東方二次小説

こちら秘封探偵事務所第10章 非想天則編   非想天則編 4話

所属カテゴリー: こちら秘封探偵事務所第10章 非想天則編

公開日:2018年07月21日 / 最終更新日:2018年07月21日

―10―

 幻想郷に異変の数あれど、少なくとも誰かがこれは異変に違いないと確信して解決に動き出したものでは、おそらくこれが最短解決記録ではなかろうか。
「早苗ちゃん……それは、洩矢様の作ったアドバルーンだわ」
「はい?」
 かくして異変は解決である。秒殺もいいところだ。
 いみじくも中禅寺秋彦が「謎とは知らないこと。不思議とは誤った認識」と喝破したごとく、謎というものは情報の欠落から生じるわけで、どんな難事件も欠落した情報を所持する人間が、必要な欠落分を埋めれば解決する。欠落を情報に頼らず論理で埋めるのが本格ミステリの名探偵で、欠落した情報を集めて埋めるのが警察やハードボイルド系私立探偵の捜査なのだ。
 今回の場合、早苗さんの認識上において欠落した情報を私たちが持っていて、かつこれ以上隠しておく理由も特になかったわけで、早苗さんが私たちのところに来た時点で異変は解決したわけである。めでたしめでたし。
「どういうことですか、所長!」
 とはいうものの、本人が納得しなければ解決とは言えない、という見解にも一理ある。
「現物を見せた方が早いわねえ。早苗ちゃん、ちょっと間欠泉地下センターまで行きましょ」
 ――というわけで、私たちは早苗さんとともに再び間欠泉地下センターの近くに来ていた。硫黄の匂いが立ち籠める中、諏訪子さんの姿を認めて、私たちは地面に降り立った。
「諏訪子様!」
「おん? なんだ、早苗じゃん。って、蓮子とメリーも一緒?」
「どうも、洩矢様。申し訳ありませんが、バレちゃいましたわ」
「ありゃ。あー、さっきの起動試験を見られちゃったか」
 頭を掻く蓮子に、諏訪子さんが苦笑する。
「いったいどういうことですか、諏訪子様。霧の中に巨大ロボットの影が見えたので、私てっきり人型二足歩行巨大ロボットが幻想入りしたのかと……」
「そいつは非想天則だよ。蓮子から聞いてないの?」
「アドバルーンだって聞きましたけど」
「現物を見せた方が早いと思いまして」
 蓮子が言い添えると、諏訪子さんは「それもそうかあ」と腕を組み、河童たちに呼びかけた。
「おーい、すまんけどもう一回非想天則を起動させておくれよ」
 ええー、と撤収作業中だったらしい河童から不満の声。
「洩矢様ぁ、霧も出てないですから今起動したら人間の里から見えちゃいますぜ」
 聞き覚えのある声だと思ったら、にとりさんだ。諏訪子さんは「そうだねえ」と首を捻る。
「動かさなくていいよ。膨らませて起動するだけ。里で、たまたまこっちの方角を見てた人間が異物に気付く、ぐらいがいいな。明日の天狗の新聞でばーんと告知を打つわけだから、今日の段階で軽く噂になり始める方がいいっしょ」
「むむ、確かに。じゃあ、しゃーない、もう一回起動だあー!」
 にとりさんが河童たちに声をかけ、わらわらと河童たちが起動準備にかかる。その起動シークエンスを事細かに描写しても仕方ないので、ぱっぱと飛ばして――。
 十数分後、非想天則は大地に立っていた。
「これが、さっきの巨大ロボットの影の正体……!」
 目を輝かせて非想天則を見上げる早苗さん。やっぱり巨大ロボとか好きなんだなあ、と私はしみじみその横顔を見つめる。あのサブカル趣味ならばさもありなん。
「そ、非想天則。明日から始まる河童のバザーを宣伝するアドバルーンだから、中身は空っぽだけどね」
「え、ロボットじゃないんですか?」
「ただの気球みたいなもんだよ」
「ええー。っていうか諏訪子様、なんでデザインがマジンガーZなんですか。もうちょっとこう、イングラムとかアーバレストとか士魂号みたいな格好いいデザインにしましょうよ!」
「マジンガーZを馬鹿にするんじゃないよ! かっこいいだろ!」
「じゃあアクエリオンとかニルヴァーシュとかラーゼフォンとか……」
「ああいう最近のロボットのデザインはややこしいんだよ。巨大ロボットはもっと無骨なデザインでいいの! シンプルイズベスト!」
「諏訪子様、老害っぽいですよぉ、その発言」
「うるさいなあ。だいたい河童にそんなスタイリッシュなデザインが再現できるならさせてるっての。ただのアドバルーンなんだからこれが限界なの」
「はあ。でもマジンガーZにしては大きくないです? 百メートルぐらいありますよねこれ」
「河童が調子に乗ってやたらデカくしたからねえ。私ゃせいぜいビッグオーぐらいのサイズのつもりだったのに、イデオンみたいな大きさになっちゃったよ。こんなデカくなるならゴジラの形にしても良かったかなあ。核の力で動かすんだし」
「あー、頭の形だけマジンガーZじゃないと思ったら、やっぱりビッグオーでしたか。諏訪子様ほんと好きですねビッグオー」
「そりゃあれよ、CAST IN THE NAME OF GODてなわけよ。ほんとはもっとビッグオーっぽくしたかったんだけど、あの腕の形だとうまく動かなくてさ」
「ミシャグジ神の名においてこれを鋳造す、汝ら罪なし、ですね。あ、そういえば蓮子さんは自称幻想郷のネゴシエイターですね! 黒さが足りませんけど」
「自称は余計よ早苗ちゃん」
「あれ、でもそれだとメリーさんが体重一三〇キロのアンドロイドに……」
 いったい何の話だ。こっちに解る言葉で喋ってほしい。
「っと、もう撤収していいよー」
 諏訪子さんが呼びかけ、しゅるしゅると非想天則はしぼんでいく。
「ああ、ほんとに中は空っぽなんですね……」
 早苗さんが肩を落とした。そんなに巨大ロボットがいて欲しかったのか。
「ねえ蓮子、早苗さんにアリスさんのアレ、教えてあげる?」
「うーん、それはそれでまた何か話がややこしくなりそうねえ」
 私たちは小声でそう囁きあった。アリスさんの人形巨大化魔法を見たら、早苗さんはいったいどんな反応をするのやら。
「早苗ちゃん、納得してもらえたかしら?」
「え? ああ、はい、納得しました」
 蓮子が声をかけると、早苗さんは一度きょとんとした顔をして、それから頷いた。どうやらそもそも自分が異変だと騒いだこと自体すっかり忘れていたようである。
「異変じゃなくて良かったわね」
「えー、異変の方が良かったですよ。外の世界じゃ人型二足歩行巨大ロボットなんて実用性の観点から実現しそうにないですから、幻想郷で実現してほしかったです」
「私たちがいた二〇八〇年代にも巨大ロボットものは伝統文化として存在してたから、幻想入りは遠そうねえ」
「そんなあ。幻想郷で巨大ロボ対だいだらぼっちの異種格闘技戦とか見たくありません?」
「幻想郷にだいだらぼっちっているのかしら?」
「妖怪の山にたたら場を作って自然を破壊すれば、きっとシシ神様が!」
 そんな、前世紀の名作アニメ映画じゃあるまいし。
「あ、だいだらぼっちで思い出しましたけど、そういえば事務所に行く前に、妖精の子が『だいだらぼっちだ!』って騒いでました」
「妖精? どんな?」
「霧の湖の近くで見かけたんですけど。氷を使う……」
 チルノちゃんだ。確かに霧の湖からなら、霧に隠れた非想天則の影は見えただろう。そういえば昨日は美鈴さんも何やら警戒していたっけ。まあ、それらの誤解も、明日非想天則が正式に公開されれば解けるだろう。
 ――そのとき、私は呑気にそう考えていた。




―11―

 翌朝。我が家の玄関には、《文々。新聞》の最新号が投げ込まれていた。
「蓮子、新聞来てるわよ」
「あら、ありがと」
 私から新聞を受け取って広げた蓮子は、「メリー」と声をあげて手招きした。
「河童のバザーと非想天則の件が記事になってるわよ。今日から開催って」
「あら、ほんと。『未来水妖バザー、河童による発明品から尻子玉まで、秘蔵品を安価で大放出』……って尻子玉?」
 それは売り物になるのか。というか怖いからやめてほしい。
「メリー、それより非想天則の記事よ。『ついに巨大妖怪型自動操作人形 非想天則、見参』だって。人型ロボットが幻想郷では『妖怪型』って呼び方になるのねえ」
「『非想天則は遠くから見えるので、それを目指して来場すると良いだろう』ね」
 起動試験のときのものなのだろう、でかでかと写真入りで非想天則が紹介されている。確かにあの大きさなら、アドバルーンとしての視認性は最高だろう。
 さて、今日は寺子屋はお休みである。ということは――。
「バザーって何時から?」
「十一時からみたいね。ゆっくり支度して、開始に合わせて行くとしますか」
「……徒歩で行くの?」
「せっかくだから、非想天則を目印に歩きましょ。早苗ちゃんに運ばせてばっかりじゃ、運動不足になって太るわよ、メリー」
「蓮子に振り回されてたら、寿命が縮んで太るどころじゃないわよ」
 口を尖らせて言い返した私に、蓮子はからからと笑った。

 自宅を出て里の通りを歩いていると、さっそく非想天則が話題になっていた。人々が足を止めて妖怪の山の方角を見上げ、指をさして口々に何か言い合っている。
「ありゃなんだ」「なんか動いてるぞ」「妖怪か?」「だいだらぼっちだ」「いや大入道だ」エトセトラ。不安と好奇心とが入り交じった空気の中を歩いていると、人波の中に見知った顔を見かけた。自警団の腕章を巻いた慧音さんだ。すわ里の危機かと出動したきたのかと思いきや、手には新聞を持っている。どうやらいち早く《文々。新聞》最新号を入手したらしい。
「皆さん、落ち着いてください。あれはどうやら危険なものではないようです」
 ぱんぱんと手を叩き、慧音さんはそう声を張り上げる。里の人々の注目がそちらに集まった。
「今朝配られた天狗の新聞によると、あれは河童の開くバザーの目印だそうです。単なる飾りのようなので、心配はいりません。もし何かあれば我々自警団や博麗の巫女が対処します」
 慧音さんのその言葉に、里の人々の間には安堵の空気が流れ始めた。不安が消えたためか、今度は純粋な好奇心で、皆が非想天則の方へ視線を向ける。
「おお、また動いたぞ」「あれどんだけ大きいんだ」「かっくいー!」「河童のバザーってなんだ?」「天狗の新聞なら茶屋にあるはずだぞ」――この調子なら、昼過ぎには河童のバザーは里中で噂になっているだろう。
 私たちはその人混みにまぎれ、慧音さんに見つからないように北を目指す。――が。
「おはよう。ふたりともこそこそと何処へ行くんだ?」
 案の定、背後から聞き慣れた声。ぎくりと足を止め振り返ると、慧音さんがにこやかな、けれど目は笑っていない笑顔でこちらを見つめている。
「あはは……おはようございます慧音さん。今日もよいお日柄で欣快至極」
「お日柄はどうでもいい。何処へ行くのかと聞いているんだが?」
 こういうとき、下手に誤魔化すとかえって藪蛇であることは身に染みている。
「いや、実はですね、今妖怪の山の方に見えてるアレに、私たちもちょっと協力してまして、それで河童のバザーにも招待されている身ですの」
「ほう?」
「ですから決してやましい行為に及ぼうとしていたわけではなく、ただ慧音さんに余計な心配をかけまいとしただけでありまして」
「つまり、バザーの開催される玄武の沢までこれから行こうというわけだな?」
「有り体に申し上げますれば」
 蓮子の答えに、慧音さんは腰に手を当ててため息をつく。
「よろしい。だが、心配をかけたくないというなら事前に一言伝えておいてくれ」
「あら? いいんですか、行っても」
「どうせ守矢神社か命蓮寺の関係だろう? 君たちがこの幻想郷で作った交友関係による外出に、いちいち目くじらを立てていたらキリがないことはもうわかってる」
「だったら命蓮寺のときあんなに怒らなくても……」
「安全が確認されてない魔界のような場所にまで、ほいほい出かけていくんじゃない」
 ごもっとも。返す言葉がないとはこのことである。
「とにかく、今回の河童のバザーとやらは、これだけ目立つ宣伝を打っているんだ、私ら自警団が止めても、君たちの他にも見物に行く者は出るだろう。それに、山の妖怪に里の人間を害する気があれば、こんな派手なことはするまいさ。ただ――」
「ただ?」
「そうは言っても、里の外のことだ、一応の警戒は必要だ。そこで、だ。私も同行する」
「……はい?」
「君らに同行して、私も河童のバザーとやらに行くと言っているんだ。そうすれば里の目も行き届いて、安全なイベントになるだろう。河童の側にしてみても、人間に対してイベントの安全性を訴える上で、私たち自警団の協力は必要だと思うが?」
 反論の余地は見当たらなかった。私と蓮子は顔を見合わせ、やれやれと肩を竦めた。

 そんなわけで、小兎姫さんまでくっついてきて、四人で玄武の沢へ向かうことになった。
「バザー楽しみですね〜。どんなものが売ってるんでしょうか〜」
「こら小兎姫、遊びに行くわけじゃないんだぞ」
「ええ〜、いいじゃないですか、少しぐらい。それに、あの巨大人形ももっと近くで見たいですし〜。あれ、どうやって動かしてるんでしょうね〜」
「里で大道芸をしている人形遣いみたいに、糸で操ってるんじゃないのか?」
「あんな大きいのを動かすには、すごい太いロープとか必要だと思いますけど〜」
 動力源が蒸気だということは秘密にしておこう。
 ともかく、里からのんびり北に歩くことしばらく。山から流れている川を遡り、霧の湖を通り過ぎてさらに奥に進むと、『未来水妖バザー この先まっすぐ』の看板が目に着いた。看板に従い、非想天則を目印に、さらに進むと――。
「おおー、壮観」
 川の支流沿いに、河童が茣蓙を敷いて、その上に雑多な品物をごちゃごちゃと並べた市が広がっていた。滝のある崖には急造の展望台がしつらえられ、『非想天則の見物はこちら』という看板が立っている。どうやって上るのかと思ったら、近くに簡単な構造の水力エレベーターまで作られていた。河童の技術力なのか、神奈子さんあたりの入れ知恵なのか。
「賑やかですね〜」
「思ったより開放的だな。蓮子、責任者は誰だか知っているか?」
「守矢神社の神様か、河童の河城にとりちゃんだと思いますけど……」
「おっ、蓮子にメリーじゃん。来てくれてあんがと」
 噂をすれば、諏訪子さんが舞い降りてきた。「お?」と諏訪子さんは慧音さんと小兎姫さんを見上げ、「ああ、蓮子たちの保護者の、里の先生だっけ?」と首を傾げた。そういえば、慧音さんと諏訪子さんに面識はなかったような気がする。
「人間の里自警団の上白沢慧音です」
「自警団? ああ、ひょっとして妖怪の罠かなんか警戒して来たの? 大丈夫、これは純粋な商売だから、里の人間を取って食ったりしないよ。私は守矢神社の洩矢諏訪子。このバザーの企画兼広報アドバイザーみたいなもんだよ。よろしく」
「ああ、貴方が守矢神社の。蓮子とメリーがいつもお世話になっているようで」
「こっちこそ、うちの早苗がいつも蓮子とメリーのお世話になってるよ」
 慧音さんと諏訪子さんが握手を交わす。そのまま二人は責任者同士の話し合いに入ったようだったので、私たちは小兎姫さんとともにそっとその場を離れ、バザーの出店を見て回ることにした。
 非想天則の宣伝効果は抜群だったようで、私たちの他にも人間や妖怪、妖精の姿がすでにたくさん見えている。その中に、小兎姫さんは顔見知りを見かけたようで、手を振って駆け寄っていった。
「あら〜、理香子ちゃ〜ん」
「ん? げっ、小兎姫!? なんであんたがここにいるのよ!」
「自警団として様子を見に来たんですよ〜。理香子ちゃんは買い物ですか〜?」
「偵察よ、偵察! なんで私が河童の道具なんか……」
 白衣に眼鏡をかけた長い髪の少女に、小兎姫さんは親しげに話しかける。何やら楽しげなので、そっとしておく方がいいだろう。私と蓮子はその場を離れ、見知った顔を探しつつ、バザーの品物を眺めて回った。




―12―

 ――さて。結果として、未来水妖バザーは大盛況だった。非想天則は多大な注目を集め、河童の珍妙な発明品は飛ぶように売れた。ここでバザーの模様を詳述してもいいのだが、それはこの記録の趣旨からは外れるし、全部書いていたら長くなってしまう。
 私たちの顔なじみも大勢遊びに来ていた。魔理沙さんや霖之助さんは山ほどガラクタを買い込み、霊夢さんはそれを呆れ気味に見ていた。途中で私たちに合流した早苗さんは様々な河童の発明品に目を輝かせ……やはり、書いていたらキリがない。
 なので、ここではひとつだけ、今回の記録において重要なものを記述する。バザーが本格的に始まった頃合い、人妖混みの中を、日傘を差して歩いてくる影が三つ。
「あら、お嬢様方もいらしてたのですか」
 行き会ったのは、紅魔館の面々だった。レミリア嬢と咲夜さん、パチュリーさんの三人である。美鈴さんとフランドール嬢、小悪魔さんはお留守番らしい。
「あのデカブツが紅魔館からもよく見えたもの。気になるじゃない」
「私は、貴重なものが人手に渡る前にね」
 レミリア嬢が非想天則を見上げて言い、パチュリーさんはそっちには興味なさそうに売り物を眺めている。お嬢様に日傘を差し掛ける咲夜さんは、いつも通り静かにすまし顔。
「この私に断りもなく、紅魔館の近くであんなデカブツを作るなんて、いい度胸した奴もいるかと思ったのに、よく見たらただのハリボテだったから拍子抜けというものだわ」
 腰に手を当て、ふん、とレミリア嬢は鼻を鳴らす。横でパチュリーさんが肩を竦めた。
「レミィったら、あれは紅魔館を侵略しに来た悪の妖怪の化身だって、まるで門番みたいなこと言うんだから」
「美鈴さんがどうしたんです?」
「例の漫画よ。レミィが門番に貸したみたいで、おかげで門番まであの漫画にかぶれて変なこと言い出してね。太歳星君がどうのこうの」
「太歳星君って、中国の祟り神ですよね。あんまりよく知りませんが」
「まあ、漫画にかぶれるだけならいいけど、仕事中に居眠りして漫画の夢を見てるような門番が、いったいの何の役に立つんだか」
 相変わらず美鈴さんに手厳しいパチュリーさんである。
「漫画の夢、ですか」
「寝言で何か戦ってるようなこと言ってたからね。どうせあの漫画みたいな安っぽい夢でも見ていたんでしょ。……これいくら?」
 話を打ち切って買い物に意識を向けるパチュリーさん。首を傾げる私の横で、蓮子は何か気になることでもあるのか、軽く帽子の庇を弄っていた。

 バザーを楽しみ、帰り道に命蓮寺に立ち寄って、蓮子は例のチラシをもう一枚手に入れた。まだ例の夢が気になるらしく、自分でも枕の下に敷いておくのだという。
 で、その翌日。バザーはまだ続いていたが、私たちは寺子屋の授業がある。その授業を終えたあと、蓮子は唐突に言いだした。
「メリー、ちょっと紅魔館行くわよ」
「え? この前行ったばっかりじゃない。レミリア嬢や咲夜さんには昨日会ったし……」
「用件は、昨日会えなかったひとの方にあるのよ」
 私の返事も聞かず、相棒はすたすたと歩き出してしまう。こうなると、私はため息をついて追いかけるしかない。
 そんなわけで、里を出て私たちは霧の湖へやって来た。相変わらず玄武の沢に鎮座坐している非想天則は、妖怪の山に濃い影を落としてしている。バザーは今日も盛況だといいが。
 ともかく、私たちは紅魔館の門前に足を向ける。今日はちゃんと起きていた美鈴さんが、私たちに気付いて一瞬身構え、すぐに構えを解いた。
「あら、貴方たちですか。今日は何の御用で?」
「いやあ、今日は美鈴さんに、ちょっと伺いたいことがあって参りましたの」
「私に、ですか?」
 蓮子の言葉に、美鈴さんはきょとんと目をしばたたかせる。
「ええ。昨日、河童のバザーでお嬢様方にお会いしまして、パチュリーさんからちょっとばかり面白い話を伺ったもので」
「はあ。なんでしょう?」
「天狗の活劇漫画なんですが」
 蓮子がそう言うと、美鈴さんの顔がにわかに引き攣った。
「あ、いや、あれはですね――いやその、パチュリー様は何と……?」
「それはまあ、内緒にしておきますが。――昨日、美鈴さんが見ていたという夢について、少々伺いたいんです」
「え、夢ですか? どうしてまた、そんなことを――」
「まあ、ちょっとばかり気になることがありまして。パチュリーさんによると、寝言からして例の天狗の漫画にかぶれた夢でも見ていたんだろうとのことでしたが」
「あ、あはは……。いやあ、はい、パチュリー様の仰る通りで……」
 美鈴さんは引き攣った笑みのまま頭を掻く。
 その返事に、蓮子は帽子の庇をつまんで、「それはつまり――」と眉を寄せた。
「美鈴さんの知り合いの偽物が襲ってくる――という夢だったのですか?」
「え? ああ、はい、そういう夢でした。漫画の通り……博麗の巫女とか、白黒の魔法使いとか、森の人形遣いの偽物が次々と紅魔館に攻めてきて」
「それで?」
「え、ええと……私がそれを一人で撃退していくと、ついに太歳星君の影を名乗る大ナマズが現れまして。蓄えた力で幻想郷を崩壊させる大地震を起こすと」
 ――なんだか、急に懐かしい話になった。去年の夏の地震騒動を思い出さざるを得ないが、それだけにいささか時季外れというか時代遅れな感もないでもない。
「私はその大ナマズと死闘を繰り広げ、ついに大ナマズを撃退したのですが、そこへ真の太歳星君が現れ、その強さに追いつめられつつも渾身の反撃を放――とうとしたところで、叩き起こされまして……いやはや、お恥ずかしい限りです、はい……」
 ごほん、とひとつ咳払いして、「しかし」と美鈴さんは顔を引き締める。
「私が、太歳星君らしき影を見たのは、夢ではありません。妖怪の山に霧とともに消えていった、禍々しい巨大な影……あれは確かに凶兆でした。あのハリボテとはまるで違います」
 山の方に屹立する非想天則を見上げ、美鈴さんはそう真剣な口調で言う。――それは非想天則の影だったのでは? という私のツッコミは言う前に封殺されてしまった。
「一朝一夕にどうこう、ということではないかもしれません。しかし、幻想郷に危機が迫っていることは確かであると、私は思います。そのときはこの紅美鈴、紅魔館のため、幻想郷のため、皆の先頭に立って戦う所存です! ホアチャア!」
 太極拳らしき構えをとる美鈴さんに、意気込みは立派だけど――と思いながら私は相棒を見やる。だがそんな私の反応とは裏腹に、相棒は何やら真剣な顔で聞き入っていた。
「……美鈴さん。例の活劇漫画を読む前に、そんな夢を見た記憶はありますか?」
「え? いえ……そんな記憶は特には」
「そうですか。……本当に幻想郷の危機だったら大変ですね。私も、知り合いの偽物には気を付けることにしますわ」
 にっと猫のように笑って言った蓮子に、美鈴さんは「はあ」と不思議そうに首を捻った。

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この小説へのコメント

  1. 美鈴の夢は将来の異変に備えてドレミーさんが見せた物だった…とかですかね?
    まだモヤモヤしててよくわからないですね。

  2. 理香子さんキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
    ちょくちょく旧作成分入れてくるの好きだわ

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