東方二次小説

こちら秘封探偵事務所第10章 非想天則編   非想天則編 7話

所属カテゴリー: こちら秘封探偵事務所第10章 非想天則編

公開日:2018年08月11日 / 最終更新日:2018年08月11日

非想天則編 7話
―19―

 地鳴りのような音をたてて、巨大な影が幻想郷の野道を往く。
 ずん、ずん、ずん。その影が一歩を踏みしめるごとに、大地は穿たれ、鳥は飛び立ち、照りつける夏の陽は長く遮られた。その姿はまさに巨魁。巨人。人間など虫けらのごとく踏み潰さんばかりの、恐るべき巨体。
 それはヒトのカタチをしていた。長い金色の髪は熱い風になぶられてたなびき、その髪に結ばれた赤いリボンが揺れる。メイド服めいた衣装は、愛らしい西洋人形のそれだ。そのサイズを度外視さえすれば。
 百メートル近い高みから大地を見下ろす蒼い瞳は、何の感情も映さずに透き通っている。それは獲物を狩るためだけに育てられた猟犬の瞳にも似て、見る者の背筋を凍らせる。
 何よりも恐るべきは――その両腕に携えられた二本の大剣。
 その巨大人形は、手にした大剣を大地へと振り下ろした。大地が揺らぎ、大剣は地面に深くめりこんで、土煙をあげる。
 その切っ先が向けられているのは――人間の里の門だ。
「だ、だいだらぼっちだ! だいだらぼっちが攻めてきたぞ!」
 誰かが叫ぶ。迫り来る巨大人形を遠巻きに眺めていた里の人々が、その一言で現状を認識し、悲鳴をあげて逃げ惑う。ずしん、ずしんと巨大人形――だいだらぼっちは、里へ向かって歩を進める。迫り来る脅威に、人々は怯え、神に祈った。
 神よ、どうかか弱き人間をお救いください――。

 その祈りに答えるように、天から舞い降りる光があった。
 人々がその光を見上げる。光の中で、ちっぽけな人間の影が、その手をかざし、叫んだ。
「――非想天則、ショータイム!」

 次の瞬間、それは地の底から現れた。
 裂けた大地から現れ、人々の前に立ちはだかる、巨大なその影はまさに平和の砦。
「あ、あれはなんだ!?」
 見上げる里の群衆が、口々に叫ぶ。
「あれなるは、守矢神社の誇る里の守護神――非想天則だ!」
 群衆の中の誰かが叫んだ。それに応えるように、舞い降りた人間の影が、その肩に降り立つ。
 その人間の名は――奇跡を呼ぶ風祝、東風谷早苗。
 大地より現れし、その正義の魔神の名は――非想天則。
 非想天則の背中が開き、早苗はその内部に飛びこんだ。非想天則内部にしつらえられたコクピットに滑り込み、操縦席に座った早苗は、操縦桿を握る。
 非想天則の目が光り輝き、そこに光の文字が浮かび上がった。
 CAST IN THE NAME OF GOD, YE NOT GUILTY.
 ――神の名においてこれを鋳造す。汝ら罪なし。
 それは、非想天則の起動完了を告げる神からの伝言。
 早苗は操縦桿を引き、高らかに叫んだ。
「非想天則、アクション!」

 振りかぶられた非想天則の右拳が、だいだらぼっちへと叩きつけられる。
 両腕を交差させてその拳を受け止めただいだらぼっちは、しかし衝撃で数歩後ろへとよろめいた。すかさず左拳を振るう非想天則。だが、だいだらぼっちは、今度は右腕一本でその拳を受け止めると、左腕の大剣を横薙ぎに振るった!
 甲高い金属音をたてて、非想天則の右腕に取り付けられた手甲がその剣を受け止める。そのままぎりぎりと睨み合う両者は、どちらからともなく互いを弾くように距離をとった。
「なんて恐ろしい……一刀両断にされるところでした」
 早苗はコクピットで額の汗を拭い、操縦桿を握り直す。
『早苗、のんびり構えてる暇はないよ! 早苗の力じゃ非想天則の活動は三分が限界だ!』
「わかっています、諏訪子様! ――くっ!」
 先に動いたのはだいだらぼっちだった。その巨体からは想像もつかない素早さで前に出ると、ふわりと大地から浮き上がり、大剣を容赦なく非想天則めがけて振り下ろす!
 咄嗟に両腕を上げて大剣をブロックした非想天則だったが、だいだらぼっちの全体重をこめたその一撃に、足元が大地にめり込み――そして、吹き飛ばされるようにその巨体は大地に倒れこんだ。
 人間の里から悲鳴があがる。倒れた非想天則にとどめを刺さんとばかりに、悠然とだいだらぼっちは大剣を提げて歩を進める。
『早苗! 早く立ち上がって!』
「わかっています諏訪子様! くっ、脚部動力系に異常発生……!」
 立ち上がろうとして膝をついた非想天則に、だいだらぼっちは無感情な蒼い瞳を向け、そして容赦なく大剣を振るう。早苗は敗北を覚悟し、ぐっと目を瞑った。
 だが――。
「ホアチャア!」
 鋭い掛け声とともに、二体の間に飛びこんだ小さな影が、大剣を弾いた。非想天則を狙って振り下ろされた大剣の軌道は逸れ、その左側の大地を穿つ。
「あ、貴方は……!?」
 突如空中から大剣目がけて正確無比な跳び蹴りを決め、その反動で高く舞いあがったその影は、そのまま非想天則の肩に降り立った。チャイナドレスと赤い髪を風になびかせ、非想天則の肩の上で太極拳の構えをするその影の名は――紅魔館の門番、紅美鈴!
「天知る地知る我知る子知る、私のこの手が虹色に燃える! 幻想郷を守れと轟き叫ぶ! この紅美鈴、助太刀いたします! トアァァァ!」
 非想天則の腕を駆け下り、そのままだいだらぼっちの大剣に飛び移った美鈴は、大剣の厚い刃の上を疾走し、その腕を駆け上がる。
「ホアチャア!」
 その跳び蹴りがだいだらぼっちの顎に炸裂し、巨体がよろめく。さらに美鈴は宙を蹴り、その胴体めがけて神速の掌底を放つ!
「華符『彩光蓮華掌』!」
 七色の光がだいだらぼっちの身体から炸裂し、だいだらぼっちは右の大剣を手放してよろめいた。だが、残ったもう片方、左の大剣を振りかぶり――、
 だが、その大剣はいつの間にか、真夏には有り得ぬ氷に覆われていた。
「あたいったら最強ね! あたいにかかればだいだらぼっちも氷漬けよ!」
 大剣の剣先に仁王立ちするのは、氷の妖精、チルノ!
「破ッ!」
 凍りついた大剣に、美鈴が渾身の跳び蹴りを放つ。大剣は脆くも砕け散り、氷の結晶と化して飛び散った。徒手空拳となっただいだらぼっちは、その蒼い瞳に怒りの炎を浮かべ、ずん、と足音を轟かせて非想天則に迫る!
 里の人々は、まだ膝をついたままの非想天則を、固唾を飲んで見守る。大剣を失ったとはいえ、だいだらぼっちはまだ健在だ。しかし非想天則は未だ立ち上がれない。美鈴とチルノの力を借りてなお、非想天則はこのままだいだらぼっちに蹂躙されてしまうのか――?
「皆! 非想天則に力をわけてくれ!」
 と、そこへ声を張り上げたのは、いつのまにか群衆に紛れ込んでいた洩矢諏訪子だった。
「非想天則は、里を守るために戦っているんだ! 皆の声援があれば、非想天則はきっとまた立ち上がれる! だいだらぼっちなんかに負けはしない! さあ!」
 その言葉に、人々は不安げに顔を見合わせる。
 ――その中で。
「がんばれ、ひそーてんそくー!」
 ひとりの子供が、そう声を張り上げた。それを合図にしたように、里の人々から次々と声援があがる。がんばれ、負けるな、立ち上がれ、非想天則! だいだらぼっちを打ち倒せ!
 人々の祈りの声は、コクピットの早苗の元にも、確かに届いていた。
『早苗、もう活動時間が限界だ!』
「いえ――この信仰の力があれば、まだ私たちは戦えます!」
 早苗は再び力強く操縦桿を握りしめる。その背後に、青い五芒星が浮かび上がった。
「ネイティブフェイス起動! エネルギー全開!」
 コクピットのインジケータに表示されたエネルギーゲージが、マックスまで伸びる。
 立ち上がった非想天則は、その両腕を天高く掲げた。
 ――そこに舞い降りてくるのは、一本の巨大なオンバシラ!

「必殺! メテオリックオンバシラァァァァァ!」

 大地を蹴った非想天則は、空中でそのオンバシラを掴み――そのまま、だいだらぼっちへ向けて振り下ろした!
 閃光。轟音。激しく舞いあがる土煙。――そして。
 吹き渡った風が、その煙を押し流したとき。
 そこには――オンバシラを構えて立った非想天則と、ゆっくりと大地へ崩れ落ちていくだいだらぼっちの姿があった。
 非想天則が、オンバシラを肩に担ぎ上げるようにして、だいだらぼっちに背を向ける。
 だいだらぼっちの巨体が大地に崩れ落ちた瞬間――その姿は、爆炎に掻き消された。

 戦いを見守っていた里の人々から、大歓声が弾けた。
 歓喜の声の中、非想天則はオンバシラを地面に突き立てると、ゆっくりと里に背を向けた。
 妖怪の山へ、非想天則は進んでいく。去って行くその背中に、子供たちが手を振る。

 かくして、幻想郷の平和は守られた!
 だが、これからも巨大妖怪の脅威が幻想郷に迫る限り、非想天則は戦い続けるだろう!
 ありがとう、非想天則!
 負けるな、非想天則!
 愛と勇気と、不滅の信仰の力で、何度でも立ち上がれ!




―20―

「……で、今のはいったい何だったんですか?」
 非想天則とだいだらぼっち――もといゴリアテ人形の死闘が決着し、人々が手を振って非想天則の勇姿を見送る中で、阿求さんが訝しげに蓮子を見上げて問うた。
「私たちなりの、異変解決ですわ」
 帽子の庇を持ち上げて、蓮子はにっと猫のような笑みを浮かべる。不思議そうな顔で首を捻った阿求さんに、私はその横でそっと肩を竦める。
 ――相棒はああ言うけれど、本当にこれが異変解決になったのだろうか?

「疲れましたああああ」
「やーやー早苗、おつかれー」
 場所を移して、妖怪の山麓、霧の湖のほとり。しぼんで畳まれた非想天則の横で、早苗さんが草むらに大の字になり、その横で諏訪子さんが笑っている。
「よう、こっちも片付いたぜ」
「……全く、なんで無関係の私まで駆り出されるんだか」
「なかなか面白い見世物でしたね」
 森の方から、そこに姿を現したのは、魔法使い組。魔理沙さん、パチュリーさん、そして蓮子が頼み込んで協力してもらった聖白蓮さんである。その奥から、元の普通の人形サイズに戻ったゴリアテ人形を抱えて、アリスさんが姿を現す。
「……これで、あの非想天則は譲ってもらえるのよね?」
 アリスさんの問いに、蓮子は「ええ、約束ですから」と笑って頷く。
「お嬢様、咲夜さん! 見てくださいましたか、私の勇姿!」
「美鈴にしてはちょっと役回りが恰好良すぎるね。配役ミスじゃないの?」
「幻想郷を守る前に、まず館の門をしっかり守ってもらえないかしら?」
「そ、そんなあー」
 湖の近くで観戦していたレミリア嬢と咲夜さんに、美鈴さんがほくほくした顔で話しかけ、返り討ちに遭ってがっくり肩を落としていた。そんな美鈴さんの肩を、チルノちゃんが「あんた、なかなかやるわね! あたいといい勝負だわ!」と愉しげに叩いていた。
 ――以上が、今回の茶番の主要キャストである。あとは裏方の河童たちの多大な協力があったことも、付記しておこう。
「いやあ皆さん、おかげさまで大成功ですわ! ご協力感謝いたします!」
 首謀者である我が相棒が、集まった面々にそう声をかける。
「本当にこんなんで成功なのか?」魔理沙さんが訝しげに眉を寄せる。
「まあ、間違いなく話題にはなったでしょうね」とパチュリーさん。
「そう、話題になることが重要なんですわ」蓮子は帽子の庇を持ち上げて、不敵に笑う。
「非想天則がだいだらぼっちを倒した――という噂が立つこと。それこそが、今回のこの見世物の目的なのですから。噂を打ち消すには、それを打ち消す噂を立てるにしくはなし」
「それはいいけれど、どうして私のゴリアテ人形がだいだらぼっち役なの?」
 ちょっと不満げなアリスさんに、「だってだいだらぼっちじゃん!」とチルノちゃんが声をあげる。アリスさんは意味がわからないという顔で首を傾げた。――結局、巨大妖怪の噂の大元が自分だということを、アリスさんは最後まで納得してくれないままである。
「何にしても、これでだいだらぼっちの脅威は幻想郷から去るはずですわ。たぶん」
「ホントかよ。まあ、面白かったけどな」呆れ気味の魔理沙さん。
「幻想郷のお役に立てましたなら何よりです」白蓮さんはにこやかに笑う。いい人である。
「早苗ちゃんは大丈夫?」
「ええ! 巨大ロボットを操縦する夢が叶いました!」
 起き上がって、早苗さんは目を輝かせる。「それは何より」と蓮子は笑い返した。

 ――そう、つまりこれが、我が相棒・宇佐見蓮子の為した《異変解決》である。
 目的はすなわち――だいだらぼっちの実体化を阻止するため、既にだいだらぼっちが倒されたという噂を流すためのパフォーマンス。
 アドバルーンに過ぎない非想天則に対し、両腕と足元、最低限の箇所のみに装甲を追加して重量感を付加。雰囲気作りということで河童が突貫工事で作った操縦席を胴体部に取り付け、そしてそこに乗りこんだ早苗さんが、その風を操る風祝の力で、実際の巨大ロボットのように非想天則を自在に操縦する。
 敵となるだいだらぼっちは、チルノちゃんの目撃証言に否定されないように、ゴリアテ人形である必要があった。ただ、百メートル近くる非想天則と、十メートルにも満たないゴリアテ人形ではサイズ差がありすぎてまともな勝負にならない。そこで、魔理沙さん、パチュリーさん、さらには白蓮さんにも協力を求め、アリスさん一人ではまかないきれないほどの巨大化のための魔力を確保。その結果、ゴリアテ人形は非想天則に見劣りしないサイズまで巨大化が実現した。
 アリスさんへの協力の報酬は、このショーの後の非想天則の譲渡。魔理沙さんは勝手に面白がり、パチュリーさんはアリスさんの人形巨大化魔法のデータと引き換えに協力をとりつけた。白蓮さんは目的が妖怪封じなので協力は望めないかと思ったが、幻想郷に対して悪意ある妖怪の実体化阻止である旨を伝えたところ、意外なほどあっさりと協力を得られた。
 だいだらぼっちの噂のそもそもの発端であるチルノちゃんは、話がややこしくならないように、だいだらぼっちを倒す非想天則側の協力者として計画に組み込むことにした。また、太歳星君がどうのと心配していた美鈴さんも、幻想郷の危機を守るというこの計画を伝えると、喜んで協力を申し出てくれた。
 だいだらぼっちの出現から非想天則の勝利に至るまでのシナリオは、諏訪子さんが考え、演出もまとめて担当した。出演者たちへの依頼と交渉を行ったのは、全て我が相棒である。とかくこういうことに関しては、相棒の口先の力は強い。聖輦船のときといい、大きなプロジェクトに様々な人を抱き込む能力に関しては、自称ネゴシエイターという我が相棒の肩書きの、自称の部分は取ってやってもいいかもしれない。
 そうして実現したのが、この茶番――もとい、非想天則とゴリアテ人形による巨大ロボットショーなのだった。




―21―

 ――というわけで、以下の会話は、今回の事件簿の解決編である。
 ドレミーさんの夢を見たあと、私と蓮子の間で交わされたものである。

「これまで集めた情報を総合すると――結論から言えば、美鈴さんの言っていたことが真実、というか今回の件の真相そのものだったのよ」
「美鈴さんの?」
「そう。幻想郷に迫る危機。非想天則とは別の、巨大な凶兆の影。夢の世界でドレミーさんが言っていたのは、まさにそのことだったんだわ」
「……もうちょっと解りやすく説明してくれない?」
 眉を寄せた私に、「仕方ないわねえ」と蓮子は座り直す。
「今回の出来事を、時系列に沿って整理するわよ。まず、発端は漫画担当の天狗と、メリーが見た夢だわ。つまり、知人の偽物が襲ってくる夢。天狗は、それを基にしてあの活劇漫画を描いた。それが、夢の世界にいる――ただし、ドレミーさんではない何者かの陰謀だったとすれば。その何者かの目的は、漫画を描いている天狗や、うちの事務所の事件簿を書いているメリーに、その夢のことを作品化してもらうことだった。さて、そうして出来上がった天狗の活劇漫画を読んだ結果、起きたことといえば?」
「……蓮子と美鈴さんが、同種の夢を見た?」
「正解。つまり、天狗やメリーの見た夢が私や美鈴さんに感染した。早苗ちゃんや洩矢様は見てないっていうから、あの漫画を読んだ者全員に夢が感染するわけではないとしても、一定の割合で、あの漫画を見た者に同種の夢の感染、つまり異床同夢現象が起こるとしたら。――もしあの漫画が、人間の里に流通して、広く読まれた場合、何が起きるかしら?」
「……漫画の読者の間で、『漫画を読むと変な夢を見る』という噂が発生する?」
「イグザクトリー」
 ああ、と私は蓮子が何を言わんとしているのかを理解する。
「私や天狗に例の夢を見せた何者かの目的は――その噂を発生させること」
「そう。知人の偽物が襲ってくる夢の噂。それの元になるのは、知人の偽物が襲ってくるという内容の漫画。さて、人間の里でそんな噂が広まり、漫画が広く読まれることで、さらに夢の感染が進むとしたら、何が起こると思う?」
「……噂が――つまり、夢が実体化する」
「そう。つまり、夢の出来事に過ぎなかったはずの、知人の偽物に襲われるという事件が本当に起こる。知人に化けて人間を襲う妖怪が実体化する。そんなことになったら――」
「里じゅうが疑心暗鬼に満ちて……大変なことになるわね」
 目の前にいる友人や家族が、妖怪の化けた偽物で、襲ってくるかもしれない。
 そんな噂が里を支配したら、人々は信じるべき拠り所を失い、恐怖で暴走しかねない。
「じゃあ、ドレミーさんが言っていた――『私たちが幻想郷の危機を救った』っていうのは」
「まさに、そのことよ。私たちや早苗ちゃんたちが、射命丸さんに手厳しい評価を伝えたことで、射命丸さんはあの漫画を、人里に流通させることを諦めた」
 そして天狗の活劇漫画は、ひっそりと紅魔館の大図書館に収められることになった。それを読んだ美鈴さんは、夢の中で知人の偽物や大ナマズと死闘を繰り広げたという……。
「……ちょっと待って蓮子。もし、美鈴さんの正体が、蓮子が前に推理した通りなら――」
「そうね。計画の失敗を悟った黒幕は、狙いを美鈴さんに絞ったのかもしれないわね。美鈴さんが夢の中で倒されていたら……再び幻想郷の危機になっていたのかも」
 これに関しては、別の事件簿を参照されたい。
「さて、とにかくそうして、天狗の活劇漫画の流通は阻止され、異床同夢現象の黒幕の計画は頓挫したと思われた。だけど――別の角度から、今度はまた別の噂が立ち現れた」
「……だいだらぼっち、ね」
「そう。巨大な影を追って、魔法の森でゴリアテ人形を見たチルノちゃんの話から発生した、巨大妖怪だいだらぼっちの噂。ドレミーさんが私たちに与えた警告は、そのことに違いないわ。異床同夢現象の黒幕の目的は、噂の蔓延による実体化だと考えられるから」
「それは解るけど。でも、知人の偽物が襲ってくるっていう噂と、だいだらぼっちの噂じゃ、性質が違いすぎない?」
 私が首を捻ると、相棒は「そう、そこよ」と指を立てる。
「そこで、美鈴さんの夢に気になる点があるのよ。つまり――その夢に、大ナマズが出てきたということ。その大ナマズは太歳星君の影を名乗り、蓄えた力で幻想郷を崩壊させる大地震を起こすのだと言ったっていう話。――ねえ、この夢が今回の黒幕の見せたものなら、それまでの知人の偽物の襲撃から、この大ナマズの出現は方向性が全然違うでしょう」
「……確かに、なんで唐突に大ナマズなのかわからないわね」
「でも、これがあらかじめ、黒幕が仕組んでいた筋書きだったとしたら?」
 蓮子の言葉に、私はきょとんと目をしばたたかせる。蓮子は指を一本立てて言った。
「ねえメリー、例の夢を見たあと、メリーはどうしたか覚えてる?」
「……命蓮寺で、夢見のよくなるチラシをもらったわ」
「そう。で、私が夢の中で早苗ちゃんの偽物にそれを投げつけたら、毘沙門天が実体化して偽物を追い払ってくれたわ。――つまり、夢見のよくなるお守りの類いで、知人の偽物の夢からは、私みたいな一般人でも身を守ることができる。知人の偽物の夢の噂が広まったら、どこかが必ず夢見対策を打ち出すでしょう。命蓮寺でも博麗神社でも守矢神社でも。そうして、人々が夢の中で知人の偽物を恐れなくなると――」
「……夢に、大ナマズが現れる」
「そういう計画だったんじゃないかと思うのよ。つまり、知人の偽物の夢は単なる前振り。それが防がれると、夢には真の脅威として大ナマズが現れる。……大ナマズといえば、思い出すのは去年の地震騒動よね。あの騒動で、何が起きたか、メリーも覚えてるでしょ?」
「天子さんが埋め込んだ要石で、大ナマズが封じられた……のよね」
「そう。そして、異床同夢現象の黒幕が、夢の感染による噂の蔓延、それによる妖怪の実体化を目的としていたなら――今回のだいだらぼっちの噂にも、繋がるのよ。漫画による夢の感染を諦めた黒幕が、だいだらぼっちの具現化に計画を切り替えた理由が、噂の中にあった」
 ああ、と私は頷いた。
 子供たちから聞いただいだらぼっちの噂の中に――確かに、こんなものがあった。

 ――その巨大さゆえに歩くだけで地震が起こる。
 ――地震を起こす大ナマズの化身である。

「ということは、今回の異床同夢現象とだいだらぼっちの噂の黒幕は――」
 私の言葉に、蓮子は重々しく頷いた。
「そう。去年の地震騒動で封印された大ナマズが、夢の世界から復活を目論んだのよ!」
 言葉にしてみると、ひどく荒唐無稽な真相である。まあ、我が相棒の推理はいつだって誇大妄想、真実かどうかもわからない幻想の妄想だと言えば、その通りだけども。
「そして、だからこそドレミーさんは、この件の解決を霊夢ちゃんではなく、私たちに依頼したんだわ。――なぜなら、霊夢ちゃんは異変が起きてから解決する存在だから」
「だけど、今回の黒幕が大ナマズで、目的がその復活なら――」
「異変は、幻想郷が壊滅しかねない大地震として起こる。だからドレミーさんは、霊夢さんに任せると被害が大きすぎると言ったんだわ」
 頷いて、蓮子は立ち上がる。
「さあメリー、納得したなら、動くわよ! ――私たちが、幻想郷を救うのよ!」

 高らかにそう宣言した結果が、あの巨大ロボットアクションショーである。
 はたしてこれが、本当に《異変解決》になったのだろうか?
 ――私には、なんとも判断のしようがなかった。

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この小説へのコメント

  1. お疲れ様です!腹筋崩壊しかけた位面白かったです!
    (読破中の個人的内心状況)・・・・どこからツッコミいれればいいんだ?ロボット対決?ネタのカオス?蓮子の誇大妄想?っていうかツッコミいれたら負けか?面白いからいい!けど、違和感仕事してえええええええ!(;´-`)

  2. 大ナマズの復活…確かに荒唐無稽ですね。突飛な発想は流石蓮子です。
    いきなり非想天則VSゴリアテ人形は楽しませてもらいました。MMDで見たいくらいです(笑)。

  3. ゴットフィンガーかな?w
    とても面白かったです!まだ続きあるのかな?エピローグ 次回共に楽しみにしてます。

  4. めーりんカワイソス(´・ω・`)
    そして冒頭の部分で間違えたかと思って二度見したわw相変わらず蓮子さんの誇大妄想は面白いですね。来週も楽しみに待ってます

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