東方二次小説

こちら秘封探偵事務所第9章 星蓮船編   星蓮船編 第9話

所属カテゴリー: こちら秘封探偵事務所第9章 星蓮船編

公開日:2018年03月24日 / 最終更新日:2018年03月24日

星蓮船編 第9話
―25―

「聖!」
 誰ともない泣きだしそうな声とともに、ムラサさん、一輪さん、星さんの三人が聖白蓮の元に飛んでいく。聖白蓮――いや、もう復活したのだから白蓮さんと呼ぼう。白蓮さんは飛んでくる弟子たちの姿と、その背後に漂う聖輦船の姿に目を丸くした。
「ムラサ、一輪、星……!」
「聖、聖だあ! 夢じゃない! 夢じゃないんだ! 聖、ひじりぃ!」
「姐さん……よくぞ、よくぞご無事で……!」
「聖……おかえりなさい! こんなにも迎えに来るのに時間が掛かってしまい……申し訳っ、ひぐっ、ぐっ……」
 ムラサさんが白蓮さんに抱きつき、一輪さんと星さんが両手を取って、三人とも顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくった。ナズーリンさんは少し離れた場所でそれを見つめていて、神綺様は「良かった、良かったわねえ……」と思い切りもらい泣きして、夢子さんからハンカチを差し出されていた。
 泣きじゃくる弟子たちに囲まれ、白蓮さんは呆然とした顔のまま三人を見回す。
「皆……私のためにここまで? あれからもう千年も経っているのに……私は、貴方たちに何もしてあげられなかったのに……」
「何を、言うんですかっ、姐さん……」
「そうだよ、聖を助けるんだって、千年前から私たち、ずっと、ずっと……!」
「聖がいたから、私たちはバラバラになっても、またこうして集まれたのです……。この千年、この日を夢見て、私たちは、ずっと、ずっと……っ」
「一輪……、ムラサ……、星……。ああ……ごめんなさい、こんな私のために、貴方たちはそんなにも長い間……。皆、本当に、本当にありがとう……!」
「聖ぃっ!」
 白蓮さんが三人の弟子を両腕で包み込むように抱きしめ、三人は声もなく白蓮さんにすがりついた。私と蓮子は顔を見合わせ、笑い合う。――この光景が見たくてここまでやって来たのだ。感慨無量というやつで、私もちょっともらい泣きしそうになる。
 そのまましばらく三人の背中をさすっていた白蓮さんは、それからふっと顔を上げ、聖輦船の甲板上にいる神綺様に目を留めた。
「神綺様――。神綺様がこの子たちを案内してくれたのですか」
「ええ、白蓮さん、本当におめでとう……よがったわねえ……」
「お母様、鼻水が垂れてます」
 弟子たち以上にぼろぼろ泣いている神綺様に、白蓮さんは優しく微笑み、それから私たちの方へ視線を移す。
「ムラサ、そちらの方々は?」
「ん……ああ、そうだ、聖に紹介しなくちゃ! 雲山、お願い!」
 ムラサさんが白蓮さんの胸から離れ、雲山さんを呼んで私たちの方へ飛んでくる。ムラサさんの手を掴み、私と蓮子は雲山さんに乗って、聖白蓮の眼前まで飛んでいった。
「聖、紹介します! こちら、蓮子とメリー。地底に封印されてた私といっちゃんと聖輦船を地上に解き放ってくれた大恩人!」
「あ、ど、どうも、はじめまして……マエリベリー・ハーンです」私はぺこりと頭を下げ、
「これはこれは、お目にかかれて光栄です。宇佐見蓮子と申します」と蓮子も一礼。
「あら、それはそれは……私からも是非お礼を言わせてください。はじめまして、聖白蓮と申します。この度は弟子たちが大変お世話になったようで……このご恩はいつか必ず」
 私たちは白蓮さんと友好の握手を交わす。あたたかい手をした人だった。
「はいはい、話は済んだ?」
 そこへ霊夢さんが飛んで来る。「おい霊夢、抜け駆けすんなよ!」「あ、待ってください!」と、魔理沙さんと早苗さんもそれを追いかけてきた。ムラサさんが険しい顔で、間に立ちふさがろうとしたが、白蓮さんがそれを制し、霊夢さんたちと向き合う。
「あんたが妖怪の親玉ね?」
 霊夢さんがお祓い棒を白蓮さんに突きつける。虚を突かれたように目をしばたたかせた白蓮さんは、「貴方は……?」と眉を寄せた。
「その姿……まさか、貴方は今の博麗の巫女ですか?」
「昔の巫女があんたを封印したって本当だったのね。そうよ、私は博麗の巫女、博麗霊夢」
 霊夢さんの名乗りに、白蓮さんは身を固くする。
「なぜ博麗の巫女が……また私を封印するというのですか?」
「それを見定めに来たのよ。あんたが危険な妖怪なのかどうかをね」
「妖怪の親玉ですよ! 危険な妖怪に決まってます!」
 後ろで空気を読まず早苗さんがそう叫び、白蓮さんは表情を険しくする。
「そちらの貴方も巫女のようですね」
「東風谷早苗、妖怪退治をする巫女です!」
「妖怪退治……?」
「ええ、人間を苦しめる妖怪を退治するんです!」
 早苗さんの言葉に、白蓮さんは険しい顔のまま、今度は魔理沙さんを振り返る。
「そちらの貴方は?」
「おん? 私は霧雨魔理沙、普通の魔法使いだ。あんた、私の同業者なんだって?」
「あら――貴方は人間のようですね。私が封印されている間に、外では人間が魔法を使っても大丈夫な世界になったの?」
「おん?」
「私はこの力を恐れられて封印されることになったのです」
「違うでしょ。あんたがこいつら妖怪を匿っていたからでしょうが」霊夢さんが口を挟む。
「それは、人間に虐げられる妖怪を救い、平等な世界を創るためです。ですがそれを人間に拒まれ、私の力もまた恐れられ、私はこうして封印されてしまった――」
「何を言うんですか、妖怪が人間を虐げてるんですよ!」早苗さんが言い、「まあ、霊夢みたいな例外を除けば、私もこいつに賛成だな」と魔理沙さんも早苗さんの言い分に乗る。
 その言葉に、白蓮さんは顔を俯けて、
「……人間は変わっていない」
 そう呟いた。
「神も仏も妖怪も何も変わらない。なのになぜ神仏は信仰され、妖怪は排除されるのか。それは人間の勝手な理屈でしかないのです」
「何を言うんですか! 神様を妖怪扱いしないでください!」と早苗さんが憤り、「私は神様も妖怪も区別なく退治するけどね」と霊夢さんが肩を竦める。
「さすがは博麗の巫女。貴方は昔と変わらず、妖怪を全て排除するという考えで筋が通っているようですね。――ですが、貴方の思想は私と相容れません。貴方が私を再び封印するというのなら、私は断固として抵抗します」
「やっぱり危険思想の持ち主みたいね。いいわ、お望み通り封印してあげる」
「賛成です! 神奈子様たちを妖怪扱いされて黙ってはいられません!」
 巫女二人が臨戦態勢に入る中、白蓮さんは再び魔理沙さんの方を振り仰ぐ。
「貴方はどうなのですか? 同じ魔法使い同士、私の考えに同調していただけるなら――」
「――いや、私も人間と妖怪が平等とは思えないぜ。人間の方が弱いんだから、人間が優遇されるべきだ。てなわけで、霊夢の方に乗った」
 魔理沙さんも帽子を被り直し、にっとその顔に好戦的な笑みを浮かべる。
 白蓮さんは深くため息をつくと、決然と顔を上げ、手にした七色の巻物を大きく広げた。
「人間は何も変わらない。誠に愚かで浅く、自分勝手、大欲非道、付和雷同である!」
 その声は、雷鳴のように法界に轟き、光を震わせるようだった。
「聖!」「姐さん!」「我々も共に!」
 ムラサさんたちがその背後でいきり立つが、白蓮さんはすっと手を広げてそれを制す。
「これは私の戦いです。貴方たちは、そこのお二人を守ってあげていてください。――少々派手な戦いになりそうですから」
「でも――」
「大丈夫ですよ、ムラサ。千年前の過ちは、繰り返しません」
 力強くそう言い切り、霊夢さんたちに向き直った白蓮さんに、ムラサさんがなおも手を伸ばそうとするが、星さんが「……聖の意志を尊重しましょう」とそれを制した。
「――――ッ」
 唇を噛むムラサさんの肩を一輪さんが掴む。言葉を堪えるように、ムラサさんは首を振って、その場から聖輦船へ向かって踵を返した。雲山さんに乗った私たちも、一輪さんや星さんとともに聖輦船の甲板へ戻っていく。
 そうして、法界上空には、聖白蓮と、それを退治に来た三人の人間が対峙する。
 霊夢さんがお祓い棒を、魔理沙さんが八卦炉を、早苗さんが大幣を構え、身構える。
 沈黙とともに張り詰めた糸を断ち切るように、白蓮さんの声が響き渡った。

「いざ、南無三――!!」




―26―

 聖輦船の甲板で、私と蓮子はムラサさんたちや神綺様たちと一緒に、その戦いを観戦していた。ムラサさんたちは祈るような顔で見つめ、神綺様はのんきに夢子さんの淹れたお茶を飲んでいる。と思ったら、蓮子までちゃっかり相伴にあずかっていた。
「ちょっと蓮子、なにのんきにお茶飲んでるのよ」
「まあまあ、メリーもどう? このハーブティー落ち着くわよ」
「どうぞ」
 夢子さんからカップを差し出されたので受け取るしかなくなった。確かにお茶は飲んでみたら美味しかったが、それどころではないと思うのだが。
 そんな私たち部外者組の方は一顧だにせず、ムラサさんたちは食い入るように白蓮さんの戦いを見つめている。というか、ナズーリンさん以外の面々は助太刀したくてうずうずしているのが明らかだった。
「……星ちゃん、もし、万が一聖が負けたら、もう止めないでよ」
「大丈夫です。……そうなったら、私も自分を抑えきれる自信がありません」
 縁を掴んだムラサさんの手、星さんの槍を持つ手が震え、一輪さんは黙って雲山さんに寄りかかっている。ナズーリンさんは星さんの傍らで、感情の読めない無表情を上空に向けていた。そんな命蓮寺組の視線の先で――白蓮さんのキックに、早苗さんがはじき飛ばされる。
 白蓮さんの魔法は肉体強化系だとはアリスさんから聞いていたが、その言葉通り、白蓮さんの戦闘スタイルは肉弾戦主体のマッシヴなものだった。弾幕をばらまきながら、自らその隙間をかいくぐるように、恐るべきスピードで距離を詰めて接近戦を挑む。魔法使いとは思えない、どっちかというと武闘家スタイルに見える。
 その戦闘スタイルに一番苦労している様子なのは砲撃型の魔法が得意な魔理沙さんで、必殺のマスタースパークを放つだけの隙と距離を作らせてもらえていない。早苗さんも肉弾戦は不慣れなようで、間合いが計れず苦戦していた。辛うじて対応できているのは、結界での固い防御で凌いでいる霊夢さんだが、これまで私が見てきた彼女の妖怪退治の中でもかなり苦労している部類に入るだろう。距離をとって弾幕を撃ち合う弾幕ごっこが主流の幻想郷で、ここまで近距離肉弾戦に特化した強敵とは、霊夢さんといえど戦闘経験が少なかったということかもしれない。
 なお、以下の戦闘描写における会話は後で早苗さんから聞いたところによる。離れた場所で観戦する私たちに聞こえていたわけではないことを了解されたい。
「くそっ、とにかく距離を取るぜ!」
「了解です! もう殺す気で弾幕張ります!」
「不本意だけど、それしかないわね」
 魔理沙さんがやたらめったらと星屑をばらまき、霊夢さんが大量のお札を、早苗さんが五芒星型の光弾をそこに重ねる。ほとんど隙間もないような弾幕の壁に、さすがに白蓮さんの足が僅かばかり止まる。その間に魔理沙さんたちは遠距離戦に持ち込むべく距離を取り、
「――大魔法『魔神復唱』」
 白蓮さんが巻物を掲げて、何かを唱えた。次の瞬間、彼女の光背から放たれた無数の弾幕とレーザーが、魔理沙さんたちの張った弾幕の壁を容赦なく薙ぎ払った。
「あれ、お母様の魔法じゃないですか?」
「あらあら、白蓮さんったら覚えててくれたのね」
 お茶を飲みながら観戦する夢子さんと神綺様がそんなことを言う。白蓮さんが封印されている間に、神綺様が自分の魔法を教えたりしていたのだろうか。
 ともかく、弾幕の壁はあっさり破られ、せっかく魔理沙さんたちが広げた距離を、白蓮さんは一気に詰めてくる。霊夢さんを結界のガードごと拳で吹き飛ばし、そのまま早苗さんに回し蹴りを決め、八卦炉を構えていた魔理沙さんに早苗さんが激突する。
 吹っ飛ばされた三人はどうにか体勢を立て直すと、一箇所に集まって白蓮さんと対峙した。
「なんなんですかこの人! 強すぎません!?」
「泣き言いってる場合じゃないぜ! おい霊夢、こりゃもう本格的に共同戦線しかないぜ」
「何をどうすんのよ。今の弾幕だって破られたじゃない」
「でも足は止まったぜ。とにかくあいつの足を一箇所に止めればいいんだよ。霊夢、お前そういうの得意だろ。お前が足を止めたところで私が一発でかいのぶちかましてやるぜ」
「コイツ素早すぎて封魔陣じゃ捕らえられないのよ。――あ、そうだ早苗」
「なんですか?」
「あんた囮になりなさい。隙さえ作ってくれれば私が封魔陣で捕らえるから、そこを魔理沙に撃ち落とさせるわ」
「いやいやいや、それ高確率で私が巻き添えになりますよね!?」
「尊い犠牲だぜ」
「やむを得ないわ」
「やむを得ます! 得すぎます! そんな5小説版のデモンズタワーでのドラきちみたいな役回りは御免ですよ! 博麗神社のために自己犠牲する義理はありません!」
「だったらせめてあいつの行動半径狭めてくれよ。このままじゃジリ貧だぜ」
「やろうとしてるんですけど動きが速すぎて――」
「あーもう仕方ないわね! 私が無理矢理止めるから、あとはあんたたちで何とかして!」
 このやりとりの結果、三人がどんな作戦で挑んだのかというと――。
 まず、霊夢さんがお札や陰陽玉をばらまきながら果敢に白蓮さんの懐に飛びこみ、自分を中心に強力な結界を展開、自分ごと白蓮さんを結界の中に閉じ込めた。白蓮さんは結界を破壊しようと拳を振るい、一撃で結界にヒビが入る。
 だが、その隙に早苗さんが五芒星を展開し終えていた。早苗さんによるところの「海が割れる日」――御身渡りをモチーフにしたその術は、早苗さんの霊力で作りだした波が相手の行動半径を大きく狭める。早苗さんによると、かなり体力を使うのであまり使いたくない技らしい。
 白蓮さんが霊夢さんの結界を砕いて脱出したときには、その場はモーゼによって割られた海の様相を呈していた。白蓮さんの左右を早苗さんの作りだした波が塞ぎ――そして、その先に、八卦炉を構えた魔理沙さんがいる。
 早苗さんが割った海は、そのまま魔理沙さんのマスタースパークの射線そのものだった。白蓮さんが目を見開いた瞬間には、霊夢さんは素早くその場を脱出して、
 ――轟、と、魔理沙さんの八卦炉から放たれた特大のレーザーが、白蓮さんを飲みこんだ。

 甲板上でその戦いを見守っていた全員が、息を飲んだ。
 静寂の中、白蓮さんを飲みこんだ、マスタースパークの光が消えていく。
 そこに、白蓮さんは変わらずに立っていて――。

 次の瞬間、ぐらりと白蓮さんの身体が揺らいだ。
 バランスを崩したような格好で、白蓮さんは浮力を失ったように、頭から墜ちていく。
「聖ぃっ!」
 ムラサさんが悲鳴をあげ、聖輦船の甲板から飛び出そうとし、
 ――それに先んじて、小さな影がひとつ、飛び出していく。
「ナズーリン!?」
 星さんが驚きの声をあげる。ナズーリンさんはその声にも振り返ることなく、墜ちていく白蓮さんの元へ一直線に飛んでいく。一瞬、それを呆然と見守ったムラサさんたちは、しかしすぐに、その後を追って飛び出していく。
「メリー、私たちも行くわよ!」
 突然の宣言とともに、蓮子が雲山さんにしがみつく。私も慌てて蓮子のコートの裾を掴むと、雲山さんは律儀に私たちを乗せる形に変形してくれた。ありがたく私たちは雲山さんに乗って、墜ちていく白蓮さんの元へ急ぐ。
 最初に追いついたのは、先行したナズーリンさんだった。
「聖、掴まれ!」
 ナズーリンさんの差し出したダウジングロッドに、はっと目を開けた白蓮さんが手を伸ばし、その手がロッドの先端を掴む。
「ナズーリン!」
 星さんがそれに追いつき、ナズーリンさんの小さな身体を背後から抱えた。
「ナズっち、星ちゃん、そのまま動かないで!」
 ムラサさんが碇を振り上げる。何をするのかと思ったら、碇の鎖を振り回して投げつけた。鎖はナズーリンさんと星さんの身体を結ぶように巻き付いて、「どっせい!」とムラサさんがその鎖を引っ張り、三人の落下が止まる。
「雲山!」
 最後に一輪さんが叫び、雲山さんの掌が白蓮さんたちの真下に伸ばされ――三人は、その掌の上に着地した。
「聖、大丈夫!?」
 ムラサさんが駆け寄り、ナズーリンさんが「キャプテン、その前にこれを解いてくれないか」と抗議の声をあげる。「あ、ごめんごめん」とムラサさんが鎖を解いている間、雲山さんの掌に尻餅をついた格好の白蓮さんは、呆然と法界の空を見上げていた。
「……負けたのですね」
 ぽつりと、白蓮さんがそう呟いたところで――。
「私たちの勝ちよ」
 霊夢さんと魔理沙さん、そして早苗さんが、その場に舞い降りてきた。




―27―

 ムラサさんたちが一斉に振り返り、白蓮さんを守るように身構えた。
「勝負はついたぜ。まだやるのか?」
 魔理沙さんの言葉に、ムラサさんが敵意の籠もった視線を向ける。
「もう二度と聖を封印させはしないよ! あのときは私たちが聖に助けられたんだ、だから今度は、私たちが聖を守る!」
 ムラサさんのその言葉に、一輪さんも星さんも、そしてナズーリンさんも立ち上がり、それぞれに臨戦態勢の構えをとる。霊夢さんが「どこまで面倒臭いのよ、こいつら」と息を吐き、お祓い棒を振りかざす横で、魔理沙さんは肩を竦め、早苗さんは口を尖らせた。
「悪い妖怪を退治しに来たはずなのに、これじゃ完全に私たちが悪役ですよぉ」
 私たちの姿に気付いて、早苗さんがそう声をあげる。
「こっちは妖怪に悪役だと思われるぐらいでいいのよ」
 霊夢さんはあくまで冷徹な表情のまま、お祓い棒を高く振り上げ――。
「はいはい、霊夢ちゃんそこまで」
 蓮子がぱんぱんと手を叩き、あっけらかんとその場に割って入る。霊夢さんはまた噛みつきそうな顔をしてこちらを振り向いた。
「ちょっと、いい加減にしなさいよそこの主犯。私が勝ったんだから、この妖怪どもはまとめて封印するんだから。これ以上邪魔するならあんたも一緒に封印するわよ」
「まあまあ霊夢ちゃん。そうは言うけどね、この勝負、霊夢ちゃんの勝ちではないと思うわ」
「――は?」
 剣呑に眉を寄せる霊夢さんに、蓮子は「だってねえ」と魔理沙さんを振り返る。
「確かに霊夢ちゃんは勝ったら聖白蓮を封印するって宣言したし、早苗ちゃんもほぼ同義のことを言っていたわ。でも、勝負を決めたのは魔理沙ちゃんのマスタースパークでしょ? だったらこの勝負、勝ったのは魔理沙ちゃんじゃない?」
「――――」
「というわけで、聖を再封印するかどうかを決める権利は魔理沙ちゃんにあると思うんだけど。どう、魔理沙ちゃん。彼女を封印する?」
「あー?」
 突然話を振られ、魔理沙さんは肩を竦める。
「別に私はこいつを退治しに来たわけじゃないからなあ。どっちでもいいぜ」
「ならとっとと封印するわよ」
 霊夢さんが再びお祓い棒を振り上げる。だが、そこへ。
「――見逃してくれたら、私たちが秘蔵していた宝を出そう」
 そう言ったのは、ナズーリンさんだった。魔理沙さんの目がきらりと光る。
「お宝だと?」
「そうだ。君は聖輦船を宝船だと思って追ってきたんだろう? だったら、宝を手に入れれば目的は果たしたことになるじゃないか。私とご主人様が寺を脱出したときに秘蔵した宝はまだいくつかあるから、それを君に譲り渡そう。それでどうだい?」
「ほう――いいぜ、その話乗った!」
 魔理沙さんが楽しげに指を鳴らし、「ちょっと魔理沙!」と霊夢さんが吼える。
「あんた何考えてんのよ! 勝手に決めるんじゃないわよ!」
「勝ったのは私だぜ?」
「それは蓮子が勝手に言ってるだけでしょうが!」
「いやいや霊夢、弾幕ごっこは当事者同士の決闘であると同時に、観客を楽しませるエンターテインメントだ。観客の蓮子の判定は尊重すべきだぜ」
「え、そういうものなんですか?」早苗さんが首を傾げる。
「そういうものなんだぜ。なんなら霊夢、この場で私と戦って白黒つけるか? その間にこいつらは逃げ出すだろうけどな」
「――うっさい! 全員まとめてぶっ飛ばすわよ!」
 いきり立つ霊夢さんを、「まあまあ、ここは落ち着きましょうよ」と早苗さんが止めに入る。
「あによ、あんたまで魔理沙の側に立つ気?」
「いやあ、それよりですね。三人で協力して勝ったんですから、お宝の山分けを要求するのは私たちにとって正当な権利じゃないかと思いまして」
「――――――」
「どうです? あの地震騒ぎで神社の資金繰りまだ苦しいんじゃありませんでしたっけ? だから宝船を追っかけてたんですよね? ここであの人を宝物ごと封印しちゃうのと、お宝を受け取ってもうちょっと様子を見るのと、どっちが得だと思います?」
「――――――――――――」
「魔理沙さーん。というわけで私たちも全力で見逃すのに同意しますから、お宝山分けでどうですか? 三人で協力して勝ったんですから」
「あー? 八・一・一なら乗ってやってもいいぜ」
「そんなー。ここは四・三・三で」
「譲っても六・二・二までだな」
「じゃあ半分魔理沙さんで四分の一ずつ私と霊夢さんでいいです。乗ってくれなきゃ私も霊夢さんについて魔理沙さんを倒してお宝を霊夢さんと二人で山分けします!」
「ちょっと早苗、あんたまで」
「――解った解った、それでいいぜ」
「交渉成立ですね! では、二人が見逃しに同意ってことで多数決で決まりです!」
 早苗さんが高らかにそう宣言し、霊夢さんがそれでも何か不平の声をあげたが、
「お疲れ様です。お茶でもどうぞ」
 夢子さんがやって来て、霊夢さんにお茶を差し出した。「む」と唸ってカップを受け取り、お茶を口にした霊夢さんは、「……解ったわよ、もう!」と長々とため息をついた。
「でも、こいつらがやっぱり危険な妖怪だって解ったら、今度こそ封印してやるからね!」
 霊夢さんのその宣言に、命蓮寺の面々の笑顔が弾けた。

 ――かくして、魔界に封じられた大魔法使い、聖白蓮は解き放たれた。

感想をツイートする

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>

この小説へのコメント

  1. 霊夢と魔理沙に早苗を相手にして一時は優勢を取る聖強いですね
    蓮子の懐柔能力が大活躍の回でした

  2. 蓮子は話にスキを見つけるのが上手いなぁ

    ありがとうございます。

  3. 妙蓮寺メンバーの絆は他の勢力(紅魔館や白玉楼等)
    とはまた違った結束力がある感じ
    他の勢力は親友だったり仲間だったりだけど
    妙蓮寺メンバーは『家族』って感じで好き

  4. ↑確かに寺は家族感ありますよね。自分も微笑ましいと思います

    なお廟

  5. 近接格闘相手だとさすがの自機組も普段と勝手が違って苦労したようですね、それでも咄嗟の連携プレーは見事でした。
    そして霊夢を言葉巧みに誘導するだけでなく、周りまでこちら側につけ反抗の隙を潰す蓮子のスキルには脱帽です‼︎

  6. 蓮子に話術で勝つのは無理そうですねーこれ(笑)
    即座に隙を見つけては、それなりなところに結論を持っていく。

  7. 白熱するシーンが満載でしたね。ムラサ達の連携は見事でした。
    この後が蓮メリの本格活動ですね。その前に慧音先生の頭突きを食らいそう(笑)。

  8. お疲れ様です~蓮子の頭のキレには毎度驚かされてます~。
    原作の星蓮船持ってプレイした事ありますが、easyでも中々骨が折れてた白蓮戦。やっぱり、白蓮強いですね。「マッシヴ」のワードが出てきた時は魔理沙の「マッシヴボディ」を思い浮かべたのですが元ネタはそれなんでしょうか?

一覧へ戻る