東方二次小説

こちら秘封探偵事務所第9章 星蓮船編   星蓮船編 第6話

所属カテゴリー: こちら秘封探偵事務所第9章 星蓮船編

公開日:2018年03月03日 / 最終更新日:2018年03月03日

―16―

 私と蓮子が両手を塞いでいると戦いにくい、というわけで、蓮子が早苗さんの左手に掴まり、私が蓮子に掴まる格好で、早苗さんは宝船を探して幻想郷の空を飛ぶ。
 その間、早苗さんは様子のおかしい妖精たちを容赦なく撃墜してUFOを回収、ついでに飛び出してきた唐傘お化けも撃墜した。その華麗なる空中戦の模様を詳しく語る紙幅がないのが残念だ。「おどろけー」と飛び出してきたものの私を含め誰も驚かず、早苗さんに「そのキャラ作ってるでしょ?」「時代遅れの茄子みたいな傘」とバッサリ切り捨てられた挙げ句、早苗さんが片手で巻き起こした風によって、雨を模した弾幕ごと吹っ飛ばされて消えていった唐傘お化けの少女に合掌。当の早苗さんは「妖怪退治って楽しいですね!」とウキウキで、何か目覚めさせちゃいけないものに目覚めさせてしまったような。
 ともかく、聖輦船を探して人間の里から妖怪の山方面へ飛び、魔法の森上空を回って太陽の畑の方へ進み、迷いの竹林上空を通り過ぎる。人間の里を中心に北へ進んでからぐるっと反時計回りに幻想郷を半周したところで、ようやく霊夢さんと魔理沙さんの姿を見つけた。
 ここはちゃっちゃとふたりを追い越して宝船へ――と蓮子が言おうとしたところで、
「あ、いました! おーい!」
 早苗さんが先に声を張り上げて手を振ってしまう。蓮子が「あちゃあ」と額を押さえた。私たちとしては霊夢さんたちより先に聖輦船に行きたかったのだが、これは早苗さんへの説明不足が原因なのでだいたい蓮子のせいである。空中に立ち止まって周囲を見回していた霊夢さんと魔理沙さんが振り向き、霊夢さんが思い切り眉を寄せ、魔理沙さんが楽しげに笑った。
「なんだお前、宝船の話だけしてどこ行ったのかと思ったら、蓮子たち連れてきたのかよ」
「こういう話は探偵事務所案件だと思いまして!」
「やあやあどうも、早苗ちゃんにくっついた格好で失礼しますわ。飛べないもので」
「ちょっと、異変解決に飛べない人間がくっついてくるんじゃないわよ。危ないわよ」
「あら霊夢ちゃん、心配してくれるの? 大丈夫、私たちには早苗ちゃんのご加護があるから」
「おふたりは現人神の力でお守りしますから大丈夫です!」
「あ、そうだ魔理沙ちゃん、箒にメリー乗せてあげてくれない? さすがに二人掴まってると早苗ちゃんも大変そうで」
「あー? はっはっは、いいぜ、乗れよメリー」
「魔理沙、あんたまで」
「いいじゃないか、たまには異変解決を間近で見物してくれるギャラリーがいたってさ。それに人数が増えても宝船の宝は早いもん勝ちだぜ」
「ったく……なんであんたたちは戦えもしないのに異変のたびに首突っ込んでくるのよ」
「性分なもので」
 いけしゃあしゃあと笑う蓮子に肩を竦めながら、私は魔理沙さんの箒に乗り移る。私が魔理沙さんの背中にしがみついたところで、「それで、宝船は?」と早苗さんが訊ねると、「このあたりで見失ったのよ」と霊夢さんが肩を竦めた。
「雲の中に隠れちまってなあ。マスタースパークで雲ごと吹き飛ばすか」
「ダメよ魔理沙ちゃん、うっかり宝船を墜落させちゃったらどうするの」
 八卦炉を取り出す魔理沙さんに、蓮子が止めに入るけれど、
「墜落したら調べやすくなるわね。魔理沙、撃っちゃっていいわよ」
 霊夢さんがあっさりそう言い放ち、「よっしゃ」と魔理沙さんが八卦炉を雲へ構える。蓮子が止める間もなく、八卦炉に魔力の光が集まり――轟、と発射。
 唸るような音をたてて八卦炉から放たれた極太のレーザーが、眼前の雲を吹き飛ばす。レーザーの形に穴が開くようにして消し飛んだ雲の向こう、慌てて方向転換する船の姿が遠目に見えた。間違いない、聖輦船だ。
「あっ、あれですね!」
「あの距離なら撃ち落とさなくても追いつけるな。先に行くぜ! おっとメリー、ちゃんと掴まってろよ!」
 私の返事も待たず、魔理沙さんが星屑を撒き散らして加速する。私は思わず目を瞑って魔理沙さんに強くしがみついた。振り返る余裕はなかったが、後方では霊夢さんと、蓮子を抱えた早苗さんがそれを追いかけてきていたようだ。
 幻想郷最速を自称するだけあって、マストの折れた聖輦船がみるみる近付いてくる。と、ちぎれた雲の破片がふわふわと聖輦船のそばへ流れていき――こっちへ近付いてくる。
 いや、違う。近付いてくるどころではない。すごいスピードで迫ってくるのだ!
「うおおおおお!?」
 危険を察した魔理沙さんが咄嗟に回避し、後ろに掴まった私はぐわんぐわんと揺さぶられて三半規管がデンジャラス。揺れる視界の端を掠めた、魔理沙さんの箒を掠めていったのは、雲ではなく巨大な拳だった。あれは――。
「今度は人間? 妖精やら人間やら有象無象が寄ってたかって……宝物庫狙いなの?」
「宝物庫だと? なんという魅力的な響き。噂通りの宝船か! お前は宝の番人か?」
「問答無用! 賊の類いにかける情けはなし!」
 あの声は――間違いない、一輪さんだ。私が声を掛けようとした瞬間、またぐわっと風が唸りをあげ、魔理沙さんが曲芸飛行めいた急旋回で迫り来る拳を回避する。雲山さんの拳だ。一輪さんは私に気付いていないらしく、次々と拳のラッシュが私たちへと迫り来る。
「なんだなんだ、巨人でも連れてるのか、あいつ」
 どちらかというと毘沙門天だから阪神だと思う。じゃなくて。
「船ごと撃ち落としてやるぜ!」
「ま、待って待って魔理沙さん!」
 風切り音に掻き消されないように、私は魔理沙さんの耳元で声を張り上げる。
「おん? なんだよメリー、邪魔しないで掴まってろよ。流れ弾に当たっても知らんぜ!」
「そうじゃなくて――彼女、知り合いなんです!」
「あー?」
「戦わなくても話が通じるはずですから! 一輪さーん!」
 私は一輪さんへ向かって声を張り上げるが、距離があるせいか聞こえないようで、一輪さんは雲山さんを従えて私たちの方へ飛びかかってくる。一輪さんが気付いて拳を止めるのが先か、私たちが殴り飛ばされるのが先か、蓮子みたいな命知らずではない私はそんな分の悪い賭けには出たくない。
「聞こえてないぜ! なんだか知らんが、私がやっつけてやるからそれまで待ってろ!」
 ぐおん、とまた私たちのそばを雲山さんの拳が掠める。「うおっとっとと」と魔理沙さんがバランスを崩しかけ、そこに追撃の拳が迫ってくる!
 終わった。か弱き人間は入道の拳にふっとばされて三途の川まで直行である。私はぎゅっと目を瞑り――けれど、待ち構えていた衝撃は訪れない。
 おそるおそる目を開けると、私たちの鼻先で雲山さんの拳が止まっていて、
「メリーさん!?」
 その背後から、素っ頓狂な声をあげて一輪さんが顔を出した。
「すっ、すみません! 雲山に言われるまで気付かなくて――てっきり賊だとばかり」
 私の姿を認めた一輪さんは、ぺこぺこと頭を下げる。その姿に毒気を抜かれたように魔理沙さんは目をしばたたかせ、「おいおい、どういう関係だよ」と肩を竦めた。
 そこへ、霊夢さんと早苗さん(+蓮子)が追いついてくる。魔理沙さん(の後ろにいる私)に恐縮しきりの一輪さんの姿に、「どういう状況よ」と霊夢さんが首を捻った。
「あ、いっちゃんいっちゃん、やっほー。お久しぶり」
「ああ、蓮子さん! 私たちの方からお迎えにあがらないといけないところなのに、わざわざこんなところまで……ええと、こちらの方々は?」
 一輪さんが私たちを見回す。霊夢さんは「なんだかわからないけど、怪しいわね」とお札を取りだし臨戦態勢。早苗さんは「あのー、所長?」と蓮子へ首を傾げている。
「あー、いっちゃん、実はこれは……」
「……ん? なに雲山。え、飛倉の破片を?」
 と、雲山さんが一輪さんに何か耳打ちしたようで、途端に一輪さんの顔がぱっと輝いた。
「ああ! 蓮子さんメリーさん、飛倉の破片を集めてくださっていたんですね! ということは、こちらの皆さんも姐さんの復活にご協力いただけていると……ありがとうございます!」
 感激を露わに頭を下げる一輪さんに、霊夢さんと魔理沙さんと早苗さんが顔を見合わせる。
「何の話だぜ?」
「こっちにわかる言葉で話しなさいよ」
「あー、霊夢ちゃん魔理沙ちゃん、ここに来るまでにUFO捕まえてない?」
「UFO? あ、早苗の言ってたやつ?」
 と、霊夢さんが袖の中から木ぎれを取り出す。魔理沙さんも「おお、これか?」と帽子の中から同じく木ぎれを取りだした。早苗さんが「私が一番集めましたよ!」と木ぎれを詰め込んだ鞄を開くと、一輪さんが歓声をあげる。
「それです! まさしく姐さんの飛宝! これで姐さんを復活させられる! 素晴らしいわ、今の世にもこんな人間がいたなんて!」
「なんだ、ひょっとしてこれが宝船の宝だったのか?」
「何が金銀財宝よ。相変わらずあんたの話は当てにならないわね」
「金銀財宝? 聖の宝はそんな金銭に換算できるものではありませんよ。人間を改心させる姐さんの力を秘めた宝は、姐さんが封印されている間にほとんど散り散りになってしまいました。でもそんなことはどうでもいいの。姐さんの復活こそが最大の宝なんですから!」
「なんか胡散臭いですね……」
「とにかく、皆さん船の中へどうぞ。姐さんの復活を是非一緒に見届けてください! あ、メリーさんと蓮子さんは雲山が運びますからこっちへ」
 というわけで、私と蓮子は雲山さんの掌に飛び移る。蓮子が「早苗ちゃんもおいで」と手招きすると、「あ、はい!」と早苗さんは困惑顔でついてきた。残る霊夢さんと魔理沙さんはもう一度顔を見合わせる。
「おい霊夢、どうする?」
「財宝はなさそうねえ。ま、この船が何なのかの調査はしておくわ」
「確かに、ここまで来て手ぶらで引き返すのも癪だな」
「それに、あの二人を問い詰めてやらないと。今度は何やらかしたんだか、ね」
「あいつら人間なんだからほどほどにしといてやれよ」
 ――そんな怖い会話が聞こえてきた気がしたが、聞かなかったことにした。
 ともかく、かくして私と蓮子と早苗さん、それに霊夢さんと魔理沙さんの五人は聖輦船内部へと案内され、聖白蓮の復活を目指す聖輦船の魔界行に同行することとなる。




―17―

 聖輦船の船内は、なぜかやたらと妖精だらけだった。木ぎれを抱えた妖精が、テンション上がってきたと言わんばかりに陽気に踊り狂っている。
「ああ、またこんなに入り込んで! こら、姐さんの飛宝で遊ぶな! 雲山!」
 一輪さんが雲山さんの拳で容赦なく妖精を薙ぎ払い、妖精は木ぎれを放して散っていく。それを回収して一輪さんが息をついている脇で、今度は妖精たちがこっちに向かってきた。どうやら早苗さんたちが集めた木ぎれが目当てらしいが――。
「鬱陶しいわねえ」
「全くだぜ」
「吹っ飛ばしましょう!」
 相手が悪い。霊夢さんのお札と魔理沙さんの星屑に撃墜された妖精が、まとめて早苗さんの風で船外に吹っ飛ばされていく。南無阿弥陀仏。
「で、蓮子にメリー。何がどういうことなのか、詳しいことを聞かせてもらおうかしら?」
 妖精をあらかた追い払ったところで、霊夢さんが私たちに詰め寄ってきた。
「いやあ、霊夢ちゃん焦らない焦らない。先にこの船の船長にご挨拶しましょ」
「船長?」
 ホールドアップした蓮子がそう言い募り、霊夢さんは眉を寄せる。
「あのー、メリーさん、あの方たちは協力者なのでは……?」
 一輪さんが訝しげに私に耳打ちし、私は「ええと、何て説明したらいいのか……」と首を傾げた。この状況、一輪さんたちには何とも一言では説明しにくい。
「とにかく、蓮子の言う通り、ムラサさんのところでまとめてお話した方が」
「それもそうね。星たちとも合流できたし――じゃあ皆さん、こちらへ」
 一輪さんはそう言って、先頭に立って歩き出す。蓮子がぱっと身を翻して私に並んで歩き出し、「あ、待ってくださいよー」と早苗さんがそれを追いかけ、霊夢さんと魔理沙さんも顔を見合わせながらついてくる。
 そんなわけで、総勢六人でぞろぞろとやって来たるは聖輦船後部の操舵室、なのだが。
「ムラサ、蓮子さんたちが飛倉の破片を集めてきてくれたわ! これで姐さんを復活できる!」
 操舵室の扉を開けて一輪さんがうきうきとそう声をあげる。その声に、操舵室にいた三つの影が振り向いた。――三つ?
「マジで!? 神様仏様蓮子様! やっほーう!」
「キャプテン! イェーイ!」
「イェーイ! ああもう蓮子愛してる! 結婚しよう!」
「はっはっは、キャプテンの気持ちは嬉しいけど私はメリーがいるから」
「馬鹿なこと言ってないの」
 駆け寄ってきたムラサさんが蓮子とハグ。調子に乗って馬鹿を言う蓮子のほっぺたを、私はうりうりとつねってやる。そんな様子を、話についていけない様子で見つめる霊夢さんと魔理沙さん。――それから。
 操舵室にもうふたつの影がある。ひとりは見覚えのない、黒メッシュの金髪が虎柄めいた、何やらありがたい雰囲気のボーイッシュな女性。そしてもうひとりは――。
「あ」
「あ」
 早苗さんと、そのもうひとり――ネズミの少女、ナズーリンさんとが、ぽかんと見つめ合う。
「あーっ、さっきの蓮子さんを襲ってた妖怪!」
「げっ、君はさっきのわけのわからない巫女!」
 早苗さんが大幣を、ナズーリンさんがダウジングロッドを取りだし身構える。
「ちょっとナズーリン、蓮子さんを襲ったってどういうこと?」と一輪さん。
「お、落ち着いてくださいナズーリン。というかあなた方はいったい――?」と虎柄の女性。
「問答無用ですよ! 人間を襲う妖怪は退治しなくては!」と早苗さん。
「ちょ、ちょっと待ったちょっと待った! 何がどうなってるの?」とムラサさん。
 知り合いと初対面と因縁とが入り乱れ、現場は大混乱である。早苗さんがナズーリンさんに襲いかかろうとし、ナズーリンさんがそれを受けてたとうとし、ムラサさんと一輪さんがそれを止めに入ろうとしたところで――。
「いい加減にしろ! あんたたち、全員まとめて退治するわよ! せめてこっちにわかる言葉で話しなさい!」
 ブチギレした霊夢さんの大声が、操舵室に響き渡った。




―18―

 というわけで、総勢九名(+入道一名?)が聖輦船操舵室にて車座になり、自己紹介タイムである。「じゃあキャプテンから時計回りで」と蓮子が勝手に仕切りだし、「はいはーい」とムラサさんが立ち上がる。
「村紗水蜜、この聖輦船の船長です。聖を復活させるため、いっちゃんと一緒にこの船ごと地底から脱出してきました。宝塔と飛倉の破片が集まったので、いよいよ聖の封じられた魔界に進路を取ろうとしてたところです」
「まずその聖って誰だよ」とツッコミを入れるのは魔理沙さん。「それは私から」と、ムラサさんの隣の一輪さんが立ち上がる。
「私は雲居一輪、こっちは相棒の雲山。私たちは封印された偉大なる僧侶、聖白蓮の弟子です。千年前、姐さんは人間に裏切られ、魔界に封印されてしまいました。私とムラサもこの聖輦船と一緒に地底に封印されたんですが、このたび蓮子さんたちのおかげで脱出に成功し、姐さんの復活に必要な飛倉の破片――あなた方が集めてくださったそれを回収しているところだったんです」
「封印された偉大なる僧侶、ねえ」と霊夢さんが腕を組んで眉を寄せる。
「ていうか、蓮子たちのおかげで地底を脱出したってどういうことだ?」と魔理沙さん。
 じろりと睨まれた蓮子は、「あはは」と頭を掻いて立ち上がる。私もため息をついて立ち上がった。
「じゃあちょっと順番ずれるけど、初対面の方もいるので。私は宇佐見蓮子、こっちは相棒のメリー。人間の里で探偵事務所を営んでいる平凡な人間ですわ」
「お前らのどこが平凡なんだよ」と魔理沙さんがすかさず突っ込む。
「えー、私たち冬の怨霊騒ぎのときに地底に落っこちて、そこでキャプテンたちと知り合ったわけで。キャプテンたちの地上脱出の手助けをしたわけです。主に各方面に渡りを付けるネゴシエイターの役目を」
「大恩人だよ! 星ちゃんもナズっちも感謝して!」とムラサさん。星ちゃんと呼ばれた虎柄の女性がぽんと手を叩き、「ああ、貴方たちがムラサの言っていた! 本当にありがとうございます!」ときらきらした目で私たちに頭を下げる。その隣でナズーリンさんはちょっと憮然としたような顔をして、星さんに「ほらナズーリンも」と促されて頭を下げた。
「蓮子さんたち、そんなことしてたんですか? 私も手伝わせてくれれば良かったのに」と不満げな声をあげる早苗さん。「いやあ、早苗ちゃんは最近忙しそうだったから」と蓮子は頭を掻く。と、その早苗さんの横で魔理沙さんと霊夢さんが蓮子を見やった。
「ちょっと待てよ蓮子。ってことはこの宝船が幻想郷に出現したのって――」
「あんたたちの仕業?」
「――ええまあ、因果関係的にはそういうことになりますわ」
 蓮子が頭を掻いてそう答えると――次の瞬間、魔理沙さんは腹を抱えて笑い出し、霊夢さんは唸りながら頭をぐしゃぐしゃとかき回した。
「わはは! 誰かと思ったらお前らが主犯かよ! おいどうする霊夢、退治するのか? 戦闘力皆無の人間が起こした異変なんて前代未聞だぜ」
「あーもう、こんなのどうしろって言うのよ。少なくともあんたたちを退治しても現状何の解決にもならないってことぐらいは解るわ」
 憮然として腕を組んだ霊夢さんは、じろりと蓮子を睨んで、改めてその場に座り直すと、「あんたたちの話をもう少し聞こうじゃないの」とムラサさんたちを見回した。
 それを受け、「では、私の番ですね」と立ち上がったのは星さんである。
「寅丸星です。毘沙門天の弟子をしております。かつて聖の寺では、毘沙門天の代理として祀られ、聖の信仰を受けておりました」
「ということは、お寺のご本尊さんです?」と早苗さんが首を傾げる。
「ええまあ、名目上はそういうことになります。ですが、私自身も聖の弟子ですので、寺の長は私ではなく聖ということになります」
「要するに我が命蓮寺のナンバーツーね」とムラサさんが横から補足する。
「じゃあ貴方が、千年前に逃げ延びたもうひとりの妖怪なわけですね」と蓮子。
「ええ。千年前に聖が封印された際、私とナズーリンはどうにか逃げ延びることができました。しかし聖自身も、聖の力を秘めた宝物も大半が封印されてしまったので、寺は朽ち果てるばかり……。ナズーリンと山奥で息をひそめ、ムラサたちの脱出を待っていたのです」
 星さんはそこで言葉を切り、隣のナズーリンさんを促す。仏頂面で立ち上がったナズーリンさんは、私たちと早苗さんとを軽く睨んでから「ナズーリンだ」と名乗った。
「私は毘沙門天の使いで、厳密には聖の弟子ではない。毘沙門天から、このご主人様のお目付役として遣わされた者だ。千年前からその任がずっと継続中なので、今もこうしてご主人様たちに協力している」
 そこへ、「あ、ナズっち、宝塔返してくれない?」と茶々を入れるように蓮子が声をあげ、ナズーリンさんが噎せた。「え? え?」と星さんがおろおろと視線を彷徨わせる。
「ひどいじゃない。お代は払ってくれるって言ってたのに結局盗んだうえに、うちの事務所の窓まで壊して行っちゃうんだから。窓の修繕費も払ってよね」と口を尖らせる蓮子。
「あっ、あれはそこの巫女がいきなり私に襲いかかってくるからだな――」
「貴方が蓮子さんを襲っていたからじゃないですか!」早苗さんがいきり立つ。
「な、ナズーリン? どういうことですか?」おろおろとする星さん。
「そうだよナズっち、蓮子から宝塔盗んだってどういうこと?」とムラサさん。
「盗んだわけじゃない! ちゃんと代金は払うつもりで――ああいや」とナズーリンさんは言いかけたところで、はっと口をつぐむ。蓮子はニヤニヤと笑いながら彼女を見やり、その視線に気付いたナズーリンさんが怒りでか羞恥でか真っ赤になった。
 蓮子ってば、窓を壊されたの意外と根に持っていたらしい。ナズーリンさんはもはや誤魔化しきれないと悟ったらしく、大きくため息をついた。
「……キャプテンたちにはまだ言ってなかったが、千年のうちに宝塔がどこかへ流出してしまっていて、キャプテンたちと合流するまでそれを探していたんだ。それで、宝塔を手にしていた彼女らに辿り着いて、交渉していたところに邪魔が入ったから、咄嗟に宝塔だけ回収してこっちに向かったんだよ。ちゃんと代金は後から払うつもりだった」
「いや星ちゃん、他でもない宝塔流出させちゃダメでしょ」とムラサさんが呆れ顔。
「……面目ありません」と星さんは肩を落とし、「ま、まあまあ、とにかく宝塔は無事に回収できたわけだから」と一輪さんが取りなす。
「それより宝塔代と窓の修繕費」と蓮子が小声でささやくと、「あ、はい、それは後ほど必ず私の方から支払わせていただきます」と星さんが蓮子に頭を下げる。
「……で、要するにお前たちはその偉大な僧侶とやらを解放するためにこの船で魔界に向かってる、ってことでいいのか?」と魔理沙さんがここまでの話を要約しにかかり、「はーい、その理解で結構です」とムラサさんが答える。
「じゃ次、早苗ちゃんね」と蓮子が早苗さんに振る。「はい!」と早苗さんは立ち上がった。
「東風谷早苗、守矢神社の風祝で、秘封探偵事務所の非常勤助手です! 霊夢さんを見習って、私も幻想郷の異変解決に動いてみることにしました! 妖怪退治って楽しいですね!」
 無邪気にそんなことを言い出す早苗さんに、ムラサさんたちが一斉に身を固くする。ああ、この空気の読めなさ、あまりにも早苗さんで安心しかない。
「……え、じゃあ私たちの目的に賛同してくださった協力者ではないんですか……?」と一輪さんがこちらを振り向く。蓮子は「まあ、そうなるわねえ」と頭を掻いた。
「まあ次。魔理沙ちゃん」
「あー? 霧雨魔理沙、普通の魔法使いだぜ。宝船の噂を聞いて来たんだが、どうも本当にろくな宝積んでないみたいだな、この船」
「え、この船、宝船って言われてるの?」とムラサさん。「噂になってるみたいよ」と蓮子が答えると、「まあ、星ちゃんがいればそのうち金目のものも集まってくるけど」と星さんを振り向いた。星さんは「いや、そんなことを言われても……」と困り顔で首を傾げる。
「はい、じゃあ最後、霊夢ちゃん」
 蓮子が霊夢さんに声をかけると、「なんで私が妖怪に自己紹介なんかしなきゃいけないのよ」と霊夢さんは憤慨した様子で腕を組んだ。
 隣で苦笑する魔理沙さんが、「あー、こいつは博麗霊夢。貧乏神社の巫女だ。神社が貧乏だから宝船の財宝に目が眩んでこんなところまで来た、欲深い卑俗な巫女だぜ」と勝手に紹介し、霊夢さんが「あんただけには言われたくないわ!」と魔理沙さんを睨む。
 ――と、その一方で、ムラサさんたちの間には一気に緊迫感が走った。
「博麗……?」と星さん。
「まさか、博麗の巫女!?」と一輪さんが立ち上がる。
「落ち着け皆、あれは千年前だ。巫女が人間ならとうに別人だよ」とナズーリンさん。
「確かに、言われてみればちょっと雰囲気が違うような……」とムラサさん。
 妖怪四人組に走った緊張感に気付いた霊夢さんが、「あによ」と振り返る。魔理沙さんも「なんだなんだ?」と首を傾げ――、
「あ、ひょっとして、千年前にその僧侶ってのを封印したのが昔の博麗の巫女なのか?」
 爆弾発言を投下した。――操舵室の空気が凍りつく。
「なるほど、怪しいと思ったわ。偉大な僧侶とやらを復活させたがってるってのが妖怪どもだってことは――そのその僧侶とやらも妖怪ってことね!」
 霊夢さんが立ち上がり、お札とお祓い棒を手にして身構えた。
「昔の博麗の巫女が退治して封印した妖怪を解き放とうなんて、そんな企みは阻止するわ!」
 ああ、最悪の展開――。まあ、霊夢さんが聖輦船に辿り着いてしまった時点で、こうなることは自明の理だった気がする。
「なんだ、結局そうなるのかよ。ま、その方が解りやすくていいぜ」
 魔理沙さんまでノリノリで立ち上がり、「妖怪退治ですね!」と早苗さんまで乗ってしまう。
「――聖の復活に協力していただけないと?」
 それを受けて、星さんがすっと立ち上がる。それを合図に、ムラサさんたちも立ち上がった。三人対四人、人間と妖怪の間に火花が散る。
「やっぱり博麗の巫女は敵じゃん! 私たちの邪魔はさせないよ!」
 ムラサさんが、その手に大きな碇を顕現して振りかぶった。
「飛倉の破片を集めていただいたことは感謝しますが、姐さんの復活を邪魔するというのなら、抗わないわけにはいかないわ」
 一輪さんも、雲山さんを背中に拳を握り固める。ナズーリンさんもダウジングロッドを構えて臨戦態勢。それを受け、霊夢さんたちもそれぞれ身構え、まさに一触即発である。
「ちょ、ちょっと蓮子、どうするのよこの状況!」
 私は思わず隣の蓮子の肩を揺さぶった。「いやまあ、こうなるわよねえ」と蓮子は頭を掻く。
「頭掻いてる場合じゃないでしょ!」
「と言ってもねえ。霊夢ちゃんもだいぶストレス溜まってるみたいだし――私たちはとりあえず避難しましょっか」
「そんな無責任な――」
「まあ、霊夢ちゃんはこれが仕事だから、とりあえず仕事させてあげましょ。キャプテンたちだってそこまで弱くないはずだから、話はその後でもできるはずよ」
 蓮子はそう言って、私の手を引いて操舵室を出る。私たちという巻き込まれ一般人がいなくなったところで――聖輦船操舵室に、三対四の壮絶な弾幕ごっこの幕が開いた。

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この小説へのコメント

  1. 操舵室内で弾幕って、避けるスペースがないからマスパで全員消し炭なんじゃ・・・。

  2. 船内で弾幕ごっこってそれこそ船が木っ端微塵になるのでは…。そういえば4面ではぬえがでてきたけど、この話ではまだ出て来てないですね。
    彼女ならこの勝負にちょっかいかけてきそうですが…はてさて。

  3. きっと阪神タイガースは5年たっても10年たっても30年たっても68年たっても69年たっても90年たっても優勝しないでしょう

  4. お疲れ様です~もはや、コメディー。
    いや~これは、これで面白いですね

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