、ムラサたちの解放を待つことにしました。聖がその力を分けて残した宝塔と聖輦船、そのふたつが聖の復活に必要なものでしたから」
「――そのふたつが白蓮さんの復活に必要だというのは、どうしてご存じだったのです?」
 蓮子がそう問うと、星さんは驚いたように顔を上げ、蓮子の顔をじっと見つめた。
「……宇佐見さんも法界でご覧になられた通り、聖の力は非常に強大です。魔界に封印する際にも、聖はその強さ故に、単純な封印では聖の意志ですぐに破れてしまうのです。それを防ぐには、結界を強固にするか、聖自身の力を弱めるかしかありません。閻魔様による魔界への封印という裁定を受け入れた時点で、聖は後者を選び、宝塔と聖輦船に力を封じられたのです。ですから、魔界に聖輦船と宝塔を持っていくことで、聖に封じられたその力を返せば、聖は解放されるわけだったのです」
「ははあ――なるほど」
 蓮子が頷いた。隣で聞いていた私は、思わず相棒の横顔を見つめる。
 どうして、今の話をさらっと受け流すのだ? 今の話は、明らかに――。
 だが、私の疑念には構わず、蓮子は話を先へと進めてしまう。
「では、最後にひとつ、これを聞いてしまっていいのかとも思うのですが――怒らないでくださいますか?」
「はい? なんでしょう」
「……どうして、そんな大事な宝塔をなくしてしまったんです?」
 冗談めかして問うた蓮子に、星さんは「うっ」と呻いて、顔を覆う。
「すみません……それはその、全面的に……私の管理の問題で……」
「というと?」
「肌身離さず持っているべきだとも思いましたが、私とナズーリンの身に何かあったときに宝塔がムラサたちにわからない場所に封印されてしまう可能性も考えると、万一の場合もムラサたちが解放されれば見つけられるところに隠しておくのがいいだろうと思いまして……寺の跡地に、埋めて隠しておいたのです。既に荒れ果てた寺に埋めた宝塔が、まさか掘り返されることもないだろうと……埋めた後もときおり様子は確認してはいたのですが……」
「いざムラサさんたちが解放されたと思ったら、埋めた場所から宝塔が消えていたと」
「……はい、面目次第もありません」
 しょんぼりと肩を落とす星さんに、「いえいえ、責めてるわけでは」と蓮子が背中を叩く。星さんは「うう、やはりもっと修行を積まねば……」と呟いて、「そろそろよろしいでしょうか」と立ち上がった。蓮子は帽子を脱いで一礼する。
「ありがとうございます。大変興味深いお話でした」
「それなら良かったのですが。新しい寺ができましたら、おふたりには是非檀家になっていただけたらと思います」
「ありがたいお申し出ですが、うちは今のところ守矢神社の氏子でして……」
「命蓮寺の門戸はあらゆる人妖に開かれておりますから、どうぞ気兼ねなく。それでは」
 ぺこりと一礼し、星さんは船の中に戻っていく。その背中を見送りながら、相棒はまたしきりに帽子の庇を弄っていた。




―35―

 一輪さんに地上まで送ってもらい、自宅への帰路についた時にはもう夕暮れになっていた。
 里の通りを、自宅へ歩きながら、私は相棒の横顔を見やる。
「ねえ蓮子、さっきの星さんの話って――」
「あ、さすがにメリーも気付いた? まあ、要するにあれが全てじゃないってことよね。まだ何か秘密があって、たぶん星さんはそれに一番近いところにいるのよ」
 蓮子は帽子の庇を弄りながら答える。やはりそうか。私が違和感を覚えるぐらいだ、蓮子があの話をスルーしたのは、あそこで疑問点を突っ込んでも満足な答えは得られないという確信からだろう、という私の推測は正しかった。
 寅丸星さんの語った物語には、私が聞いても明らかに辻褄の合わない部分がある。問題は、それが何を意味しているのか、ということになるが――。
「で、名探偵さんの誇大妄想はまとまった?」
「まあ、なんとなく全体の構図は見えてきたわね。あとはその裏付けが欲しいところだわ」
「裏付けって、そんなの誰から取るの?」
「心当たりというか、約一名改めてちゃんと話を聞いておかないといけないひとがいるんだけど、問題はどうやって会いに行くかなのよねえ」
 後頭部で手を組んで、蓮子は夕焼け空に息を吐く。
「それって……ひょっとして、神綺様?」
「そゆこと。ねえメリー、どうやって魔界行こうかしら。やっぱり早苗ちゃんに頼むしかないかしらねえ」
「その前に、門番さんが通してくれないんじゃないの?」
 私たちがそんなことを言い合いながら、里の大通りを歩いていると――ふと、きょろきょろと所在なげに視線を彷徨わせている女性二人組の姿を見かけた。道に迷ったのだろうか。片方は里では珍しい洋装で、もうひとりは大きめのコートにすっぽり身をくるんでいる。……というか、あの洋装の女性のほう、何か見覚えが……。
 たそがれは誰そ彼と書くように、行き会う人の人相の判別が難しくなる。なので、私たちもかなり近付くまで、その二人組の片割れが、つい昨日会ったばかりの相手だと気付かなかった。
「あ、あらあらあら〜」
 洋装の女性の方が、不意に私たちの方を振り向いて、そんな間延びした声をあげる。
 この間延びした声、つい昨日聞いた覚えがあるのだが――。
「やっと見つけたわ〜。どうも、こんばんは〜」
「――ルイズさん?」
「ええ、ルイズよ〜。ちょっとこっちに遊びに来ちゃったの〜」
 のんびりした調子で、ルイズさんはあっけらかんとそう言った。魔界の住民がそんなあっさり人間の里に来てしまっていいのか。――というか、じゃあもうひとりはまさか。
「え、じゃあそちらはまさか――」
「ふふふ〜、こちらは〜……お母様〜!」
「きゃっ! だ、ダメよルイズちゃん! 私はこれでも魔界の神なんだから! 今日はお忍びなの! 秘密なの! 内緒よ内緒!」
 ルイズさんにコートを剥ぎ取られ、神綺様は慌ててそれを取り返して頭から被り直す。
「神綺様――あの、どうしてここに?」
 どうやって魔界に行こうか相談していたら、逆に魔界の神様がこっちに来てしまった。それも昨日の今日である。いいのかそれで。
「だ、だってだって……やっぱりアリスちゃんが心配だったんだもん」
 コートの中でもじもじと身体を揺らしながら、神綺様は言う。親バカか。
「昨日、白蓮さんたちが帰って行ってからお母様がずっとアリスちゃんアリスちゃんってそわそわしてるから〜。落ち着かせるにはもうこっちに連れてくるしかないかと思って〜」
「え、いいんですかそれ」
「よくはないから、すぐに帰るけどね〜」
「せめてアリスちゃんの姿を一目見たくて……!」
 そう言い募った神綺様は、しかしすぐに「でも」と肩を落とす。
「私、アリスちゃんがどこに住んでいるかも知らないの……!」
「それで〜、とりあえず人間が住んでいそうなここで、知った顔を探してたってわけ〜」
「……はあ。博麗神社で霊夢ちゃんに頼んだ方が早そうですが」
「博麗の巫女に会ったら即座に追い返されちゃうわ〜」
 それもそうか。私たちは顔を見合わせ、肩を竦める。これはまた、見つかれば慧音さんのお説教ルートだが、やむを得まい。
「えー、神綺様。つまり私たちが、アリスさんのおうちに案内すればいいわけですね?」
「案内してくれるの!?」
 目をキラキラさせて神綺様は蓮子に詰め寄る。そんな純真無垢な子供のような目をされては、蓮子といえど断ろうにも断れまい。というかこの神様、本当にアリスさんの母親なのだろうか、妹と言われた方がまだ納得が……という失礼な思考を、私は慌てて振り払った。




―36―

 そんなわけで、もう日も暮れるというのに里を出て、夜の帳が下りていく中、やって来たるは魔法の森である。
「この森の中です。アリスさんのお宅には数回お邪魔してますが、正確な場所までは……」
「大丈夫、近くまで来ればアリスちゃんの魔力の気配を辿れるわ。私の子だもの」
 神綺様は胸を張る。「じゃあ、私たちはここまでで」と蓮子が言うと、神綺様は「え?」とこちらを振り向いた。
「ついてきてくれないの?」
「え? いえ、家族水入らずの方がよろしいのでは」
「だ、だって……私が急に押しかけたら、アリスちゃん逃げちゃうかもしれないし……ねえルイズちゃん、蓮子ちゃんたちについてきて貰った方がいいわよね?」
「お母様〜、あんまりご迷惑をかけちゃまずいですよ〜」
 ルイズさんも呆れ顔で言うが、蓮子は苦笑して「解りましたわ」と頷いた。
「その代わり、神綺様。後でちょっと伺いたいことがあるので、お話よろしいですか」
「お話? ええ、もちろん」
「じゃあ、とりあえず私たちが先に立って行きますね」
 蓮子がそう言い、私と蓮子を先頭に夜の魔法の森へ入っていく。瘴気を吸わないようにハンカチで口元を押さえつつ、暗くて不気味な森の中へ足を進めた。正直、神綺様たちが一緒でなかったら入りたくないが、致し方ない。
「……あの、すみません神綺様、灯りありませんか……? 暗くて足元が……」
 私がおそるおそる振り返って訊ねると、「これでいい?」と神綺様は白く光る球体を手のひらの上に浮かべた。周囲が明るくなり、私はほっと一息つく。
 その光を頼りに、私たちは森の中へ進む。神綺様が「あっちにアリスちゃんの気配!」と指さす方へ歩いて行くと、ほどなく見覚えのあるマーガトロイド邸が見えてきた。
「あれが、アリスちゃんのおうち……!」
 神綺様が感激したような声をあげるが、どう見ても灯りがついていない。
「お母様〜、なんだか留守っぽいですよ〜?」
「そんな! きっとちょっと灯りを消して休んでるだけよ」
 神綺様はそう言って玄関に駆け寄っていく。蓮子が慌ててその後を追った。
「あの神綺様、とりあえず私が呼んでみますわ」
「あ……そうね、お願い」
 一歩下がった神綺様に代わって、蓮子が「アリスさん、いらっしゃいます?」とドアを叩く。変事はない。蓮子はドアノブを掴んで捻るが、ドアは開かなかった。鍵が掛かっている。
「……留守みたいですね」
「そんな! うう、せっかくここまで来たのに……」
 がっくりとその場に崩れ落ちる神綺様。――というか、神綺様がアリスさんの魔力の気配を辿れるなら、アリスさんも神綺様の魔力の気配を察して姿を隠したのでは? という疑念が浮かんだが、口には出さないでおくことにした。
「まあまあお母様〜。急に訊ねてきてもアリスちゃんが困るだけですよ〜」
「そんな……私はアリスちゃんの母親よ!」
「だから〜、遠くで見守るのも母親の仕事ですってば〜」
「夢子ちゃんとおんなじこと言うー! 私はただアリスちゃんの顔が見たいだけなのに……」
「よしよし、お母様のその気持ちはちゃんとアリスちゃんにも伝わってますから〜」
 よよよ、と泣き濡れる神綺様をなだめるルイズさん。「ほんと?」「たぶん〜」「うう……」全く、やっぱりどっちが母親なのかわからないやりとりである。
「ねえルイズちゃん、私ここでアリスちゃんが帰ってくるの待つ」
「ダメです〜。今日中に帰らないとサリエルさんに怒られますよ〜」
「サリエルちゃんより私の方が偉いのに……私が創造神なのに……」
「創造神なんですから〜、ちゃんと創造神として魔界にいなきゃダメですよ〜」
「ううううう……」
 がっくりとうなだれてルイズさんに泣きつく神綺様を、ルイズさんが「よしよし」と撫でる。なんとも反応に困るその姿を脇で眺めていると、蓮子が「あのー、神綺様」と声を掛けた。
「帰る前に、お話よろしいですかね」
「う? ああ……ええ、そうね、ルイズちゃん! 蓮子ちゃんのお話が終わるまではここでアリスちゃんを待つからね! いいわよね?」
「はあ。あんまり長い話はしないでくださいね〜?」
 ルイズさんが困り顔で蓮子を見やる。「すみません」と蓮子は苦笑気味に頭を下げて、神綺様に向き直った。
「伺いたいのは、白蓮さんのことなんです。昨日はごたごたしてて訊きそびれまして」
「白蓮さんの?」
「はい。――単刀直入に伺いますが、ひょっとして、白蓮さんを人間から魔法使いにしたのは、神綺様なんですか?」
 蓮子のその問いに、私は思わず目を見開く。
 そして当の神綺様はというと――。
「ええ、その通りよ」
 あっさりと頷いてみせた。――ああ、と私は昨日のことを思い出す。白蓮さんと霊夢さんたちの戦いを観戦しながら、夢子さんと神綺様が「あれ、お母様の魔法じゃありませんか?」というような話をしていたのだった。
「昨日、博麗の巫女たちと戦ってたときにも、白蓮さん、私の教えた魔法を使ってて、懐かしくなったわ。ねえルイズちゃん」
「お母様、私はその場にいませんでしたよ〜」
「あら、そうだったっけ?」
「人間が魔法使いになる方法については詳しくないのですが、白蓮さんはどのように魔法使いになったのですか?」
「私と契約を結んだの。人間が種族魔法使いになる一番手っ取り早い方法は、魔族と契約を結ぶこと。契約を結ぶには魔力の才能があることが絶対条件だけどね。さらに完璧な不老長寿の魔法使いになるには、他にもいくつかの術を覚える必要があるわ。白蓮さんはそれらもマスターして、不老長寿の魔法使いになったわ。人間から種族魔法使いになったのは《成り変わり》と呼ばれるけれど、その中でも白蓮さんはほぼ完璧な《成り変わり》なのよ。元人間の魔法使いとしては最高レベル。だから白蓮さんも実質私の娘みたいなものかもしれないわね」
「ははあ。――では、白蓮さんが封印されたときのことを伺いたいのですが。白蓮さんを封印していた法界の結界、あれは当時の博麗の巫女が張ったのでしたよね?」
「ええ、そうよ。博麗の巫女が、魔力を宿した宝塔を使って張ったの」
 ――その言葉に、私と蓮子は、同時に目を見開いた。
「宝塔? それって、まさか昨日――」
「ええ、昨日あの虎柄のお弟子さんが持っていたあれよ。お弟子さんがあれを持っていたから、私も白蓮さんを本当に解放できるんだなと思って案内したの。実際そうだったでしょう?」
「――――――」
 聖白蓮の封印に、星さんが持って逃げたはずの宝塔が使われた?
 それが意味するところは――つまり。つまり?
 うまく思考がまとまらない私の横で、蓮子が口元を両手で覆い、深く息を吐く。
「……神綺様。じゃあ、封印されたときの白蓮さんについてなんですが、神綺様と契約を結んだときと比べて、封印されたときの白蓮さんは、魔力が弱まったりしていましたか?」
「え? ええ――力の大半をあの宝塔に封印したって、白蓮さん自身が言っていたけれど。でも、昨日の様子を見る限り、その力も戻ったはずよ」
 何を訊かれているのか訝しむように、神綺様は首を傾げる。
 蓮子は首を横に振り、ひとつ大きく息を吐いて、顔を上げる。
「では神綺様、いちばん肝心な点を訊かせてください」
 蓮子はそう言って、おもむろに口を開く。

「――白蓮さんはそもそも、何のために、魔法使いになろうとしたのですか?」






【読者への挑戦状】


 さて、今回の【出題編】はここまでである。
 蓮子が最後に神綺様にした質問は、その答えを記すと、それがそのままこの異変の真相に直結してしまうので、あそこで切ったことをご了承願いたい。同様に、その答えを受けて蓮子がさらに重要な確認を神綺様に取っているが、それも【出題編】のうちに記すことはできない。
 と、これではまるで、今回の蓮子の誇大妄想は神綺様に教えてもらったかのようだが、蓮子は神綺様に質問をした時点で既にほぼ真相に辿り着いていたということは、保証しておく。

 なお、もうひとつだけヒントを出しておくとすれば、今回の異変の真相を見抜くには、私たちの過去のある事件簿の、蓮子の推理を念頭に置くと良いかもしれない。
 その事件簿とこの事件簿には、共通する人物が登場している――と、ここまで書くと書きすぎかもしれない。このあたりでヒントは止めておこう。残りの推理の材料は、【出題編】のうちに全て記したはずである。おそらくはたぶんきっと――と、自信なさげに言っておく。

 何にせよ、今回の出題はシンプルである。
 ――聖白蓮の犯した、魔界への封印を罰として与えられた罪とは何か?
 全ての謎は、この一点に集約される。

 千年前、閻魔様が裁いた罪の真実に、あなたは辿り着けるだろうか?

感想をツイートする

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>

この小説へのコメント

  1. 村紗達は過去に人間を襲った罪とかで、閻魔様的には全員死刑レベルだった。
    怪異でもS級ランクの犯罪者を匿っていた為に、巫女や閻魔も裁かざるを得なかった。
    閻魔は村紗達にとっての一番の苦しみは「聖に会えないこと」だと理解していたから、誘導しつつ、星蓮船が動かなきゃ聖に会えない、という状況を作り、長い時間を掛けて村紗達が善人になるまで身動き出来ないようにはした。
    だけど例えば「魔力が貯まったら船が動く」とかにすると、例えば10年くらいで船が動き出したとき、村紗達の人となりが全然変わらないまま聖と邂逅しても、全然償いにならないし改心なんてしていないはず。
    星蓮船は実は、「村紗達が善の心を手に入れる」ことをトリガーとして動き出すようになっていた。
    つまり、聖白蓮が種族的魔法使いになった理由は長生きする為。
    なぜならば、「長生きしてないと村紗達が罪を償った」時に、死んでいるかもしれないから。
    村紗達と会うためには、長寿になる必要があった。
    というのは、どうだろうか

  2. 推理の追記をするならば、村紗達がちゃんと善人になってないと、絶対に聖に辿り着けないようになっていた。
    原作では間欠泉の噴出で船は脱出したけど、誰かに力を借りるとしたら、まず強者の力がないと地底から船を出すことなんて出来ない。
    村紗達が本当に嫌なヤツだったら、蓮子はそもそも力を貸さなかっただろうし。
    仮に脱出しても、悪人のまま地底を脱出して聖に会いに行ったら、道中で巫女や閻魔に退治されるのではなく、殺されていた。

  3. 罪のほうは人妖化、ないし神格化かなと思いました
    妖怪に長く接していた事でほぼ人外になりかけてたので退治、魔力吸い取って封印という工程を経て一応人間に戻り、その上で改めて魔法使いという中庸な存在になったのかなと

    不老化の理由は村紗達の変質を待つ為でしょうか。当時幻想郷は無かったんで微妙ですが
    妖怪として人を害する必要があるままだと共存も何も無いので、そこらが不要になるまで放置する為の時間作り
    宝塔に封じた魔力というか妖力が消耗するのを待つ為、とかもあるかも

  4. 『ハンパな認識と力で「幻想郷 第0号」を作ろうとしたこと』が罪でいかがでしょうか。
    人間と妖怪の下手な(争いの無い上手な?)共存では人食い妖怪は存在し得ないはず。それは別の存在への変質を押し付けているようなものである。
    山の獣が「虎だ!虎だ!お前は虎になるのだ!」と言われて虎になってしまったのだし、それが続くならば妖怪が消えてしまう。
    「そう認識されたから、そうなる」こちらの幻想郷なら、共に生きる隣人ではないにしても、各々の存在を良い加減に手を打てるだろう。

    封印されたのは、宝塔に移した聖の力で幻想郷(博麗大結界)を作るため、また別の力を付けさせるため。
    あなたも幻想郷の一員。それも長生きの妖怪の一種として。

  5. 映姫さまの「愛する者のために罪を犯すのではなく」、聖自身の「兄弟姉妹は、大切に~」という言葉から、
    犯した罪は恐らく命蓮がらみの何かだと予想できる(命蓮の存在は地霊殿編での船長との話で既出)。
    ここからメタ推理で申し訳ないが「過去の事件~」「共通人物」というワードから、
    これがアリスが登場する妖々夢編と過程すれば、「死者と再会すること」が思い浮かぶ。
    さらにこの路線で推理を進めるなら、西行妖が西行の妖怪化した姿であったように、
    宝塔とは即ち命蓮の亡骸、あるいは彼が望んで変化した姿なのではないか?
    宝塔や船に関する諸々の疑問はこれが根底にあるのではないだろうか。

    結論、白蓮の罪とは「命蓮を蘇らせようとしたこと」で、
    魔法使いになったのはそのため、と推理します(蘇生以外の別の干渉かもしれない)。
    ・・・もっとも、この推理、「妖怪を匿い助ける」という行いとどうにも結びつかないという致命的欠陥を抱えているのですが。まぁ、一部分だけでもニアミスしてると嬉しいです。

  6. 宝塔が今回の真相の鍵という訳ですかね?何だか難しい。
    魔力についてはまだ奥が深そうです。

  7. 過去の作品=風神録?
    諏訪子=聖、神奈子=星と考えると、神奈子→諏訪子のように星に対する信仰が聖に流れていた?その力で聖が何かをしようとしていたが、それに気付いた星、博霊の巫女、映姫によって封印された。魔法使いになったのは別の方法でやりたかったことを成功させるため。
    自分でも無茶だと思うが、これなら諏訪子の自分が先輩だと言う言葉に単に幻想郷の住人という以外の意味を持たせられるかなと。

  8. 彼女の罪は人間でありながら、不老不死になろうとしたこと。そして聖はそれを人間の体でなし得た。
    だがここで茨歌仙の青蛾の一件を思い出してほしい。人間の癖に人間の枠を越えて生きようとすると小町以上の恐ろしいものがやって来るらしい。
    その恐ろしいものにおそらく聖は捕まったのではないだろうか?そしてその結果が閻魔の采配なのではなかろうか?
    人間では罪な行いや存在である聖を合法の存在にするための変身期間が魔界封印と千年の年月だったのではないだろうか?

  9. コメント見て思いついたが、妖怪を匿ったのは魔力タンクとして、だったりして。
    んでタンクとして利用するだけのつもりだったが、情が移り本当に救いたいと思うようになったとか。

  10. ↑確か、公式がそうだったはず。
    命蓮が死んでから、死にたいして恐れを抱くようになった。
    で、妖怪を匿うていで妖力や魔力を貰って不老長寿を得ていた。だけどそのうち聖には本当に妖怪への愛着が湧いてきた。

  11. あれ、もしかして妖力を命蓮寺にいた時に吸いすぎて妖怪の寿命を吸ってしまったのか?
    それこそ、1000年分くらい。
    その妖力を元に戻してあげる為に宝塔や星蓮船に妖力を分散して、村紗達に返していたのかな。
    だけど問題が起きた。
    寿命を返したら、長く生きられないから村紗達と再開してあげられないし、死んだ経緯がバレたら「なんだあの尼は人の命吸ってたのか、もう二度と人間なんて信用するか」となる。
    だから、ある意味寿命を自給自足出来る魔法使いになる必要があった。
    魔力を村紗達に戻すついでに「村紗達の過去の罪に対する懲役」も、魔界で長く囚われることで精算しようとした(もちろん白蓮が魔法使いになれずに死んだら村紗達が残りを償う)。

    蓮子の質問は「魔法使いの契約をした当初、白蓮はヨボヨボだったか?」かな

  12. で、昔の阿求が事件の真相を記さなかったのは、人と妖の関係に影響を及ぼすから。
    白蓮が妖怪から命を吸ってたのは幻想郷が出来る前だけど、人と妖の関係的にはバレるとまずい。
    争いが激化する可能性もある。
    だから「妖怪を匿う罪で封印」ということにして、「人が妖怪から寿命を奪った罪」のほうは隠した

一覧へ戻る