東方二次小説

こちら秘封探偵事務所第9章 星蓮船編   星蓮船編 第5話

所属カテゴリー: こちら秘封探偵事務所第9章 星蓮船編

公開日:2018年02月24日 / 最終更新日:2018年02月24日

星蓮船編 第5話
―13―

 さて、香霖堂から宝塔を買い取り、マーガトロイド邸で聖白蓮の話を聞いてから一週間ほどの間は、この記録に特記するほどの動きはなかった。
 紅魔館にも足を向け、小悪魔さんから魔界の話を聞いてみたものの、得られた情報はアリスさんから聞いた話と大差なかった。小悪魔さんは聖白蓮のことは全く知らず、「法界には行ったことがないですね、すみません」とのことである。
 ちなみに小悪魔さんによると、アリスさんの御母堂たる魔界の創造神は、神綺様という名前らしい。「確かに神綺様は魔界の管理者です。魔界の全ての創造主というのはさすがに大げさですが、悪魔や堕天使以外の魔界人の多くを創ったのは彼女のはずですね」とのことだった。
 で、なんで一週間も宝塔をムラサさんたちに見せに行かなかったかというと――。
「こっちから聖輦船に連絡する手段の確保、忘れてたわ……」
 そんな間の抜けた話で、ムラサさんたちからの連絡待ちだったのである。なお、光の三妖精からも特に連絡はなかった。妖精のことだから、飽きて忘れてしまったのかもしれない。

 事態が動いたのは、宝塔を買い取ってから八日目、寺子屋が休みの日である。
 閑古鳥に不法占拠されて久しい事務所で、相棒は相変わらず光り続ける宝塔をためつすがめつしながら、「中の魔力結晶って取り出せないのかしらねえ」などと言っていた。
「壊さないでよ」
「さすがにそこまではしないわよ。大枚はたいて手に入れたんだし」
 蓮子はそう言うが、いつ分解して中を確かめようとしだすか、私としては気が気でない。
 はらはらしながら相棒を見守っていると、不意に事務所の戸が叩かれた。この事務所を訪ねてくるのは、早苗さんか慧音さんぐらいのものである。はいはい、と私は返事をして、入口の戸を開け放った。
「……あら?」
 そこにいたのは、早苗さんでも慧音さんでもなかった。外套のフードを目深に被った、非常に小柄な影が、そこに佇んでいる。寺子屋の生徒かと思ったが、胸元に光るペンデュラム型のペンダントが目を惹いた。こんな小洒落たペンダントをしている生徒には覚えがない。さらにその手には、先の曲がった二本の棒。と言ってもバールではない。これは……ダウジングロッドだろうか?
「ええと、どちら様?」
 私がそう訊ねるのに構わず、その小柄な人物はのしのしと私を押しのけるようにして事務所の中に足を踏み入れる。そして、宝塔を手にした蓮子を振り向き、
「やっと見つけた――」
 やや声の低い少女か、声変わり前の少年なのか、判断しにくい声音でそう感慨深げに呟くと、その人物はダウジングロッドらしき棒を、びしりと蓮子へと突きつけた。
「その宝塔、返してもらいたい」
「はい?」
 いきなり現れたと思ったら、唐突に何だというのだ。私は蓮子と顔を見合わせる。その反応に、少女あるいは少年は、「ああいや」と首を振った。
「別に君たちを盗人扱いするつもりはないんだ。実はその宝塔は、もともと私たちのものでね。うっかり流出させてしまったのはうちのご主人様の不手際だから、ただでとは言わない。君たちが現在の所有者なら、相応の対価は支払う。それがないと私たちは非常に困るんだ。譲ってもらえないだろうか」
 と、今度は低姿勢に出てくる。「ふむ」と蓮子はその場に座り直した。
「ということは――貴方、聖白蓮のお弟子さん? 千年前に捕まらずに逃げおおせたという、命蓮寺の二匹の妖怪の一匹かしら。キャプテンとは無事合流できた?」
 にやりと笑って蓮子がそう言うと、その人物(妖怪?)は、うろたえたように身を固くした。
「なぜ、それを知っている。まさか、宝塔を盗んだ犯人なのか」
 身構えた影に、「いやいやいや」と蓮子は両手を挙げて首を振った。
「ひょんな伝手から宝塔を手に入れただけの一般人よ」
「じゃあなぜ、千年前のことを知っている。聖だけでなく、ムラサや私たちのことまで――」
「あら、ということはまだキャプテンたちとは合流してないのね。あ、ひょっとしてこの宝塔を流出させちゃったことを知られたくないの? せっかく千年前に逃げおおせたのに、封印を免れた宝物を流出させちゃったなんて、そりゃ仲間に面目が立たないわよねえ」
「――――」
 呆気にとられたように、その人物は構えを解き、蓮子をじろじろと見つめた。蓮子はにっと猫のように笑い、「大丈夫、私たちは貴方たちの味方よ」と言った。
「味方、だと?」
「そう。聖輦船が千年ぶりに地上に脱出したことは把握してる?」
「あ、ああ……」
「なるほど、それに合流するために、宝塔を探してたわけね。――私たちも、貴方たちにこれを渡すために手に入れたのよ。これが聖白蓮の力を宿したものなら、その救出の役に立つんじゃないかと思って」
「……君は何者だ?」
 訝しげに問う声に、蓮子は「人に名前を訊くときは、まず自分から」と笑って返す。
「……それもそうだな。失礼した」
 そう言って、その人物はフードを外した。そこから現れたのは、灰色の髪をし、丸いネズミの耳を生やした少女の顔だった。
「私はナズーリン。命蓮寺に祀られていた毘沙門天の弟子、寅丸星の部下だ」




―14―

「あら、かわいい。なるほど、貴方がキャプテンの言ってた『ナズっち』で、貴方のご主人様が『星ちゃん』なのね。貴方はネズミの妖怪さんかしら?」
「ネズミを甘く見ると死ぬよ。私の配下の小ネズミはチーズなんかより肉が好きでね」
 微笑んだ蓮子に、ナズーリンさんはむっとしたようにそう言い返す。蓮子はホールドアップして、「ネズミに食われて死ぬのは嫌ねえ」と首を振った。
「私は宇佐見蓮子。この《秘封探偵事務所》の名探偵。で、そっちのが助手のメリーね」
「……どうも」
 私も会釈する。ナズーリンさんは横目にちらりと私を見やって、また蓮子に向き直った。
「それで、こっちの問いに答えてもらえるかな。君は何者だ?」
「そうねえ。端的に言えば、聖輦船の地上脱出の首謀者、かしら」
 ナズーリンさんが眉間に皺を寄せる。そりゃまあ、ただの人間が千年も封印されていた聖輦船を地上に脱出させたと言っても、素直に信じられはしないだろう。
「実は先日地底に行く機会があって、そこでキャプテンたちと知り合ったの。で、聖輦船を地上に脱出させるために、地上と地底の関係各位に渡りをつけたのがこの私。幻想郷ではちょっとばかり顔が広いんでね。疑うんだったら、後でキャプテンに確かめてみて」
「…………」
 半信半疑という顔をしながらも、ナズーリンさんはひとつ息を吐いた。
「確かに、今の人間が私たちや聖輦船のことをそこまで詳しく知っているとなれば、ムラサか一輪の知り合い以外は考えにくいな。わかった、とりあえずは信用しよう」
「それはどうも」
「それで、宝塔を渡してもらえるかな」
「うーん、まあ渡しちゃってもいいんだけど……」
 蓮子は宝塔を手に取り、気を持たせるように自分の方へと引き寄せる。
「これ、古道具屋から私たちが買い取ったのよ。けっこうふっかけられてねえ」
「……わかった、その代金はこちらで支払おう。何なら手数料を上乗せしたっていい」
「あらどうも。ま、手数料はいいわ。それより、お願いしたいことがあるんだけど」
「なんだい?」
「私たち、普通の人間だから飛べないのよ。聖輦船まで連れて行ってくれない?」
 蓮子のその言葉に、ナズーリンさんは目をぱちくりさせて、思い切り眉間に皺を寄せた。
「……ネズミに人間ふたり抱えて飛べと?」
「無理かしら?」
「無理じゃないが……わかった、そうすれば宝塔を譲ってくれるんだな?」
「ええ、せっかく手に入れたんだから、直接キャプテンたちに渡したいし……あ、それだとそっちが困るんだっけ? ならナズっちが手に入れたってことでいいわ」
「君にナズっちと呼ばれる筋合いはない! あまり私を侮ると小ネズミの餌にするよ。いいか、力尽くで奪ってもいいのに、私は君たちと交渉してやってるんだからな」
 馴れ馴れしい蓮子に、ナズーリンさんは口を尖らせてダウジングロッドを突きつける。蓮子は再びホールドアップして「これは失礼いたしました」と反省してなさそうな顔で言う。全くこの命知らずな相棒は――と、私がため息をつきかけたとき。
「蓮子さん、メリーさん、大変ですよ!」
 最悪のタイミングで、事務所に乱入してくる影ひとつ。
「あ」「あ」「え」
 事務所の戸が開け放たれ、東風谷早苗さんが姿を現した瞬間、事務所内の時間が止まった。私たちの間を、数秒ぶんの天使が通り抜けていく。
 さて、今の状況を早苗さんの目から見たらどうなるだろう。探偵事務所の中にネズミの妖怪が一匹。その妖怪は、ホールドアップした蓮子に凶器(?)を突きつけている。
 これはさすがに、早苗さんの勘違いを責められない。
「蓮子さん、今助けます!」
「あ、ちょっと待って早苗ちゃ――」
「な、なんだ君は――」
「問答無用!」
 早苗さんが大幣を振り上げ、事務所の中に風が吹き荒れる。私の書きかけの原稿やら鈴奈庵から借りた本やら靴やらが舞いあがり、棚が倒れて中身が散乱し、オンボロ事務所の建物が激しく揺れて悲鳴をあげた。
「くっ――」
 風圧にたたらを踏んだナズーリンさんは、私と蓮子が風を受けて顔をかばっているのを見て、放り出された宝塔に視線を走らせると――手にしていたダウジングロッドを器用に宝塔に引っかけると、そのまま事務所の窓をぶち破って外へと逃走した。
「あっ、待ちなさい!」
 早苗さんがそれを追いかけようとする。さらに強い風が渦巻き、大幣から光弾が――。
「ちょ、ちょっと待って早苗ちゃん! うちの事務所の中で弾幕ごっこ始めようとしないで!」
 蓮子が慌てて早苗さんの袖を引っ張り制止する。さすがの蓮子も、これ以上事務所を破壊されてはたまらないという常識的判断を下したらしい。
「止めないでください蓮子さん! 人間を襲う妖怪は退治しなくては!」
「その前に風を止めて風を! 事務所が壊れるから!」
 風の音に掻き消されないように大声で蓮子が叫び、そこで早苗さんはようやく事務所内の惨状に気付いたらしく、吹き荒れていた暴風がすっと収まった。
「す、すみません……ああ、逃がしちゃった」
 ぐちゃぐちゃになった事務所内と、ぶち破られた窓とを見やって、早苗さんは身を縮こまらせる。私たちもようやくほっと息をつき、それから事務所の惨状にため息をついた。
「宝塔持ってかれちゃったわね……」
「それより蓮子、この状況どうするのよ。あ! 鈴奈庵の本がー!」
 鈴奈庵から借りた本が土間に落ちて、土で汚れたうえにページが折れ曲がってしまっている。これは弁償だろう。ああ、ただでさえあの宝塔のせいで給料日まで金欠なのに……。
「ご、ごめんなさい! 蓮子さんが妖怪に襲われていたので、ついカッとなって」
「いや、襲われてたわけじゃないんだけど……。まあ、ちょっとした誤解とはいえ早苗ちゃんは私を助けようとしてくれたんだから責められないわ。とりあえず、片付けましょ」
「窓は?」
「後でキャプテンたちから修繕費ぶん取ればいいわ。壊したのナズっちだし」
 やれやれ。かくしてそれから三〇分ばかり、私たちは散らかり放題になった事務所内の片付けに追われた。つくづく、今日が寺子屋の授業日でなくて良かったと思う。明日、慧音さんにこの壊れた窓をどう言い訳するかは頭が痛いけれども……。

 で、三〇分後。ようやく片付けが一段落し、私が三人分のお茶を淹れて一息つく。
「……で、早苗ちゃん、今日はどうしたの?」
 蓮子がそう問うと、「あ、そうでした!」と早苗さんはぽんと手を叩く。
「そう、六月二十四日は全世界的にUFOの日なんです!」
「はい?」
 私たちはもともとオカルトサークルであるからして、UFOの日は知っている。一九四七年、アメリカの実業家ケネス・アーノルドが世界で初めて空飛ぶ円盤を目撃した日だが、生憎と今は三月である。私たちの反応が鈍いのを見て、早苗さんは「あれ?」と首を傾げた。
「じゃあおふたりとも、大きな街が丸ごと停電する夢を見た経験は? 信号機の四つめの色は何色ですか? 『アルミホイルで包まれた心臓は六角電波の影響を受けない』というフレーズに聞き覚えがある気はしませんか?」
「おーい早苗ちゃん、大丈夫?」
「そんな! 二〇八〇年代の未来ではイリヤが読まれていないっていうんですか!? おっくれってるぅ――――――――――!! そんなんだからEGFも出ないんですよ! アイザック・アシモフはクソして寝ろってわけですよ!」
「どうどう早苗ちゃん、未来人にあんまり無理は言わないで」
 悲憤慷慨する早苗さんを、蓮子がなだめる。なお後日、このせいで私たちは早苗さんから秋山瑞人『イリヤの空、UFOの夏』全四巻を無理矢理押しつけられることになった。読んでみたらたいそう面白かったことは付記しておく。
「で、UFOの日がどうかした?」
「そう、UFOです! アンディファインド・フライング・オブジェクト略してUFO、つまり未確認飛行物体はその形状によらず全てUFOと呼ばれるべきなんですが、やっぱりUFOと言えばみんな大好きアダムスキー型ですよね! まさに空飛ぶ円盤です!」
 ぐっと拳を握りしめ、そう力説する早苗さんは、「実は……」と誰が聞いているわけでもないのに声を潜める。
「私、見てしまったんです」
「……UFOを?」
「そうです! それもひとつやふたつじゃありません! 幻想郷の空を飛ぶ大量のアダムスキー型UFOを! 幼年期の終りです! 全幻想郷の独立記念日です! さらにそれを引き連れた、怪しい船の影が! あれはきっと噂の宝船に違いありません!」
「だから落ち着いて。……って、噂の宝船?」
「あれ、おふたりとも聞いてないんですか? 雲に隠れるようにして幻想郷じゅうの空を飛んで回っている謎の宝船の話。山の天狗や河童の間ではその噂でもちきりですよ。なんだかすごい財宝を積んだ宝船だとかなんとかって」
「……私たちのところまではまだ届いてないわねえ、その噂。ねえメリー」
 蓮子は私の方を見やる。私も首を振りつつ、小さく肩を竦めて返した。
 その謎の宝船、正体は考えるまでもない。飛倉の破片を回収している聖輦船だ。
「音速が遅いですよ蓮子さん! 幻想郷の空を飛び回る謎の宝船、そしてアダムスキー型UFOの大群! これは異変です、幻想郷の危機です! きっとタコ型火星人が攻めてきます! 宇宙戦争です!」
「その火星人は勝手にウィルスで自滅すると思うけど」
「その前に私たちで宝船の正体を突き止め、宇宙人の野望を阻止するんですよ! 幻想郷を危機から救った現人神として、守矢神社の信仰アップです! ついでにこの探偵事務所の名声も高めて一石二鳥です!」
「それは博麗の巫女の仕事じゃ……」
「妖怪退治の御利益を博麗神社に独占させておく理由はないって神奈子様が仰ってました!」
 それで真っ先にナズーリンさんを退治しようとしたわけか。八坂様も何か早苗さんに余計なことを吹きこんでしまったような……。
「というわけで所長、今こそ秘封探偵事務所出動です! ついでにさっきの逃げたネズミも追跡です!」
 びしっと砕けた窓に大幣を向ける早苗さん。――さて、私たちはどうしたものか? ここは早苗さんに全ての事情を打ち明けるべきではないか。私たちが乗らなくても早苗さんは一人で突っ走っていきそうだし、だとすれば腹を割って早苗さんに共犯になってもらった方が――。
「どうしたんですか蓮子さん、テンション低いですよ!」
 私たちがアイコンタクトで相談していると、蓮子が「いやあ、その宝船の噂も初耳だし、実際に見たわけでもないから」と上手いこと誤魔化す。
 すると早苗さんは「ふふふ」と不敵に笑って、ごそごそとバッグを取りだした。
「では、証拠をお目に掛けましょう!」
「証拠? UFO写真でも撮ったの?」
「そんなものじゃありませんよ! ふふふ、聞いて驚け見て驚け!」
 そう言って、早苗さんが取りだしたのは――。

「私、UFOを捕獲したんです!」
 ――宝塔とよく似た光を放つ、木ぎれだった。




―15―

「え、なにこれラジコン?」
「見ての通りのUFOですよ! ほら、手を放すと飛ぶんです!」
 早苗さんが手を放すと、木ぎれはふわふわと事務所の中に浮かび上がり、うろうろと飛び回る。壊れた窓から出て行きそうになったので、慌てて早苗さんが捕まえ、「すごいでしょう!」と胸を張った。
「本物のUFOを捕まえました! もうロズウェル事件なんて目じゃないです! ファーストコンタクトですよファーストコンタクト!」
「早苗ちゃん、幻想郷でそれを言っても……っていうか、宇宙人の知り合いは既にいるし」
「ええー!?」
 言われてみれば、永遠亭の皆さんは月の民だから宇宙人に違いない。竹取物語が史実だったなら人類は千三百年前に地球外知的生命体とファーストコンタクト済みであるし、結局宇宙人は人類と同じ姿をしていて人類とコミュニケーション可能な人間的知性だったというのが現実だったなら、スタニスワフ・レムも草葉の陰で泣いているだろう。人間が妖怪や妖精や神様という異質な知性と平気で会話する幻想郷において、ソラリスの海は遠くなりにけりだ。
「いや、でもこれは興味深いわね。幻想郷は外の世界で幻想になったものが流れ着く場所だから、アダムスキー型UFOが幻想入りするのはそんなに不思議じゃないけど……これ中身は?」
「中は見られないんですよー。このサイズですし小型の無人偵察機的なものじゃないですか」
「なるほど、この時代でいうところのドローンの類いかしらね」
「ドローン?」
「あれ、ドローンって早苗ちゃんの時代にはまだ外の世界でメジャーじゃなかった? ラジコン操作の小型無人航空機。確か今世紀のはじめに一般的になったはずだったけど。民間では最初は農薬散布に使われてたんだっけ」
「ああ、あれですか! 農家の人が使ってるの見たことありますけど、単なるラジコンだと思ってました。ドローンっていうんですか、あれ」
 蓮子と早苗さんが、木ぎれを覗きこんで盛りあがっている。私は完全に置いてけぼりを喰らっていた。UFOも何も、どう見てもただの木ぎれではないか。というか、それはムラサさんたちが探している飛倉の破片ではないのか?
「ちょっと、蓮子」
「ん? どうしたのメリー」
 私は蓮子を引きずって早苗さんから離れると、声を潜めて耳打ちする。
「早苗さんと何の話をしてるの? あれ、どう見てもムラサさんたちが探してるマストの破片じゃない」
「へ? あれが? ちょっとメリー、大丈夫? UFOがマストの破片に見えるの?」
「は? 蓮子、あれがUFOに見えてるの? ただの木ぎれじゃない」
 ――顔を見合わせ、数秒の沈黙。
「早苗ちゃん! 今早苗ちゃんが持ってるのはUFOよね?」
「え、どうしたんですか? これがアダムスキー型UFO以外の何だっていうんですか?」
 早苗さんは木ぎれを掲げるようにして言う。だが、どこまでいっても私にはそれは単なる木ぎれにしか見えない。私の怪訝な顔と木ぎれとを蓮子は見比べ、「ええ?」と首を傾げる。
「ちょっとちょっとメリー、いくら幻想郷が相対性精神学的な理屈で動いてる世界だからって、生きてる猫と死んでる猫を同時に観測している観測者が同じ世界にいたらまずくない?」
「いや、そう言われても私にはそれは百歩譲ってもUFOには見えないわ。ただの木ぎれ」
「いやいやいや、だって――」
 蓮子は早苗さんの手にしたUFOを見上げ、「――あ」とぽんと手を叩いた。
「まさか、あのときの――? じゃあ、これって、飛倉の破片!?」
「だからそう言ってるじゃない、って何の話?」
 眉を寄せた私に、蓮子はまたにじり寄ってきて、小声で耳打ちする。
「メリー、覚えてない? 地底でキャプテンたちに初めて会った帰り、正体不明の妖怪のいたずらを受けたじゃない、私たち」
「え? ……ああ、そういえば、そんなこともあったわね」
 冬に地底に落ちて、ムラサさんたちに初めて会ったときのことだ。旧都に戻ろうとする帰り道、古明地こいしちゃんに出会う前、私たちは奇妙な現象にでくわした。蓮子とヤマメさんが、ただの壁である場所を出口だと言い張ったのだ。そして、私に出口が見えている場所を、ただの壁だと言った。結局私の見ているものが正しいと判明し、私が皆を案内する形で進んだのだが――。
「あのときヤマメちゃんが言ってた正体不明の妖怪っていうのが、聖輦船のマストを壊した鵺だとしたら、飛倉の破片に同じいたずらを仕掛けてたんじゃない?」
「……木ぎれがUFOに見えるような?」
「そうそう。ただの土壁が出口に見えるような。あのときと同じように、鵺のいたずらがメリーにだけ通用しないとすれば、今まさに私とメリーが全く違うものを見ていることには説明がつくわ」
「相対性精神学的にいえば、人間は元から全員違う世界を見てるんだけどね」
 私はため息をつきつつ、そういうことなら、と納得した。妖怪のいたずらで、蓮子と早苗さんには空飛ぶ木ぎれがUFOに見えているわけか。
「ちょっとちょっとおふたりとも、内緒話なんていやらしいですよ!」
 早苗さんが不満顔でにじり寄ってくる。蓮子は肩を竦めて早苗さんに向き直った。
「ねえ早苗ちゃん、そのUFOどこで手に入れたの?」
「博麗神社の近くで妖精が持って遊んでまして。私が『ちょっと見せて』って言ったら『あげないわよ!』って言って私を攻撃してきたので、返り討ちにして奪い取りました!」
「……その妖精って、三匹で仲良く遊んでなかった?」
「あ、はい。赤青黄色って感じの妖精でしたけど。お知り合いでした?」
 光の三妖精だ。ちゃんと飛倉の破片を集めていてくれたらしい。早苗さんと出くわしたのはご愁傷様としか言いようがない。
「あれ、ってことは早苗ちゃん、ここに来る前に博麗神社に寄ってきたの?」
「はい、ついでに分社の様子を見に。霊夢さんなら、とっくに宝船の件で動いていると思ってたんですけど、まだ神社で魔理沙さんと呑気にしてました」
「……ってことは、霊夢ちゃんたちに宝船の件、話した?」
「魔理沙さんが既に噂は耳にしてたみたいですけど。ふたりとも宝船を探しに行きましたよ。私は宝船の調査に行く前に、蓮子さんとメリーさんを誘いに――」
 蓮子は慌てて立ち上がった。私も思わずつられて立ち上がる。これは一大事だ。聖輦船がまだ魔界に行く前だというのに、博麗の巫女が動き始めてしまった! ということは異変認定されたということで、首謀者としては全くもって他人事ではない。
「早苗ちゃん! 私たちもその宝船を追うわよ!」
「え? ど、どうしたんですか急に? さっきまでテンション低かったのに」
「のっぴきならない事情があるの! おいおい話すわ!」
「は、はあ。わかりました」
 早苗さんも立ち上がり、UFOを鞄に詰め直して事務所を出る。早苗さんの手に掴まって、私たちはその場から幻想郷の空へと飛び立った。目指すは雲の中に紛れた聖輦船。霊夢さんたちが見つける前に追いつかなくては――。
「あ、そうだ早苗ちゃん、ついでなんだけど」
「なんです?」
「他にもUFOを持ってる妖精がいるはずだから、がんがん撃墜してUFOを片っ端から回収して! 宝船のばらまいたUFOの脅威を幻想郷から取り除くのよ!」
 蓮子のいささか物騒な発言に、早苗さんは目を輝かせて答えた。
「イエス、マム!」

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この小説へのコメント

  1. ナズーリンって、部下の人喰いネズミも怖いですが
    それよりもペストやチフスを媒介してそうなイメージが・・・。

  2. 更新お疲れさまです。
    ナズーリンの傲岸不遜な態度が表れててとても良かったです。
    早苗さんあらゆる処で喧嘩ふっかけてますね。血気盛んなんですね。

  3. 普通のUFOのUは
    星蓮船のUFOのUとは違っていて、
    undefined(アンディファインド)ではなく
    unidentified(アンアイデンティファイド)
    でっせ。

  4. にっと猫のように笑う蓮子に流石の賢将もたじろぐばかり…かと思いきや一瞬の隙をついて宝塔奪取するのだから抜け目のない妖怪ですこと。
    緋想天編を経ているおかげ(?)でつい忘れてましたが、星蓮船と言えば早苗さん最初の自機化作品でしたね!これから更に暴れる早苗さんからも目が離せない‼︎

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