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オリジナル小説逆運の神子第一章 神の子   神の子 プロローグ

所属カテゴリー: 逆運の神子第一章 神の子

公開日:2016年12月21日 / 最終更新日:2016年12月21日

プロローグ

 いつか夢に見たとおりの、星降る夜だった。
 天から落ちてくる星は、ひとつやふたつではない。十や二十でもきかない。もっともっと多くの、数え切れないほどたくさんの星粒が、尾を引きながら地に吸い込まれてゆく。
 その様子を、少女は、遮るもののない広漠なる草原の真ん中に立って、じっと眺めていた。
(こんなにもきれいで、でも、こんなにも不気味な空を直に見るの、初めてだわ)
 際限なく星を降らせる天空の頂を見上げてから、ゆうに半刻は経つ。秋の夜は冷え込みもきつい。それでも少女は、根気よく見上げ続けていた。
 夢のとおりなら、このあと大変なことになる。わたしがわたしでなくなるという、大事件が起きる。それでわたしは、わたしでなくなったわたしは――。
 ぶるりと大きく身体が震えた。寒さと予感のせいだと思った。
 その瞬間、少女に、ある閃きが訪れた。
 そうだ。ここから離れてしまえばいいんだ。
 幕屋に戻ってしまえば。戻って眠ってしまえば、きっと。きっと、夢は現実に何の痕も残さず消えていってくれる。わたしは今までどおり、じいじといっしょに暮らしていける。
 決めた。ここから離れよう。すぐにじいじのお布団に潜り込むんだ。
 そう、少女が一歩を踏み出そうとしたとき、頭上から馬のいななきが聞こえた。
「へ?」
 裏声が出た。なんでお馬さんの鳴き声なんかが?
 顎を突き出して、上を向く。馬の顎が見えた。
 目だけを左側に寄せると、手綱が見えた。
 首も動かして左を向くと、骨ばかりの手が見えた。
 人だ。老婆だ。空から降ってくる星と同じくらい真っ白で、新品の金貨くらい金ぴかな刺繍のはいった、すごく立派な服を着ている。どこかのお偉いさんだろうか。
(あ、いけない。道をゆずらないと)
 じいじにの言いつけを思い出した少女は、慌てて馬から距離をとった。
 馬を見かけたら、すぐに退きなさい。誰かが乗っていたとしても、すぐに道を譲らなければならないよ。はねられてしまうかもしれないからね。
「おやまあ。驚かせてしまったかしら」
 聞いたことのない、柔らかな声音だった。しっとりとしていて、耳に心地がよい。
「い、いえ。あの」
 なんと答えていいかわからず口ごもると、
「私はね、ココというの。知っているでしょう?」
 いいえ、知りません。初めて会います。
 そう答えようとして、できなかった。
 知ってる。わたし知ってる。だって、夢で会ったもの。顔は覚えていなかったけれど、名前は覚えている。
 ココ。私はね、ココというの。神の口の代わりを務めているの。見た目はただのおばあさんですけどね、なんてことを言っていた。
「私も知っているわ、貴方のこと」
 名前を囁かれ、今度こそ少女は心臓が止まる思いをした。
 夢の中では名前を教えてなかったのに。夢が現実になったとして、どうしてわたしの名前を知っているの?
「ほら、こちらにいらっしゃい。なにも怖くありませんよ。私は貴方を迎えに来ただけですから」
「むかえに……?」
「そうよ。私の可愛い――」
 馬が近寄ってくる。馬と一緒に近寄ってくる。星のように輝いた老婆が。そして、その白い手を差し出してくる。
「今日から貴方は、この私、ココの娘になるの。神の代弁者(くちきき)として」
 しわにまみれた顔をいっそうしわだらけにして、老婆はにっこりとほほえんだ。

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