東方二次小説

聖白蓮さん、あなたに仏のお恵みを白蓮さん 後編   白蓮さん後編 第5話

所属カテゴリー: 聖白蓮さん、あなたに仏のお恵みを白蓮さん 後編

公開日:2016年01月22日 / 最終更新日:2016年01月22日

 数日後の夜遅く、妖怪たちが集い始める間隙を狙い、わたしは聖の下を訪れた。何とか聖を支えよう、信じようと思い続けていたけれど、村紗や一輪、ナズーリンの話から具体的な危惧を聞き取ったからには、聖を訪れずにはいられなかったのだ。
 もしかしたら忙しさを理由に断られると思ったのだが、聖はわたしを快く招き入れてくれた。
「そう言えばこうして二人だけで話すのも随分と久しぶりですね」
「お互いに忙しい身でしたから。でもたまにはこういう時間も欲しくなります」わたしは白々しくそう言ってから、聖の身辺に探りの手を入れた。「最近、お体の加減はどうですか?」
「わたしは至って健康です」聖は活力に溢れた笑みを浮かべてみせた。疲れを取る魔法を使っているためか、聖は不自然なほどに元気だった。少なくとも休みなく働いているものの顔ではなかった。「星こそ何だか疲れた様子ですね。少しくらい休んでも良いのに」
「聖が頑張っているのに、わたしだけが休むわけにはいきません。少しくらいは無理しますよ」
「駄目ですよ」わたしの発言を、聖は優しく口元を尖らせ、諫めてきた。「星は頑張り屋だけど、本当に辛いなら休みなさい」
「ええ。聖こそ、あまり根を詰めないように」
「わたしなら大丈夫です。身体なんて魔法でどうとでもなりますし、この広い世界には救いを求める手で一杯です。わたしはその手を一つでも多く掴みたいのです。だから休んでいる暇なんてありません」
「でも、聖は明らかに働きすぎです。いつかきっと身体を壊します」
「わたしには魔法があるから身体は壊れません。それに忙しいといってもこの身が成せる働きなど微々たるもの。わたしはもっともっと頑張らないといけないのですよ」
 聖は澄んだ笑みを浮かべる。素晴らしい心掛けだというのに、わたしは聖の言葉に寒気を覚えてたまらなかった。
「目を凝らせば、耳を澄ませば、どんな遠くにも助けを求めている人はいるのです。だからわたしは手を差し伸べます。そうしてどこまでも行き着いたその先に、わたしは世界を見出すでしょう。そこは誰もが救われて、笑顔で、平穏で、優しくいられるこの世の理想郷なのです」
 わたしは思わず叫ぶところであった。あまりにも透徹で強迫的な善意の洪水に、押し流されそうになったからだ。
 事態はおそらく一輪やナズーリンの想定を越えて最悪だった。聖は他者に施さなければならないという感情に、頑なに取り付かれていた。磨耗しきり、観念に基づき自動的であった。聖白蓮という存在はわたしの知らない間に、完璧に壊れきっていた。理想という怪物にとりつかれていた。
「星よ、お前にはいつも迷惑をかけますね。けど、いつかは終わります。誰も彼もが幸せになれば、そのときはここでゆっくりと暮らしましょう。安らかに、穏やかに」
「そう、ですね」誰も彼もが幸せになんて、なれるはずがなかった。理想的な環境であっても、人間はもっと、もっと欲しいと騒ぎ立て、満たされないままでいるに違いない。聖が施せば、助けになれば人々はますます求め、そこに際限はないだろう。聖の元に休息は永遠に訪れない。そこまで分かっていながら、わたしは聖に何も言えなかった。「わたしは、これからも聖を支えていきたいと思います」
「ありがとう。星が寺を護ってくれるから、わたしは安心して出かけることができます」
 その言葉を聞いて、胸中に後悔の念が湧いた。わたしが頑張れば頑張るほど、聖は後顧の憂いなく外に飛び出していく。そうしてますます、救われるべき人々を見る羽目になるのだ。つまるところ聖が他利の権化になったのは、わたしにも責任があるということだ。
 聖を抑えるならば、わたしは渋るべきだったのだ。聖がいなければ駄目だという振りをしなければならなかった。しかし、わたしがどうして聖にそんな我侭を言えただろう。
 それから聖は、手を差し伸べたものたちについて、逐一つぶさに語り始めた。人間、妖怪を問わず聖はその全てを克明に覚えているのだった。これもまた人間業ではなく、聖は魔法を使って可能な限り記憶を拡張しているのだと思った。それがまた、聖の強迫観念をいよいよ強めているに違いない。わたしは聖の行いを聞くのが苦しくてたまらなかった。何度やめさせようと思っただろう。でも活力に溢れ、己の道を確信している聖に、迷ってばかりのわたしが何を話せようか。学び舎となる船上に妖が集い始めてようやく、わたしは聖から解放された。
「夜のお務め、頑張ってください。では、わたしはこれで」
 心にもないことを口にし、わたしは聖の部屋をゆっくりと後にし、大きく息をついた。そして緊張が解けると、わたしの身体はがたがたと震え始めた。
「わたしは怖いのか?」そう自問し、強烈な嫌悪と共に首肯する。「ああ、怖いのだ。わたしは聖が怖い。慈悲に憑かれた聖が怖くて仕方ない」
 適当な木の根本によりかかり、わたしは息を荒げた。誰でも良いからわたしに、この酷い有様から抜け出す術を教えて欲しかった。
「誰か、誰でも良い! 答えてくれ。これは余りにも酷いではないか。聖が何をした! あの人は限りなく優しいだけなのだ! それのどこが罪なのだ? それとも、それが罪なのか? 際限なく他者に手を差し伸べられる、それが、それがどんなことよりも重い罪だと言うのか!」
 わたしは地面に拳を叩きつけた。れきと粒の粗い砂の混じった土はわたしの手を容赦なく傷つけ、血を流させた。答えが得られるのであれば、腕一本くらい失っても構わなかった。しかし実際にやってきたのはわたしの愚考を制止する冷たい声だった。
「無意味なことはやめてください、ご主人」
 わたしは力を振り絞って戒めを解こうとした。しかし法力でも用いているのか、ナズーリンは片手でわたしを悠々とねじ伏せて地面に転がした。おそろしいくらいの早業であった。
「なあ、ナズーリン」手足が動かなければ、次には口が動き、目の前の部下に問いかけていた。「お前はわたしなどと比べものにならないほど賢い。だから教えてくれ。聖が慈悲と共に壊れていくのを、どうやって止めれば良いのだ」
「それは、わたしに問うべきではありません。己に問うてください」ナズーリンはあくまでも冷静で手厳しかった。わたしの甘えを許してくれなかった。「聖の他己主義を越える何かでしか、彼女を止めることはできません。しかしそれももう遅いのです」
「遅い、だって?」猛烈に嫌な予感がして、わたしは鸚鵡返しに訊ねていた。「まさか、聖は退治されるのか?」
 そうでなければ良いと思った。しかしナズーリンは間髪入れずに大きく頷き、わたしの希望を打ち砕いた。
「いくつもの訴状が既に発せられています。地主から、富める者から、はては貧しい土地を耕す農民からもです」
 最初の二つまではまだ何とか耐えられた。しかし最後の一つに、わたしは抗う力を完全に失ってしまった。
「慈悲を縁に(よすが)人心を惑わす妖(あやかし)を、早急に討つべし」
「そこまで知っているならどうして止めなかったんですか?」
「止めたからこそ内容を知っているのです」ナズーリンはそう力なく言った。「わたしはただ安穏としていたわけではないのですよ。聖を陥れる可能性があるものを、権限や裁量の及ぶ限りで監視し、阻んできました。黄金の色香を嗅がせ、口を塞ぎました。そうそう、わたしのように貧相な身体を欲しがるものもいました。同士たちには汚いものに牙を立てさせてしまいましたね」
 ナズーリンの告白に、わたしには最早言葉を返す気力もなかった。わたしが仏の代理として安穏としていた裏で、ナズーリンは水際にて孤軍奮闘していたのだ。
「しかし聖は既にわたしの把握できる範囲を超えている。同じような訴状はいつか都に届き、武勲を立てようと鼻息を荒げているものたちの目に留まることでしょう。あるいはかつて帝を平癒させた功績と相殺されるかもしれません。しかし人間は大恩すら容易に忘れる生き物です。望みは薄いと思われます」
 ナズーリンの冷静な分析が、右から左に抜けていく。それでいて状況が絶望的に近いことを、わたしは理解していた。それでもわたしは望みに縋らずにはいられなかった。
「何とか聖を説得して、ここから離れてもらうことはできませんか?」
「できたとして、この寺は妖を匿った罪で取り潰されるでしょう。それを知った聖がここから離れるわけがありません」
 他のものは関係ないと口にしたかった。しかし人間は同門を同じ罪で裁くと知っていたから、強弁することができなかった。
「では、わたしはどうすれば良いのだ?」
 するとナズーリンは、おそらく最大限の譲歩を見せてくれた。一つの道を示してくれたのだ。
「仏の怒りの、代弁者になるのです。この意味は必ず、ご主人自身で見つけてください」
 ナズーリンの言葉は、あるいは陥穽の類であるかもしれない。それでもわたしはその言葉に従うよりほかないように思われた。
 
 翌日よりわたしは務めの空いた時間を、そのことだけ考えて暮らした。仏の怒りの、代弁者。その物騒な響きから、わたしはまず不届きものを懲らしめれば良いのだと考えた。聖を魔女と糾弾するものたちを仏の代理人として都度追い払う。しかしすぐにきりがないと気付いた。のみならず、やがては魔女の手先であると難癖をつけられ、共に退治されかねない。すると次に考えられるのは、聖の善行を世に偏く説いて回ることであった。
 少ししてそれも難しいと結論した。人手があまりにも足りないし、そもそも聖の偉業を彼らは実際に見聞きしているのである。その上で聖を魔と判断したのだ。だから寺のものがかけずり回ったとしても、効果は極めて薄いと考えざるを得なかった。
 早くも八方塞がりになり、特に収まるところのない参拝客も相俟って、杞憂という一語すら浮かびそうになった。しかし一月ほど経ったある日、それがぱたりとやんだ。
 それと前後してきな臭い人間の気配が寺の周囲を覆うようになった。探るような、殺意のような、実に嫌な視線なのだ。そのことを察したのか、数日後に村紗が不安そうな顔で訊ねてきた。
「ねえ、これ、大丈夫なのかな。聖は心配しなくて良いって言うけど、嫌な予感がするの。参拝客もぴたりとやんだし」
 わたしは村紗に何も答えることができなかった。最早、気休めでどうにかできる段階を遙かに越えてしまったからだ。
「わたしね、本当に何かしてあげたいんだ」村紗もやはり聖の透徹な善意に疲れているのだろう。幽霊らしい陰気さがいつのまにか彼女を包んでしまっていた。「でもね、駄目なんだ。聖はどんなに頑張っても疲れない。肩や腰を揉みほぐしてあげることもできないし、心配の言葉をかけると何倍にも返される。服を繕ってあげられないし、髪型一つ乱れない。そうしてただ一人で飛び出していく。わたしは船が飛び立った後を茫洋と見守るしかない。そして聖は何も変わることなく戻ってくる。留守番していたわたしを誉めてくれる」
 身体があれば涙を流していただろうというくらいに顔を歪めていた。幸せと恐怖を同時に語っていた。己の至らなさをただ一身に嘆いていた。
「陸に上がったわたしには何の力もない。だから聖に何もしてあげられない。ねえ、星……わたしには何ができる? こうして幸せで何もせず、わたしはどう購うことができると言うの?」
 困惑げに揺れる瞳はまるで荒れた海のようであった。村紗は聖に感謝を抱いていると共に、犯した罪を強く悔いている。おそらくは聖についていくことで、何かの役割を果たすことで、埋め合わせるものがあると期待していたのだろう。しかしそれは完璧に裏切られてしまった。村紗は力があっても無力な幽霊の一体に過ぎないのだ。それが村紗の心をおそらくはずたずたに苛んでいた。それでもわたしには村紗に安らぎを与えてやることができなかった。優しい偽りの通用する時期はとうに過ぎている。
「すみません。わたしですら、何もないのです」わたしはただ、村紗の曖昧な身体をそっと抱き寄せて、ぐずぐずした子供をあやすように頭を撫でることしかできなかった。「聖にしてあげられることが、何もないのですよ」
 このまま二人で悲しみを共有し、思う存分に慰め合いたかった。しかし寂しさに疲れるのはわたしだけで、村紗は幽霊だから眠ることなく一人で取り残される。だからわたしは村紗に寄せた腕をそっと離し、滲みかけていた涙を拭った。
「わたしはわたしにできることをします」
 答えになっていないことは明らかであった。しかし村紗の胸に迫るものはあったらしい。彼女は聖と船のない船着き場に戻っていった。そうしてわたしは改めて決意する。聖のためだけでなく、村紗のためにも。この寺に住むものたちのためにも、わたしは仏の怒りを代弁することが何であるか思考を巡らせた。何が何でも見つける必要があった。
 しかし精神論だけで何かが生まれないことは明白であり。ただ月日だけを浪費し、不穏な空気がますます寺の周りを覆い始めた。聖の元に通っていた妖怪もそのことに気付いたのか、ある夜から姿を現さなくなった。そして翌日の朝、村紗が血相を変えてやってきた。
「これ、聖には見せなかったんだけど……」
 村紗が持ってきたのは狐が化けるのによく用いられる種類の葉であり、生臭い液体で怒りに震えたであろう文字が綴られていた。
『裏切り者の人間め、わたしはお前を決して許さないだろう』
 これが妖怪の総意であるかは分からない。だが、少なくとも彼らの一部は不穏な気配を感じ、聖が人間たちと手を組んだに違いないと考えたのだ。それは翻って人間たちのほうでも、聖を妖怪に与する輩と捉えた可能性が高いということだ。わたしは手紙を厳かに受け取り、懐に入れた。他には誰にも見せないことにした。もうそれくらいしかわたしにできることはなかった。できるだけ聖が傷つかないように。でも世界の全てが敵と知れば、聖はどのみち平静ではいられないだろう。わたしのやったことは誤魔化しに過ぎなかった。そのうちに四方八方から楚の歌でも流れてくるのではないかと、わたしは怖ろしくてたまらなかった。
 実際に現れたのは、歌でなく使者であった。聖の船が日の出と共に飛び立ち、日没と共に帰ってくることを確信したのだろう。日の盛んな時分を狙い、数人の屈強な兵士を伴って、寺の門を叩いたのだ。そのことを青ざめた様子でやってきた僧から知り、慌ててかけつけると辺りは一種、騒然とした状態となっていた。
「この度は、いかなる用向けでありましょうか? 参拝ならばわたしがご案内致しますが」
 わたしが声をかけると、使者は融和そうでいて癖のある顔つきを遠慮なく向けてきた。
「あなたがこの寺の住職でありましょうか?」
「いえ、その立場にあるものならば今は不在です」
「その方は先程、空飛ぶ船に乗り、飛び立たれた?」
 わたしが頷こうとすると、使者は慌てて首を横に振った。
「相待たれよ。わたしが受け取った訴状によれば、あの船は魔性のものであり、寺のものを妖しげな力で誑かしているそうですが」
「馬鹿な!」あまりの曲解にわたしはついつい声を荒げていた。「聖はそのようなことをなさらない。ここにいるものは皆、聖の元で仏の教えを真摯に学んでいるのです」
「わたしは真偽を確かめるために日々観察を続けてきました。そして船の動きに法則性を見つけ、虎の子を求めて精鋭とともに虎の巣にやってきたのです」
 使者はこの寺が寅を縁起としていることを知り、わざとらしく虎の故事を使ったのだ。そのためにわたしの怒りはますます強くなり、すると兵士の一人が眉を潜め、使者に耳打ちした。
「失礼ですが、貴女は麗しくも人ではないようだ」
 使者はわたしの身体を値踏みするように見回し、それからわざとらしく息をついた。
「やれやれ、わたしはとんだ妖怪寺に迷い込んだようだ」その割に顔がにやけているのは、口実を見つけたからに違いなかった。「妖どもが夜な夜な寺を訪れるという話は聞いていましたが、すると醍醐帝の御身を快癒せしめた由緒ある寺が今や、魔の巣窟(そうくつ)ということになる。もしかするとここに並ぶ僧形の悉くが、妖の類ではあるまいか」
 使者が顎をしゃくると、兵士の一人が手近にいた僧の一人を帯びていた鉄の剣で貫いた。僧は悲鳴のようなうめき声をあげ、瞬く間に絶命した。
「何をする! 寺社内で殺生など、神仏を何だと心得るのだ!」
「ほう、どうやら人間だったようですね」使者はわたしの叱責を無視して白々しくそう言うと、怯え竦む僧たちにぐるりと視線を寄せた。「さて、困りましたね。この中にどれほど妖が潜んでいるのか。わたしは無知ゆえに、どう判別したら良いのか、一つしか思いつかない」
 使者は響きの良い口笛を吹き、すると少し離れたところに何十本もの矢が一気に突き刺さった。
「ま、待ってください。我々は人間です」僧の一人が声をあげ、わたしに申し訳なさそうな視線を向けた。「彼女は確かに妖ですが、寺を護る寅の化身にて、毘沙門様の教えを受けた……」
 声を上げた僧はそこまでしか喋ることができなかった。容赦のない刃の一撃で命を絶たれたからだ。ここに至ってわたしはようやく目の前の人間たちが、同類の命を奪うのに一切躊躇しないのだと気付き、僧たちを下がらせようとした。しかし使者の朗々とした声のほうが一足だけ早く発せられた。
「他に、魔女の術にかかった方はおられますか?」
 僧たちは最早一歩も動けず、ただ立ち尽くしたまま首を横に振るだけだった。そのことに満足すると、使者はうっすらと笑ってみせた。
「さて、先程の話によれば貴女は毘沙門様の使いだそうですが、本当ですかな?」
「然り。その証も帯びております」
 毘沙門様から授かった宝塔を掲げると、兵士たちは吟味するようにその光を見つめ続けた。そうしてただ溜息をつき、両の手を合わせた。使者は兵士たちの反応を見てから面白そうに手を叩いた。
「なるほど、どうやら本物のようですね。これは先程死なせた方には悪いことをしました」使者は己の筋書きを曲げられたのが気に食わないのか、眼光鋭くわたしを見据えてきた。「では毘沙門様の使いよ。貴君は何故に魔性の女が寺に蔓延(はびこ)ることを許したのですか?」
 聖はそんな人物でないと、声を大にして言いたかった。しかし周りのものが余りにも酷く怖がるので、わたしはその言葉を喉の奥に収めるしかなかった。
「沈黙ですか。なるほどなるほど、すると実に深遠な理由があるのに違いないのですね。心中お察しいたします」しかしと、使者は穏やかな口調で釘を刺した。「複数の苦情が申し立てられています。白蓮を名乗る僧侶が、善行を模して魔性を振り撒いていると。醍醐帝に縁を持つ寺であっても最早、見逃すわけには行かないのです」
 そこでと、使者はわたしに共犯者へ向けるような笑みを浮かべた。
「明日まで待ちましょう。白蓮なる魔女に縄を立て、連れてくるのです。そうすれば今回の件、不問に伏しましょう」
「連れてこない場合は?」
「残念ながら、この寺に住まうものは全て妖であり、人間は一人もいませんでした。あくまでも抗戦の構えを見せたため、我々は全力を持って寺を攻撃し、焼き討ちにしました。ええ、やむを得ない処置でした」
 使者はまるでその結末こそ望ましいという風に唇を歪めた。
「では、わたしたちはこれで失礼します。良い返事を期待しますよ」
 一方的に最後通牒を突きつけると使者たちは悠々とこちらに背を向け、寺を後にしていく。わたしはこいつらをどんなにか殺してしまいたかったけれど、思うつぼだと分かっていたから見逃すしかなかった。

 使者が去ると、寺では聖をどのように処遇するかで侃々諤々の議論となった。否、どうやってあれほどの力の持ち主を捕らえるのか。僧たちが語っていたのはそれだけであった。
 恩知らずと詰ることもできただろう。だが目の前で同胞を無惨に殺されたのだ、しかも二人である。彼らを弔うどころか埋葬すらわたしの手を借りなければろくにできなかったのだ。その屈辱感も、彼らを駆り立てているのだろう。
 やがて僧たちはいつの間にかわたしの周りに集っていた。その目はどれもが真剣であり、かつ吐き気のしそうな卑屈に満ちていた。
「寅丸様、お願いが御座います」
 わたしは返事をせず、眉間に鋭い皺を寄せた。いつもならば彼らは恐怖で背を向けただろうが、今回だけは唾を飲み込みながらも言い切った。
「我らは白蓮様を彼らに引き渡すことにしました」
「そうか。なら勝手にやるが良い」
「我らには聖のような力がありません。無力で愚かな人間です」
 その言い方は決して、自己中心的な人間のそれではなかった。少なくとも言葉を発した彼は、脅しに屈して聖を引き渡す愚を理解していた。
「しかし白蓮様を引き渡さなければ、皆が破滅します。そうすれば先代が中興したこの寺は灰塵(かいじん)に帰します」
「お前は聖者を引き渡した寺が今後も栄えると思っているのか?」わたしは唸るような低い声で訊ねた。「少なくともわたしはこの寺に幸いを与えたりはしない」
「栄えなどいらない。愚かな人間と見下しても構いません。お望みとあれば、わたしの命を取れば宜しい」彼は捨て鉢ではなく、わたしを計ろうという覚悟を持っていた。その言葉は強く、わたしをじわじわと追い詰めてくるのだった。「だからお願いです。一度だけでも良い、我らに力をお貸し下さい」
 地面に頭を擦りつける僧たちを見て、わたしはようやく分かった気がした。毘沙門様はこのような時が来るのを見抜かれていたに違いない。だからこそわたしを聖から分けたのだ。いざという時にわたしが聖と引き替えに寺を護る、その窓口となるために。そうすれば全てを失っても、聖は少なくとも寺のことで傷つくことはない。
 少なくともナズーリンはこのことを知っていたのだろう。そしておそらくは一輪も。わたしがこれから成すことこそ仏の怒りであり、わたしは代弁者に違いなかった。
 わたしは覚悟を決めて、僧たちの願いを承諾した。そしてただ一人、聖の船が戻ってくるのを待ち受けるため、船着き場へと赴いた。
 わたしは少し離れた岩場に陣取り、このことを察した聖がここに戻ってこなければ良いのにと思った。同時に一刻も早い帰還を願った。
 しばらく茫洋と空を眺めていたら、いつの間にか村紗が隣に座っていた。どうやら彼女はわたしの顔に何かを認め、話しかけずにじっと見守っていてくれたらしかった。
「ああ、すいません。気付きもしないで」
「良いの。どうせ話すことはなかったし」
 そろりと言葉を交わしたあと、わたしたちは共に無言であった。太陽が徐々に落ち、もう少しで日没という頃になるまでそのままであったが、村紗は意を決したようにもう一度声を発した。
「あのね、やっぱり一つだけある」村紗は膝を抱え、俯いたままで言った。「わたしね、船乗りになろうと思うの」
「船乗り、ですか?」船幽霊が船を操る側になるだなんて、何とも可笑しい話であった。「村紗の着ている服は確かに船乗りの服ですが」
「聖がこの服を与えてくれたのは、わたしが良い意味で船と関わるようにとの願いを込めたからじゃないかと思うんだ。それが沈めてしまったものたちへの功徳にもなるんじゃないかって。だからね、聖が帰ってきたらお願いするつもり。明日からはわたしも聖の船に乗せて欲しいって。そうしていつか遠くへ旅をするの。色々なものを見つけ、そして持ち帰るの。そのことを話してあげたら聖はきっと喜ぶに違いないわ」
 村紗はそうだよねと言わんばかりの瞳を向けてきた。わたしは「それは良い考えですね」と肯定してあげたかった。そうできたらどんなに良いことだろう。しかし明日には聖がここからいなくなる。わたしが捕らえて突き出すのだ。
 わたしの浮かぬ顔に気付いたのだろう。村紗はおそるおそるこちらを窺ってきた。
「どうしてそんな顔をするの? もしかして聖の邪魔をすると思っているの?」
「そうではありません。それだけだったらどんなに良かったことか」
 苦みを堪えながらそうもらすと、わたしは寺にやってきた不届きもののことを余すことなく話して聞かせた。そしてわたしの決断を。村紗の顔が悲しみに、次には怒りを帯びてわたしに向けられたけれど、それでもわたしは最後まで言葉を止めなかった。
「そんなの酷いよ! そりゃ、わたしだって沢山の人間を沈めてきたけど。わたしには何か言う権利がないのかもしれないけど。でも、聖は妖じゃない。罪人のように捕らえてしまうだなんて、しかも星がそれをやるだなんて!」
「酷いとは思います」そんなこと、わたしが一番分かっているのだ。「だから村紗はわたしを止めても構いません。抵抗はしませんが、言葉では止まらないこともまた、理解して下さい」
 村紗はわたしを一瞬、射抜くような目で睨みつけてきた。しかしどうしようもない現状であること、対案を提供できないと理解しているのだろう。村紗は諦めるように首を横に振った。
「事情があるのは分かった。それでもわたし、星のことを許せない」
「許しを乞うつもりはありませんし、わたしのすることはどのような理由をつけても軽蔑に値します。自由にすれば良いでしょう」
「自由にできないからこそじゃない! わたしには何もできない。だから馬鹿だと分かっているけれど、八つ当たりするしかないのよ!」
 村紗はわたしに拳を振りあげ、しかし振り下ろすことなく、黙ってこの場を立ち去ってしまった。これで良いとばかりに頷くと、わたしは聖の帰還をじりじりと待ち続けた。
 
 聖が船と共に戻ってきたのは日の沈む少し前であった。普通の船着き場と違い、船は音も衝撃もなく着陸し、山上にあって強い異質感を放っていた。聖は船から降り立つと、わたしの姿を見つけていつもと変わらぬ笑顔を向けてきた。その居姿はどこか煤けており、活力に溢れているというのにどこか落ちぶれて見えた。
「ただいま戻りました。今日は出迎えに来てくれたのですか?」
「いいえ」わたしは絆されることなく言い切った。「実は聖に報告しなければならないことがあります」
「報告ですか?」聖はわたしに一歩近づくと、微かに鼻を動かした。「今日の星からは人間の血の臭いがしますね」
「寺社内で刃傷(じんしょう)沙汰が起きました」
「それは悲しいことですね。でも、星がやったのではない。爪も歯も血臭の源ではないから」
 わたしは大きく頷き、それから改めて聖に立ち塞がって見せた。
「都からの使者が訪れたのです。聖は人心を惑わす妖として手配されており、明日までに捕らえなければ寺は焼き討ちされます」
 聖はわたしの言葉にきょとんとした様子で瞬きをし、それから小さく首を傾げた。
「わたしは確かに魔の法を操るかもしれませんが、人心を惑わしてはいません」
「今日訪れたものたちは皆がそう考えていました。そして、多くのものがそう考えています」
「多くのもの、とは?」
「聖が関わり、あるいは手を差し伸べた人間たちです」
「それはおかしくありませんか? どうして手を差し伸べたものたちがわたしを魔と糾弾するのでしょうか?」
 聖はまるで狐に化かされたように、わたしの顔を覗き込んでいたけれど、不意に何かを思いついたらしい。顔を悲しげに歪ませ、大きく溜息をついた。
「なるほど、わたしはあまりにも早く、多くのものに手を伸ばし過ぎたのですね。だから、気持ちが離れたと誤解する人が現れたに違いありません。そうですよね?」
 己の行為が何ら咎められるものではないと、聖は理屈を付け続ける。あるいは今の言葉は少しだけ当たっているのかもしれない。ほんの僅かであっても気持ちが薄れたと考えれば、恨むに十分な理由となる。しかしそれだけでは、都にまで話が持ち込まれる事態にはならなかっただろう。ほんのりとした陰口が少々といったところだ。
「でしたら明日、話して聞かせましょう。わたしは貴賤の区別をするつもりはなく、あらゆるものを平等に扱うのだと。わたしの想いを疑う必要などないのだと」
「いくら聖が説明しても納得するものは殆どいないでしょう。どうしてだか分かりますか?」
「残念ながら、わたしにはまるで分かりません。星には説明できるのですか?」
「聖が善人であるからです」わたしは間髪入れず、きっぱりと言い切った。「余りにも強く、慈悲深く、平等である。それ故に怖れるのです。聖は善の怪物なのです」
 ひたすら慕い続けてきたものに対し、このように厳しい言葉は使いたくなかった。しかし、聖の憑かれた考え方を崩すにはこれくらい激しくなければいけないはずだった。
「わたしは怪物、なのですか?」聖は何とか笑みを浮かべようとして、しかし表情は硬く強ばったままだった。「だから皆が怖れた? 誰も彼もが? もしかして、寺のものさえも?」
「その、通りです」違うと言いたかった。でも事実から目を逸らしながら聖と相対するほどわたしは器用でなく、強くもなかった。「わたしは善行に耽る聖を、心の底から怖ろしいと思ったことがあります」
「えっと、その……」聖はいつもの悠然とした態度を捨て、悪戯の発覚した子供のように恐々とわたしを見やった。「そんな風に、思われていたのですか? 星も、村紗も、一輪も、寺のものたち全てが?」
「そうです。大なり小なりの違いはあれど、考えないものはいなかったでしょう」
 聖ほどの無私無欲など、仏が衆生から距離を置き始めた昨今では到底、知る由もなかっただろう。もしかしたら彼女と並ぶほどの尊きものなら受け入れられたかもしれない。しかし少なくともこちらに手を差し伸べたものは一人もいなかった。あるいはほんの少しでも弁護してくれたかもしれないが、助力には足りなかったのかもしれない。どちらにしろわたしを含む大部分の人間や妖怪は、聖の想いを受け入れられないほど狭量なのだ。あるいは他者に対する果てのない親切に、耐えられるよう出来ていないのかもしれない。
 聖がそのことに気付いたかは分からない。ただ空を見上げ、寂しそうにもらしただけだった。
「皆がわたしを怖ろしい魔女だと考えたから、捕らわれるのですね」
「弁解はしません。わたしは仏の怒りの代弁者として、ことを成すのみです」
 わたしは宝塔を手に取り、聖の眼前に翳(かざ)す。するとその威光を示さんばかりに爛々(らんらん)と輝き出し、聖の顔を青白く染めた。
「大人しく縛についてください。わたしは聖に手を上げたくない」
 逃げだそうと考えたならば、法の光をもって容赦なく灼き尽くすつもりだった。しかし聖は両手をだらりと垂らし、小さく首を横に振るだけだった。
「誰からも厭まれるだけならば、わたしは寺のためにこの身を喜んで捧げるだけです。さあ、この身に縄を立てて下さい」
「そういう言い方をされるのは……」やめて欲しかった。少なくともわたしは今でも聖を慕っているし、本当は誰もがそうしたいはずなのだ。聖の処遇に関する限り、誰もが間違いを犯している。それは間違いないはずだった。それでいて、誰も聖の正当性を口にすることができないのだ。「本当に申し訳ありません」
「別に謝る必要はありません。それに星はわたしが怖ろしいのでしょう?」
 改めて聖本人の口から言われると、胸が痛かった。確かに怖ろしいと感じたことはあるけれど、偽りのない思慕もまた強く宿っているのだ。それすらも否定されたら、わたしはいよいよ惨めなだけだった。それだけは本当に嫌だった。そんな誤解を抱えたまま別れてしまいたくなかった。だからわたしは聖の細い体を、強く抱きしめていた。
「確かに怖れたことはありました。しかしそれでも、聖を慕う気持ちが些かたりとも欠けたことはありません。例え世界のあらゆるものが敵となっても、この世界が滅んだとしても、わたしは聖のことだけを慕い続けます」
「いけませんよ、星」わたしの強い気持ちを、しかし聖は駄々っ子を叱る母親のように優しく諫めるだけだった。「あなたは毘沙門様の代理として偏く教えを説く立場なのですから。わたし一人にそこまで執心してはなりません」
「知ったことか!」聖の言うことは耳が痛くなるほど正しかった。わたしは最早、誰か一人だけを想う立場ではない。それでも今だけは、その立場を忘れてでも伝えなければいけないことがあった。「聖は世界の全てを愛そうとしたんだ。だから誰かが、そんな聖を精一杯愛さなければいよいよこの世は嘘になる。天に背こうと地に見捨てられようと、仏の代理人であろうと、この気持ちは変わりはしない。変わりはしないのです!」
 本当は二人で、誰もいない所まで逃げたかった。そうして二人で幸せに暮らしたかった。聖をこの身に抱き、それがもうすぐ失われる寂しさで心が満ち、わたしはもう少しでそんなことを口にするところだった。でもそれは聖を苦しめるだけだし、わたしだけが聖を慕っているわけではない。村紗は聖のために新たな役割を背負おうとしていた。一輪も傍観を保っているけれど、聖のことを強く想っている。寺のものたちも、聖を生贄にしたいわけではない。
 気が付くと腕から力が抜けていた。聖はわたしから数歩下がり、ほんの少しだけ暗い表情をわたしに向けた。
「きっと皆もそう思っています。もっと沢山の時間があれば、聖のように誰かに手を差し伸べられる存在を理解できたでしょう」
「わたしは余りに急ぎ過ぎたのですね」聖は噛みしめるように言うと、小さく何度も頷いてみせた。「それに狭量でもありました。わたしはあらゆる善行が無条件に歓迎されるものだと思っていたのです。誰かのためになることは全て善いことだと考えていました。でも、違うのですね。善意も澱(よど)めば腐るのです。わたしは考えなしに余りにも与え過ぎたのでしょう」
「あるいは」わたしは聖の解釈があまりに寂しくて、だから必死で言葉を考えた。聖がそこまで間違っていなかったと言ってあげたかったのだ。そうしてわたしは根拠のない詭弁を捻り出した。「人間は決して弱くありません。だから恩を受けたら、返したいと思うのかもしれません。聖が過ちを犯したならば、それは過ぎた善行のためでなく、対価をきちんと受け取らなかったからです。少なくともわたしはそう思います」
 わたしの言っていることが正しいかは分からない。正しくなくても良い。わたしの言葉で聖の心が軽くなってくれればそれで良かったのだ。
 そんなわたしの気持ちがどこまで届いたかは分からない。聖は小さく息をつき、しばし瞑目したのち、わたしに手を差し伸べてきた。
「すいませんが、わたしを船の舳先(へさき)に連れていってください」
 ここはまだ聖の居場所なのだから、わたしに断る必要はないはずだ。けじめであるのか、わたしにどうしても一緒に居て欲しかったのか。後者であることを祈りながら、わたしは聖とともに船の舳先に立つ。そこからは山間の景色を、遙か先にまで広がる人の営みを眩しいまでに一望することができた。煌々と赤く染め上げられた空は、東から迫る濃い闇があるからこそ一層、涙が出そうになるほど鮮やかであった。
「ここに立つたび、わたしは魔界に居た頃に聞いた、一つの言葉について考えていました。世界はわたしのものである――永く一つの世界を収めてきた神の矜恃を理解できれば、わたしはこの身に仏の道を取り戻せると思ったからです」
 わたしは聖がかつて、同じようなことを言っていたのだと思い出した。けど、聖が心の底からそれを信じて邁進していたとは知らなかった。否、わたしは気付くべきだったのだろう。聖は滅多に冗談を言う人ではないのだから。
「世界は誰のものでもありません」
こんなことを言っても遅いのは分かっていた。それでも、わたしは言わずにいられなかった。
「当然ながら世の権力者のものではなく、神仏のものですらない。聖は素晴らしい御方ですが、それでも過ぎた考えであると思います」
「そうですね。わたしは傲慢でしたし、思い違いをしていました。魔界の神はあらゆるものに手を伸ばせるからこそ、世界は自分のものであると言ったわけではないのです。星と話していて、わたしにはようやくそのことが分かりました」
 聖は舳先でくるりと半回転し、両手を大きく広げてみせた。逆光の中に浮かぶその姿は神々しく、まるで紫雲でもかかっているかのような紫が元の金髪を包み込み、柔らかな色調を見せていた。聖はかつて、己の髪色として金を選んだ。然るに聖の中で再び大きな変化が起こったのかもしれない。
「これがわたしの世界なのです」聖の顔からは恍惚や忘我の類は見受けられなかったが、それでもはっきりと言い切ってみせた。「わたしはあらゆるものとの関わりを否定し、ただ一方的に押しつけてきた。誰とも繋がっていない。わたしだけのわたし。それでもやはり、世界はわたしのものなのです」
 聖はそのまま頭から仰向けに倒れ、ふわりふわりと雲のように浮いてみせた。力を使うのではなく、ただ在るがままに浮かぶ、そのような飛び方であった。
「わたしは外に規範を求めてきました。でも、外は内を自覚してこそ在るもの。繋がれなかったわたしは、ただ内に閉じこもった。お釈迦様の手から逃れようとした大聖もまた同じ誤謬(ごびゅう)を冒したのでしょう」
 聖は大きく息を吐いて地面に降り立つと、わたしの手をそっと握ってきた。
「わたしに次があるかは分かりません。おそらくその可能性はとても低いでしょう。それでももしやり直す機会があれば、内に己を見出し、ゆっくりと繋がりを育てていきたい。そうして少しずつ、世界を広げていくのです。わたしの中の世界を」
「その時はわたしももちろん、お供させて頂きます」
 わたしは聖の手をそっと握り返す。聖は喜怒哀楽の全てを一度に表したような表情を浮かべ、何度も頷いてくれた。
 お互いの繋がりをしかと感じながら、わたしは毘沙門様の代理人として、ただ一つのことだけをじっと祈ることしかできなかった。。
 聖よ、あなたに仏のお恵みがありますように、と。

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この小説へのコメント

  1. よくわからない言葉がちらほらあるのですが……
    ・「刃傷(じんしょう)沙汰」とありますが、普通は「にんじょうざた」と言いますよね。古語とかで前者の読み方の例があったりするのでしょうか?
    ・「他己主義」とありますが、そのような言葉は存在するのでしょうか? 辞書には無いですし、れっきとした学術用語であるという確証が得られそうな文献も見つかりませんでした。

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