東方二次小説

こちら秘封探偵事務所第12章 心綺楼編   心綺楼編 プロローグ

所属カテゴリー: こちら秘封探偵事務所第12章 心綺楼編

公開日:2019年03月10日 / 最終更新日:2019年03月10日

ひとときは人間の里の初夏だった。希望は失われ、里には厭世観が満ち、人々の表情は憂いに曇り、どの顔も倦怠に縁どられ、大通りを「ええじゃないか」と踊り狂う里の人々や、大きな茶色い毛玉のように狸が密集する里の外に押し寄せる妖怪たち。
 それから宗教家たちの乱闘が人間の里を横切った。熱い人妖の大乱闘。まるで誰かが炊飯釜の蓋をあけっぱなしにしたようだった。空と陸と地下のあいだで、宗教の熱気が脈を打った。希望が満ち、きらきらと光りはじめた。厭世観は吹き飛んだ。憂いの表情は消え去った。人々は踊るのをやめた。
 宗教戦争の夏。そのことばが、希望を取り戻した人間の里に蝟集した人々の口から口へ伝わった。宗教戦争の夏。人々は、人垣から身を乗り出して、弾幕ごっこを見守った……。

 ――と、何の脈絡もなくブラッドベリの『火星年代記』で話を始めたことに、特に深い意味はない。早苗さんが口走る今世紀初頭のサブカルネタみたいなものと思ってもらいたい。
 ともかく、第一二八季の夏は宗教戦争の夏だった。宗教家と宗教に関係ない者とが各地で人気を奪い合い、信仰を集め、希望を失った人々の拠り所となっていった、狂乱と退廃の夏。後に残ったのは、突然の能楽ブームである。
 あのひとときの狂騒は、いったい何だったのか。
 今回の我らが《秘封探偵事務所》の活動記録は、まさにその物語である。

 なぜ、あれほど人間の里に厭世観が満ちたのか?
 そしてなぜ、あれほど盛りあがった宗教戦争は不意に終息してしまったのか?
 人々はもはや、あの狂騒の夏を忘れ去ろうとしている。全ては夏の暑さが見せた幻影だったかのように。だが、確かにあの夏、人々は希望を見失っていたのだ。
 この記録は、あの夏の狂騒の裏で起きていた、知られざる異変の物語である。

 そしてもちろん、毎度ながら今回も、我が相棒、宇佐見蓮子の誇大妄想的推理の記録を兼ねる。ひょんなことからこの夏の隠された異変を追うことになった私たちは、その異変の《真実》を知ることになるが――もちろん、我が相棒がそれで満足するはずはない。
 どこまでも謎を追い求める私たちは、やがて思わぬところに辿り着くことになるが――おっと、これ以上語ってしまっては興ざめというものだ。

 今回の記録の趣向は、言うなれば《犯人当て》ということになろうか。
 ――犯人は、幻想郷および幻想郷と行き来ができる世界の中にいる!
 容疑者が全く限定されない《犯人当て》という、予め破綻したミステリである。
 それでも今回の事件簿に挑まんという読者諸賢がもしもおられるならば――。

 犯人は、貴方の知っている誰かかもしれないし、知らない誰かかもしれない。
 私が言えるのは、それだけだ。

 では、語り始めるとしよう。
 宗教戦争の夏、その裏で起きていた異変の真実をめぐる物語を。

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この小説へのコメント

  1. あぁーーー!遅れてしまった…orz
    今回もたのしみです!

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