東方二次小説

こちら秘封探偵事務所第2章 妖々夢編   妖々夢編プロローグ

所属カテゴリー: こちら秘封探偵事務所第2章 妖々夢編

公開日:2015年10月17日 / 最終更新日:2015年10月17日

 春雪異変について語ろうとすると、いったいどこから語り始めればいいだろうか。
 二度目とはいえ、こうして現実にあったことを小説に仕立てようとすると、改めて現実を物語として区切る難しさというものを感じざるを得ない。物語には始まりがあり、終わりがある。だが現実には、ひとつの出来事について発端を遡ろうと思えばどこまででも遡れるし、どこで事態に完全に区切りがついたかは、長い時間を経たねば判定できない。
 それでも何とか、私はあの異変について書き起こしておかねばならない。
 あの異変は、この探偵事務所を開いて初めて、相棒が真に求めた事件だったのだから。
 咲き乱れる妖しき桜。寂寞とした冥界の光景。脳天気なお姫様と苦労性の従者。騒霊楽団の奏でる鎮魂曲。そして、再び繰り広げられた美しき弾幕勝負と――私によく似た姿をした、彼女との出会いについて。

 上白沢慧音氏の寺子屋、その離れに私――マエリベリー・ハーンと、相棒――宇佐見蓮子が探偵事務所を開いたのは昨年の夏のことだ。未来からの外来人である私たちが幻想郷に迷い込み、昨年の紅霧異変に関わった経緯については、別の機会に既に語った通りである。
 あれから半年ばかり、はじめは閑古鳥が鳴いていた事務所に、ぽつぽつと相談事が舞い込むようになった。持ち込まれる謎が、相棒の好奇心を必ずしも満足させるものとは限らないのだけれど。そこに至るまでの経緯は、この際脇に置こう。慧音さんの寺子屋で、私が読み書き、相棒が算術の授業を請け負うようになった、その経緯もやはり、春雪異変には直接関係ないので概略のみに留める。ただ、全く無関係でもないのだが。
 そうして枝葉末節を省いていくと――やはり、始まりはあの尻尾だった。
 きつね色の九尾。いつまでも埋もれていたくなるような、あのモフモフ、ふかふかの暖かな尻尾。抱きしめているだけで心安らぎ、世界が平和になる、人間を堕落させるあの――。
 いや、失礼。ここは九尾の妖狐の尻尾の素晴らしさを語る場ではない。
 ただ、その尻尾との出会いこそが、私たちが春雪異変に首を突っ込むことになったきっかけだったのである以上、やはりまずは、あの尻尾について語らねばなるまい。

 もちろん、これはモフモフの狐の尻尾についての話ではない。
 名探偵、宇佐見蓮子が解き明かした、春雪異変の真実についての物語だ。

 西行寺幽々子は、なぜ春を集め、西行妖を咲かせようとしたのか。
 魂魄妖夢の祖父、魂魄妖忌はなぜ、全てを知りながら姿を消したのか。
 あの春雪異変を、なぜ妖怪の賢者は起こるがままにしていたのか。
 そして、私があの場所で出会った、あの――。

 もちろんこれは、幻想となった与太話のひとつに過ぎない。
 稗田阿求が記録し、上白沢慧音が編纂するものが幻想郷の正史である以上、私たちの探り出した真実は、その狭間に埋もれた真偽も定かで無い逸史でしかない。
 信じるか否かは、全て貴方次第である。

 それでも良ければ、始めよう。
 春の訪れない幻想郷と、桜舞う冥界で繰り広げられた、博麗霊夢、霧雨魔理沙、十六夜咲夜の華麗なる戦い。その裏側にあった、もうひとつの物語を――。

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この小説へのコメント

  1. 仕事であまり余裕のない時期が続き、妖々夢編の開始を知りつつ読めずにいましたが、いよいよ今日から読み始めます。
    個人的には、縁とメリーの関係にどんな解釈を示されるのかに注目しています。

  2. 放っておいたのは幻想郷が壊れるようなヤバイ異変ではなかったからでしょう。霊夢とかに任せておけばいい。

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